《レベル・サーティーン 13 "13 GAME SAYAWNG"★★★(2006年,タイ)


 熱心な仏教国タイで作られたかなりダークというか,衝撃的というか,そんな映画。私はスプラッターとかゴア映画は別にいくら見ても大丈夫なんですが,こういう人間の精神を追い詰めていくような映画はちょっと苦手でして,もう一度観たいかと問われたら「絶対にイヤ」と速攻で答えますね。

 ちなみにこの映画を作ったのはまだ26歳の新人監督ですが,物心ついた頃からテレビゲームが身近にあった世代の発想という感じがします。ちなみに,この映画に目を留めた《キル・ビル》のプロデューサーが全米配給権とリメイク権を手に入れたらしいです。


 主人公のプチットは楽器メーカーに勤める普通のサラリーマンだが,売り上げが悪くリストラを受けたばかり。そればかりか,ローンは返せそうにもないし,預金通帳にも金は残っていない。それなのに,母親からは妹の学資を振り込んで欲しいと言われている。

 そんな八方塞がりの彼の携帯電話が鳴り,出てみると聞き覚えのない声が「おめでとうございます。あなたはゲーム参加者として選ばれました。これから出る13のゲームに挑戦し,一つクリアするごとに賞金が銀行口座に振り込まれ,見事に全問クリアしたら総額1億バーツ(日本円では3億4千万円ほど)を手にできます。しかし,途中で失敗したりゲームを放棄すれば1バーツも手にできません」という内容だった。そして最初のチャレンジは「新聞紙で蠅を叩き落とせたら1万バーツ!」であり,彼は簡単に成功する。

 すると直ちにまた携帯電話が鳴り,「その蠅を飲み込めば5万バーツ獲得!」と伝える。そしてゲームの内容はどんどん過激になっていき,そのたびに獲得賞金は増えていくが,死者が出たことから警察が動き出してしまう。やがて,プチットがゲームに挑戦する様子がインターネットの闇サイトで放送され,それを楽しむ視聴者がいることが明らかになり・・・という映画です。


 この手の「有料闇サイトでの違法行為を楽しむユーザーがいて・・・」というのは《ブラック・サイト》など,数年前から増えてきた気がしますが,基本設定として舞台を現実社会にするか,全くの架空世界でのファンタジーにするかでかなり違ったものになりますが,この映画は前者になります。

 こういう現実社会を舞台にした映画の場合,観客に不自然さを感じさせては失敗です。不自然さを感じさせてしまったら,映画全体の設定が崩れてしまうからです。

 そういう点でこの映画は明らかにミスをしています。「主人公のプチットの行動をどうやって監視してるんだろう?」とか,「これほど大がかりな罠が本当に張れるなんておかしいよ」とか,そういうところに気がついてしまうと,所詮は作りもの,リアルさゼロになってしまうのです。例えば最初の「蠅叩きミッション」ですが,プチットがどこで蠅を殺すかは予測不能のため,会社全体に監視カメラを仕込んでおくとかしなければいけないはずです。しかも,小さな蠅を間違いなく殺したことを確認できるような高解像度カメラが必要ですから,通常の監視カメラ程度ではダメなんですね。しかし,現実的に考えれば,こういう高解像度カメラをプチットの会社のあらゆる箇所に仕込んでおくなんて,絶対に不可能なはずです。


 そしてその後,どんどん要求がエスカレートするたびに巻き込まれる人間が多くなり,道具立ても大がかりになり,ますます現実感を喪失していきます。

 例えば,この映画の見せ場の一つ(?)である「○○料理(?)」なんて「うわぁ,そんなにアップで見せるなよ」と言いたくなりますが,これを実際にやったら他の客から苦情殺到ですよね。となると,このゲームは他の客は一切ロックアウトしないと成立しないんですよ。実は私,このあたりから「嘘くさい映画だな」とシラケてしまいました。それなら最初から,架空世界・バーチャルリアリティの中のゲームとして作り始め,次第に現実との境目がなくなっていく,という設定にした方がよかったような気がします。

 あと,道に張った洗濯物干しロープにバイクの兄ちゃんたちが突っ込んで頭ちょん切れ,というお笑いシーン(あの位置で頭蓋骨は絶対に切断できないぞ)も見せ場の一つですが,都合よくバイク集団が来てくれなかったらミッション不成立になるはずです。このあたり,ゲームの主催者はどうするつもりだったのでしょうか。


 それから,途中の数字がらみのミッションがちょっと雑過ぎます。ミッション8の「8に関係する物で8に関連する人間を殴り倒せ」というのは数字がしっかりと書いてあって謎でも何でもないし,ミッション9の「3つの数字が手がかり」というのも単なる病室の番号で捻りも何もありません。

 要するに,「13」という数字にこだわりすぎたのが間違いだったような気がします。無理矢理13のミッションを考える必要が生じ,ミッションごとのばらつきが大きくなり,途中で中だるみしてしまったのです。おまけに,最後の方で,実はこのゲームにはプチットの○○も参加していることが明らかになり,幾つかのミッション(例:○○中華料理,犬ごろしなど)は○○がらみのものだったことが明かされます。しかしそうなると,井戸の死体ミッションとか病院ミッションはそれとは無関係ですから,そもそもプチットと○○とのゲームであるという前提が成り立たなくなってしまいます。それだったら,ミッションの数を○○がらみの7つか8つに絞って,プチットが次第に過去の出来事を思い出していく,というのと絡ませるべきだったと思うし,そちらの方がストーリーの奥行きが出せたような気がします。


 ちなみに,この映画はいずれハリウッドでリメイクされるのかもしれませんが,その際,この映画の中の幾つかのミッションは御法度ネタでしょうし(例:犬を殺しちゃうシーン),○○料理のシーンもハリウッドでは一瞬しか映さず,口に入れるシーンもなしになるんじゃないかと予想されます。また,ラストシーンも違ったものになるんじゃないでしょうか。

 ちなみに,この映画を見て最後まで気になったのは,ヒロイン役のプチット君の同僚女性です。彼女はオカマちゃんとルームシェアしているのですが,そうなると彼女もニューハーフなんだろうか,と考え込んでしまうのです。何しろ彼女,顔立ちはきれいだけど可愛い系じゃなくてむしろ「男前」系なんですよ。私にとっては,この映画最大の謎でした。

(2011/06/14)

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