アメリカ製の駄目パニック映画やクズ・モンスター映画には共通点があります。親子とか兄弟とかの人間関係を必要以上に盛り込んでいることです。この映画はまさにその典型例。おまけに,ある親子の葛藤と別の兄弟の葛藤を合体させています。天丼にカツ丼を合体させたようなもので,おなかにもたれます。でも大丈夫なんです。モンスター君があっさりしているからです。オイオイ,そんなところでバランスをとってどうするんだよ,工夫するなら人間関係でなくてモンスターだろう,という抗議の声が四方八方から出まくっています。ま,そういう映画です。
舞台は大海原に浮かぶ石油採掘所(リグ)。ここで,無人探査機で海底を探査中,不思議な噴煙が上がっているところを見つけて近づきますが,そこで大きな魚のようなものがぶつかり,カメラは故障。
このリグで働くのがフレディと彼の弟。お兄さんのフレディはベテラン作業員で周囲から一目置かれていますが,弟君の方はリグで最年少ということもあり,次第に不満が募ってきて,ついに配属願いを出してリグを出ます。
一方,そのリグを急速に発達したハリケーンが襲い,外部との連絡が取れなくなります。リグの責任者ジムはその事態に対処しますが,気になっているのは同じリグで働いている一人娘のキャリーが部下とつき合っていること。ジムの目から見ると,この男はまだ信頼が置ける存在ではなかったからです。
そんなリグで一人の作業員が行方不明になります。そしてジムも何者かに襲われ,大量の血痕を残して姿を消します。その時,リグ内のモニターを見ていたキャリーの目に,不思議な生き物の姿が映し出されます。
外部に逃げられない状況下のリグに閉じこめられた作業員たちは一人,また一人と殺されるが・・・という映画でございます。
大海の中にポツンとあるリグ,そして外は巨大ハリケーン,逃げるに逃げ出せず,外からの救援もなし。そういう密室状態で襲ってくるモンスター・・・というのはこの手の映画の定番中の定番の設定です。新鮮味なんてカケラもありません。登場人物を見ていると,恐らく最後にキャリーとその恋人が生き残ることは予想できます。となると,残りの興味はせいぜい,最後にどうやってモンスターを倒すか,何人生き残るか,そして,モンスターの造形はどうか・・・くらいしかありません。
逆に言えば,映画の作り手に求められているのは,モンスターの斬新なデザインと,モンスターの弱点が何かと言う基本設定部分です。そういう意味で,この映画は根本からダメポちゃんなんですね。モンスター自体がまるっきり駄目だからです。2010年作成というのにCGを全く使わないのはある意味英断といえますが,それだったら,モンスター造りに力を入れてくれないと困るのです。ところがなんと,このモンスターは着ぐるみなんですよ。しかもチャチ! 頭部の形はそのまんま有明名物のワラスボです。しかも,着ぐるみの出来がよくないためか,動きがなんかぎこちないんですよ。着ぐるみの中の人,動きにくいのによく頑張っているよね,と逆に気の毒になるくらいです。
しかも,このモンスター君が何者なのか,最後まで不明。海底油田で暮らしている生物なのか,体が燃えちゃって倒されますが,最後にモンスターを倒した人間がなぜ「こいつは火が弱点だ!」ってわかったのか,最後まで説明なし。おまけに,海底油田で暮らしていた生物が地表にいきなり上がってきたら,急激な水圧の差で動くどころじゃないよね,と変なところが気になる始末。
おまけに,「外は巨大ハリケーン」という設定だったのに,途中からそれを忘れてしまったらしく,天気が悪いのは最初の方だけで,真ん中あたりから晴天になります。オイオイ,基本設定を忘れちゃ駄目だろ。
最後,予想通りにキャリーちゃんが助かり,助けにやってきたヘリに救出されるのですが,この時点ではまだモンスターは倒されていないのですよ。なぜ,途中でキャリーちゃんを襲ってこないんだよ!
なぜ,キャリーちゃんを襲ってこなかったかというと,最後に登場するじいちゃん(ウィリアム・フォーサイス)に花を持たせるためですが,この映画を見た人の何人が,このじいちゃんが何者かを覚えていたか疑問です。なぜかというと,このじいちゃん,最初にちょこっと出ただけで,その後は一切登場しないからです。なぜこのじいちゃんが最後に活躍して(といっても,銃を撃つだけですけどね),美味しいところをかっさらっていくのか,誰にもわかりません。
そうそう,最後にいきなり,あの「ヘタレの弟」が登場しますが,その登場の仕方も「いきなり感・無理矢理感」たっぷりでした。しかも,誰しも死んだと思っていた○○は生きてるし・・・。
というような映画でしたが,唯一の美点はヒロインのキャリー役の若い女優さんが美形なこと。「背中だけヌード」のサービスシーンも1ヶ所だけあります。この女優さんが出ていなければ,途中で見るのを止めちゃったかもしれません。
そういえば,最初の犠牲者が出るシーンでベートーヴェンの「交響曲第7番の第2楽章」が非常に効果的に使われています。ここだけはよかったな・・・ベートーヴェンの音楽が!
(2011/06/21)