とてもいい映画である。楽しくてホロリとさせて、しかも見ているだけで元気と勇気が湧いてくる英国製のコメディー映画だ。ちなみに実話に基づいていて、本物のカレンダーは1999年に発売されたそうだ。チャーミングなおばちゃんパワーに拍手喝采!
舞台は英国ヨークシャーのネイプリー。古きよきイギリス文化の伝統が残る風光明媚な田舎町である。ここでは主婦たちの集まりである婦人会の活動が活発で、毎週木曜日に教会(?)に集まっては賛美歌を歌い、輪番で「我が家の秘伝のジャムのレシピ」やら「ブロッコリーのおいしい料理法」を発表し合っていた。
しかし、そんな会合にうんざりしていたのがクリス(ヘレン・ミレン)とアニー(ジュリー・ウォルターズ)の仲良しコンビであり、主婦会のリーダーとクリスはことあるごとに対立していた。婦人会の恒例行事であるカレンダー作りが議題にあがり、例年通りの代わり映えのしない企画が提案されるが、クリスには面白くない。
そんなある日、アニーの最愛の夫ジョンが白血病で亡くなってしまう。ジョンは婦人会で話す予定だった原稿をアニーに渡していたが、そこには「花は盛りを過ぎてからが一番美しい」というジョンの言葉が書かれていた。その言葉を聞いたクリスは、ジョニーが入院した病院にお礼の気持ちを込めて待合室にソファを寄贈しようと提案し、そのための資金稼ぎのためにとんでもないことを思いつく。婦人会のカレンダーを自分たちのヌード写真を載せて売りまくろう、というとんでもない計画だった。
とは言っても、クリスもアニーもその他のメンバーも50代の中年おばちゃんであり、もちろん、他人の前で裸になったことはないし、そんなことを考えたこともない。しかし、クリスは一歩も怯まず、皆を説得していき、次第に賛同者が増えてくる。そして、ジョンの闘病生活を通じて知り合った男性看護師にしてアマチュアカメラマンのローレンスを引き入れ、ヌードカレンダー計画は次第に実現に向かって進んでいく。そしてローレンスは、彼女たちが料理を作ったり編み物をしたり絵を描いたりと日常生活の様子のヌードを撮ろうと提案し、ついに撮影が始まり、12枚のヌード写真が完成する。
クリスは持ち前の行動力でスポンサーを獲得して資金難を乗り切り、各新聞社に通知を出して記者会見の場を設定する。そしてついにカレンダーが発売されるが、初版500部は発売直後に売り切れてしまい、彼女たちは一夜にしてイギリス中の有名人になってしまう。そして、おばちゃんヌードカレンダー人気はアメリカにも飛び火し、ついにハリウッドのテレビ局から人気番組への出演オファーが舞い込んでくる。
しかしその時、ゴシップ新聞に「1月のヌード女王(=クリス)と旦那はセックスレス」などの記事が載ってしまうし、別のメンバーは夫の浮気が発覚する。そしてクリスの行動にことあるごとに反発していた一人息子がドラッグ使用で逮捕され・・・という映画である。
とにかく、おばちゃんたちのひたむきなパワーに圧倒される。作り物の映画としたって破天荒とも思える行動なのに、これはなんと実話であり、それを脚色を加えることなく再現した映画なのである。最初から行動派のクリスはもとより、カレンダーに裸身を晒したおばちゃんたちの勇気とはじけ方が素晴らしいのだ。特に、教会でピアノを弾いている万事控え目なおばちゃんが「あなたはどうするの?」と尋ねられ、「私? もちろん脱ぐわ。私、もう55歳よ。今、裸にならないでいつなれって言うの?」と答えるシーンなんて最高に痛快だ。
その結果、いつもなら300部作っても売れ残るカレンダーなのに、なんとこのヌードカレンダーは30万部売れ、総売り上げは57万ポンド(1999年のレートで計算すると9690万円!)だったという。印税10%としても1千万円近い収入である。当初17万円の革張りソファを寄贈するのが目的だったが、彼女たちは地元病院に最新の白血病治療機器(とソファ)を寄贈したというからすごいのである。
また、夫を亡くしたアニーの元に沢山のファンレターが舞い込むが、「私も夫をガンで亡くしました。抜け殻みたいになってしまいましたが、あなたたちのカレンダーを見て笑い転げました。こんな楽しい気分になったのは久しぶりです」という手紙が感動的だ。そうなのである。彼女たちのカレンダーは「女性のカレンダーで裸やビキニになるのは若くてピチピチに決まってる」という常識を逆手にとっていて、それを見ているとなんだか笑ってしまうが、彼女たちの屈託のない笑顔と上品なヌードを見ていると心の底から楽しくなってくるのだ。
それと、クリスにしてもアニーにしても他の出演者にしても、顔や首の皺を全然隠していないのである。まさしく、等身大の50代女性なのである。美熟女も美魔女も一人も登場しないのだ。それが清々しく潔い。
それにしても、最初の婦人会の退屈な発表会の様子には笑ってしまう。たぶん最初は互いに有用な情報の発表会だったと思うが、所詮は狭い地域の中での発表会であり、すぐにネタ切れになってしまうのだ。要するに、時間の経過とともにそれを続けている必然性も必要性もなくなってしまう。だが、婦人会の会長としては、ずっと続けてきた歴史ある勉強会を自分の代で終わらせるという決断はしたくないし、少なくとも次の会長に引き継ぐまでは終わらせたくない。かくして、毎週木曜日の例会は続けられ、誰も興味を持たない「ブロッコリー料理」の話を聞かされるわけだ。まさに「前例踏襲」というやつである。
実はこれ、医学の学会ではよくあることだ。例えば、あなたが所属している学会の発表はどうだろうか。ネタ切れになっていないだろうか。
これまで何度か書いたが、私は10年ほど前に山形県で褥創治療普及を目指した「山形創傷ケア研究会」を設立したメンバーの一人だが、第5回目にして見事にネタが切れてしまったのだ。だが、せっかくこれまでやってきたのに新しいネタがないからと言って研究会を終了させるわけにも行かないのだ。だから結局、第1回目のネタを焼き直して第6回目の研究会を開くことになった。これは他の学会・研究会でも同じだろうと思う。だから、「ブロッコリー料理」的な発表ばかり続くのである。
・・・な〜んてことはどうでもいい。イギリスの田舎町のおばちゃんたちの大胆でチャーミングな行動に素直に拍手を送ろう。そして,この映画を観て元気になろう!
(2011/06/29)