《ハングオーバー》★★★★(2009年,アメリカ)


 とにかく,脚本が素晴らしいというか,非の打ち所がない映画だ。救いようのない気合の入ったアホな内容のドタバタ・コメディーなんだけど,お互いに何の関係もないようにしか見えなかったエピソードや,そこかしこに張り巡らされた様々な伏線が次第に結びついていき,最後のエンドロールで一挙に全体像が明らかになるという構成は見事だ。これほど緻密に作られた映画も久しぶりだ。

 そしてこれは,総制作費35億円とアメリカ映画としては小粒で,しかもスター俳優が一人も出演していないにも関わらず,口コミで人気が広がり,最終的にはアメリカ・コメディー映画史上最高の興行収入250億円を叩き出し,その後,世界27カ国で売り上げ1位を記録し,ついにはゴールデン・グローブ作品賞まで受賞するというおまけ付き。

 ちなみに,この大成功を受けて第2作目が作られ,現在(2011年7月),公開中である。


 フィル(ブラッドリー・クーパー),歯科医のスチュ(エド・ヘルムズ)は2日後に結婚式を控えた大親友のダグ(ジャスティン・バーサ)のために,独身最後の夜に羽目を外してバカ騒ぎをするバチェラーパーティを計画していた。そして,ダグのフィアンセの弟アラン(ザック・ガリフィアナキス)を交えた男4人で乱痴気騒ぎの聖地ラスベガスに向かう。そしてベガスに到着した4人は高級ホテルの最上階に部屋を取り,「酒だ,女だ,ギャンブルだ!」と出陣式よろしく乾杯する。そして4人の記憶はここでプッツリと途切れてしまう。

 翌朝,フィル,スチュ,アランは目を醒ますが,何だかものすごい二日酔いであり,3人とも全く記憶がない。おまけに,部屋の中は滅茶苦茶になっていてなぜかニワトリが数羽走り回り,なぜかバスルームには大きなトラが居座っている。なぜか,スチュの上顎側切歯が1本抜けていて,ベッドにマットレスもない。しかも,クローゼットの中には見たこともない赤ん坊までいる。そしてなぜかダグがいない! しかもダグは明日の昼に結婚式だ。

 かくして,見知らぬ赤ん坊を抱えた3人の男たちはわずかな手がかりを元に,消えた花婿を捜すためにベガス中を走り回る羽目になるが,一つ謎が解決するたびに謎が増え,なぜか,チャイニーズマフィアから命を狙われたりして一向にダグは見つからない。時間は刻々と過ぎ,また「ダグはどこにいるの!」という花嫁からの電話もフィルにひっきりなしにかかってくる。果たして彼らはダグを見つけられ,ダグは無事に結婚式に間に合うのだろうか・・・・という映画である。


 とにかく,これはサスペンス映画としてはほぼ完璧な作品である。意表を突く冒頭の電話とその後の登場人物たちが放り込まれた途方に暮れるような状況も唖然とするしかないが,その後,謎が一つ一つ解けていくと同時に新たな謎が増えていくのである。しかも,ラスト15分を切っても「消えた花婿」は見つかっていないし,結婚式のタイムリミットは刻々と迫っていくのだ。
 これで何をどうしようっていうんだろうと思っていたら,ラストに向かって怒濤の解決があり,そしてエンドロールであれほどグチャグチャだったジグソーパズルの最後のピースがピタリと収まるのである。よくぞここまで緻密に作ったものだ。もう,脱帽するしかない力技だ。

 ましてこの映画のストーリーの底に流れているのは「男と男の友情」であり,そういう熱い心と少年の気持ちを持つ中年オッサンたちの波瀾万丈の心躍る冒険物語なのである。ここまで救いようのないバカをしているのに,決して仲間を見捨てることだけはしないのだ。その意味で,とても気持ちがいい映画である。


 それにしても,こういう気合いの入ったバカ騒ぎ,タガがはずれたようなスケールのでかいお馬鹿なことをさせたら,多分,アメリカ人にはかなわないなと思う。確かにアメリカ映画にはよく,結婚式を控えた野郎どもがストリッパーの姉ちゃんを呼んで乱痴気騒ぎをするバチェラーパーティをするシーンがあるが,何もここまで騒がなくなっていいだろうと思ってしまう。
 もちろん,私たちだって学生の頃とかにはすごーくバカなことをしたし,どれだけバカになれるかを競ったりしたが,それって20代の初めまでであって,30過ぎてもそういうバカをしないんじゃないだろうか。
 それをアメリカ人は30代半ばでも40代になっても気合いを入れてバカをするのである(・・・もちろん,スクリーンの上だけの架空の物かもしれないけどね)。そのエネルギーを他に向けたらいいんじゃないの,と言いたくなってしまうが,それを含めてのアメリカ文化,ってやつなんだろう。

 それと,アメリカのコメディ映画のお約束と言えば下ネタによる笑いであり,この映画でもイヤと言うほど登場する。しかし,そのレベルが私からするとすごーく低いのである。ウンチ,オシッコ,オナラ,お尻のオンパレードであり,お前ら,クレヨンしんちゃんか,という感じである。
 例えば,病院に行って医者に昨夜の出来事を教えてもらうシーンにしても,ここで「お尻で笑い」をとるために,不自然になってしまったと思う。だって,患者の診察中に赤の他人を診察室に入れ,しかも診察中のおじいちゃんのお尻を出させるなんて,絶対にないもの。そこまでして,爺さんのお尻を見たいものなのか,アメリカ人は?
 もしかしたら,アメリカ人ってすごく幼くないか? 何でこいつら,そこまで「ウンチ,オシッコ,お尻」に執着するんだろうか? なぜ,アメリカ人はお尻を見て笑うんだろうか? お尻って見てそんなに笑えるものなんだろうか? 私には理解できないのだ。


 そうそう,途中で本物のマイク・タイソンが登場するのには驚いたぞ。なぜタイソンかと言えば,このトラの持ち主はタイソンだからだ。そして,フィル・コリンズの曲を熱唱するタイソンはちょっと格好いいのだ。


 という具合で,アメリカ人の笑いのツボと私の笑いのツボが微妙にずれているので,全面的に楽しめなかったが,基本的には非常に綿密に作られた映画であり,コメディ映画としてこの水準のものはなかなかないと思う。一度観始めたら,2時間近く,楽しめるだろうということだけは断言しておこう。

(2011/07/19)

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