《30デイズ・ナイト》★★★(2007年,アメリカ)


 ちょっと新機軸のヴァンパイア映画。「ヴァンパイアといえば太陽光が弱点だよね。だったら,極北の極夜(白夜の反対で1ヶ月間太陽が昇らない)の村を腹ぺこヴァンパイアが襲うっていうの,面白くないっすか?」ということで作られた(であろう)作品です。このアイデアは秀逸ですね。確かにこれならヴァンパイアは強いです。怖い太陽が1ヶ月間顔を出しませんから。

 問題は,この初期設定はいいとして,その後どういう映画にするかというグランドデザインです。あなたならこういう設定を受けてどういう映画にするでしょうか。

  1. 人間が何とか隠れて30日後の日の出を待つ
  2. 紫外線を出す装置を作るとかしてヴァンパイアを倒す。
  3. 実はヴァンパイアは寒さに弱かった。

 私は途中まで見ていて,この3つのうちのどれかかと思っていたのですが,実は全部ハズレてしまいました。ヴァンパイア様ご一行が余りに強く,しかも用意周到な計画を立てて襲撃してきたこともあり,人間様が全然歯が立たないのですよ。もう逃げるしかないのです。こうなると,最後の結末をどうつけるつもりなんでしょうか。観ている方が次第に心配になってたその時,主人公がヤケクソ的な行動に出るのでございます。オイオイ,これですべて解決? それはさすがに無理じゃないっすか? あのヴァンパイア様ご一行はどっかに行っちゃったんですか?


 舞台はアラスカの最北端に近いバロウという小さな町。ここは30日間続く極夜を迎え,残留組152人を残して町を脱出し,残る人たちも準備に余念がない。

 ところが,保安官のエヴァン(ジョシュ・ハートネット)の元には次々に不思議な事件の報告が相次ぐ。大量の携帯電話が盗まれて焼き捨てられ,村唯一のヘリコプターが壊され,犬橇用の犬が惨殺されたのだ。そして,停電が起こり,通信が途絶えてしまう。そして,エヴァンの元カノのステラ(メリッサ・ジョージ)も町を出る飛行機の最終便に乗り遅れ,町に残ることになる。

 そして,暗闇の町のあちこちで住民が一人,また一人と襲われる。それは闇の世界に君臨するヴァンパイアたちの狩り(=お食事タイム)の始まりだった。

 生き残った人間たちは無人の住宅の屋根裏部屋で何とか生き延び,30日後の日の出を待とうとするが,ヴァンパイアの執拗な捜索が続き,ついに・・・という映画でございます。


 「極夜のヴァンパイア」は「砂漠のロンメル」や「瀬戸内海の村上水軍」みたいなもので,まさに向かうところ敵なしです。「太陽を逃れて夜間だけ人を襲う」なんてことがなく,「24時間闘えます」モードです。こうなると,人間の対抗手段は入り口にニンニクを吊すとか,木の杭を心臓に刺すくらいしかなくなりますが,何しろヴァンパイアさんたちは群をなして襲ってくるため「木の杭を心臓に」なんて最初から無理です。おまけに,ライフルで撃っても倒れませんから,強いの何のって。途中で人間様たちは村で唯一のスーパーに行くシーンがあるのですが,私はここでてっきり,店中のニンニクをかき集めてヴァンパイアにニンニク弾でもお見舞いするのかと思ったら,そういう作戦は誰も思いつきません。

 となると,人間様に残された手段は紫外線くらいしかありません。もちろん,ある住民がハウス栽培するのに紫外線を使っていたことを思い出したエヴァンはそれを武器にしようとしますが,敵を一人やっつけただけで電源を切られてしまい,この計画はあえなくオジャン。となると,診療所に行って殺菌用の紫外線灯でも使うのかな,と思っていたら,登場人物の誰も気がつきません。こうなると,ヴァンパイアに対する対抗手段はないも同然となります。


 おまけに,ヴァンパイアさんたちの強いの何のってモンスター級に強いです。走る車に追いつくほど早く走れるし,屋根から軽々と飛び降りるほど身は軽いし,走る車を止めちゃうほど力が強いのです。人間様はまるっきり,歯が立ちません。

 こうなると人間様にできることといったら「どこかに身を隠れてひたすら30日後の朝日を待つ」ことくらいしかなくなります。実際,この映画でも30日目の寸前まで何ヶ所か,隠れ家を転々として逃げ延びようとするんですが,その描写がまるでダメ。なにがダメかというと,映像を観ている限り,事件勃発から集結まで,1日か2日しか経っていないようにしか見えないからです。29日間の隠れ家生活となると,食料やら排泄やら様々な問題が生じますが,そういう苦労は全く描かれていません。あの狭い屋根裏部屋に6人(だったかな?)が隠れていて,排泄はどうしていたんだろうとか,水と食料はどうやって入手できたのだろうとか,そういう方面ばかり気になり,「これで30日間生存できるワケないよ」と思ってしまうのです。

 要するに,強大すぎるヴァンパイアを相手に逃げ延びる映画なんですから,こういうサバイバル生活をリアルに描かないと映画の全てが嘘になってしまうのです。このあたりが,この映画の作り手は全然全くわかっていないようです。


 このヴァンパイアさんたち同士は人間界の言葉でない言語で会話し,彼らのリーダーだけは人間の言葉が理解できるという設定で,しかも姿形は人間ですが,顔は異様にノッペリしていて,歯牙も犬歯が2本でなく,有明名物ワラスボ型です。つまり,人間社会で暮らすことは不可能な形態をしています。となると,それまで彼らはどこでどのように生活をしていたのか,なぜこの極夜の町にやってきたのか,どうやってそこまで移動してきたのか(何しろ,隣の町まで280キロ!),この町に到着する前の雪原でどうやって日光を避けていたのか,この極寒の地で普通のスーツ姿で凍えないのはなぜ・・・というようなことを説明してくれなければ,観客は納得できないと思うのです。嘘でもいいからテキトーな説明を付けるべきだったと思います。
 「極夜のヴァンパイア」という他に類例のない設定のヴァンパイア映画である以上,これは絶対に必要でしょう。

 それと,もっとも不自然なのは「バロウから連絡が途絶えた」というのにどこからも救援もやってこないこと。何しろこの町の郊外にはアラスカ原油を運ぶ(と思われる)パイプラインが通っているのです。「連絡が途絶えたけど,まぁ,いいか」では済ませられないはずです。まして最後の方で,ヴァンパイアさんたちは証拠隠滅のためにパイプラインを破壊し,漏れた原油に引火した事故に見せかけて町全体を焼き払う,という計画まで実行しているのです(ちなみに,パイプラインから漏れた原油にマッチ一本で火が引火する,というお笑いシーンがありますが,気が付かないフリをしましょう)。アラスカ油田の重要性を考えたら,すぐにアメリカ軍がすっ飛んでくるんじゃないでしょうか。このあたりは不自然にも程がありますね。

 あと,ラストで主人公のエヴァンがヴァンパイアの親玉と決闘する場面にしても,これで勝っちゃえるのでれば,ライフルで頭を吹っ飛ばせば倒せることになります。つまり,「銃で撃っても倒せない」というこの映画の大前提が崩れちゃいます。ここらについて,映画監督は気がついていないようです。


 というわけで,ヴァンパイア映画は「お日様が毎日顔を見せる世界」を舞台にしているからこそ成立していたことがわかります。太陽という最終兵器が使えない極夜の世界を舞台にしてしまうと,ヴァンパイアの身体能力がよほど低いとか,太陽光以外の弱点を持っているとか,そういう条件設定をしないと,ヴァンパイアを人間が倒せなくなってしまいますし,こういうヴァンパイアが存在するのであれば,人間に対抗手段はなくなってしまいます。その結果,映画として成立しなくなります。

 基本的なアイデアは悪くない映画ですので,ヴァンパイア側の弱点を設定するとか,サバイバル生活をもうちょっと緻密に描くとかしてリメイクしてほしい映画でございました。

(2011/07/29)

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