第二次大戦末期を舞台にドイツの皆さんが超真面目に作ったおちゃらけコメディー映画。内容は本当にどうしようもないムチャクチャなお話で,観ていて何度も「なんでやねん!」とツッコミを入れたくなるシーンの連続なんですが,なぜか細部に凝りまくっていて,潜水艦の内部とかアメリカ軍の飛行機とかかなりマジで本物っぽいのですよ。このあたりのアンバランスさというか違和感がなんともナイスです。大笑いさせられたシーンも幾つかあったし,シモネタシーンも満載です。「真面目におちゃらけ」という笑いがツボにハマる人には絶対オススメ,という立ち位置がちょっと変な映画でございました。
舞台は1944年。ドイツの占領していた地中海のどっかから「イエスの聖杯」が発見されます。イエスの最後の晩餐でイエスがなんたらかんたら,というあの盃で,所有者に勝利がもたらされるというあの伝説の聖杯,最強アイテムです。そこでドイツは地中海の港から潜水艦U-900でドイツに運ぼうとします。陸路で運ぶと連合国側の邪魔が入るためです。そこで地中海からジブラルタル海峡(ここはイギリス駆逐艦隊が海上封鎖している)の海底山脈の隙間を通るルートが選ばれ,ドイツ海軍の伝説の大尉が指揮をとる事になり,ナチス将校の大将も一緒にU-900に乗り組むことになります。そして大将自宅の2階広間でU-900作戦の計画を練っていたわけです。
一方,アメリカ大好きでお調子者の闇商人アツェ(アツェ・シュレーダー)はいつものようにナチスの大将自宅にお肉を届けに行き,ついでに大将の奥様と不倫のひとときを楽しんでいます。ところが奥様の「あの声」があまりにでかくて見つかってしまい,窓から裸で逃げ出すんですが,あっちからもこっちからもドイツ兵がやってきて逃げられず,しょうがなくてお屋敷に逆戻りし,大広間に隠れます。そこで,大将と海軍伝説の男の秘密計画を聞いてしまうんですよ。
そして,「潜水艦の艦長なんて誰だってできるさ」という言葉を聞き,潜水艦に館長と大将のふりをして乗り込み,米国に渡っちゃおうという計画を立てます。フライドポテトを作る電気ポットを持ち込んで,フライドポテト大好きなアメリカ人に売り込んで一儲けしようと考えたのです。
そして,アツェはユダヤ人青年(=アツェが自宅地下室にかくまっていた)と一緒にツーロン港(=U-900が係留されている)に向かおうとしますが,二人とも車なんか持っていません。そこで,偶然知り合った女優志願の若い女性マリアをうまく言いくるめて彼女の車でなんとかツーロンに到着。そこで,この女性に軍服を着せてドイツ人将校の変装をさせ,3人はついに潜水艦に乗り込みます。3人は果たしてバレずにニューヨークに辿りつけるでありましょうか・・・という,毎度バカバカしいお話しでございます。
別にたいした内容ではないのですが,筋書きを説明しようとすると,なぜかどんどん長くなってしまいます。理由は細部の設定に凝りまくっていて,しかも細かい伏線の全てが最後に回収され,ちょっとしたエピソードや設定にも意味があるからです。このあたりにも「超真面目なドイツ人が一生懸命真面目に作った」という様子が読み取れると思います。
もちろん,3人とも潜水艦なんて初めての素人だし,おまけに一人は若い女性の変装なんで,すぐに正体がバレそうになるんですが,何しろアツェ君が口八丁手八丁ですから,これがバレそうでバレないんですね。オイオイ,そりゃあ無理だろ,というシーンでも無理やり口先三寸で切り抜けます。このあたりはバカバカしさを通り越して爽快・痛快でございますよ。もちろん,基本がコメディーなんで危機一髪の場面になってもお気楽ムード一杯ですから,危機感はまるでゼロなんですけど,こういう肩の力が抜けまくった感じってのも悪くないです。
それにしても,ジブラルタル海峡海底の難所「ポセイドンの割れ目」で船体が引っかかって動けなくなった時のアツェ君の解決法のあまりのバカバカしさには笑っちゃいますぜ。しかも,ドイツ兵たちがアツェ君の歌に合わせて,ニコリともせずにクソ真面目な顔でピョンピョン飛び跳ねるんですよ。オイオイ,これでいいのかよってツッコミを入れたくなるけど,これで割れ目を脱出できるんだからこれでいいのだ。
ちなみに,「ポセイドンの割れ目」を抜けるためには座標が必要で,アツェ君はそれを大将宅で手に入れているんだけど,なぜかその数字は座標でなくてジブラルタル海峡にある売春宿の電話番号。「割れ目」っていうのは「あっち方面の割れ目」だったというオチがつきます。
正体がバレて3人は監禁されるんですが,それでもアツェ君はアメリカ行きの希望を捨てません。でもそのためには,縛られているロープを切り,部屋から脱出しなければいけないのですが,ここでもアツェ君の超いいかげんな計画に大笑い。君はピタゴラスイッチか? しかも,潜水艦の進路を磁石1個で変えちゃうし。
途中からCIA職員が絡むんだけど,こいつが「この聖杯は本物である」ことを黒板に数字を書いて説明するシーンは抱腹絶倒。「今日は8月9日だから足して17だろ。そして聖杯が見つかったのが14日前だからそれから14を引き,さらに港を出港した時刻が21分だから21を掛けて・・・」と,加減乗除を何度か行って23という数字を導き出し,「23の翌日に生まれたといえばわかるだろ。キリストだよ」って謎解きをしちゃうの。23を出すまでの強引な計算もすごいけど,なんで23に1を足してキリストに結びつけちゃう! この手の「神秘の数字をテーマにした映画」全てを笑い飛ばしていてナイスでございますよ。
というわけで,これまでコメディーは色々見てきましたが,この映画の感覚は他に類例がない感じですね。少なくともアメリカのコメディー映画には絶対にない雰囲気が楽しめることだけは保証します(・・・それがあなたの感性に合うかどうかはわからないけど・・・)。
(2011/09/22)