《ベルリン・オブ・ザ・デッド "Rammbock"★★★★(2010年,ドイツ)


 先日,《ジャーマン・ゾンビ》という箸にも棒にも引っかからないクズ・ゾンビ映画を紹介しましたが,同じドイツ製でもこの《ベルリン》は違います。こちらは(ゾンビ映画としては)間違いなく傑作です。(ゾンビ映画のファンには)間違いなくおすすめの作品でございます。

 何より、無名監督が撮った58分足らずの低予算映画なのにすごくよくできています。おまけに、ゾンビ映画なのにアクションシーンはほとんどなく,ゾンビ映画なのにスプラッターシーンは全くなく,登場人物はただただアパートの中を逃げまわるだけなのに,手に汗握る脱出劇になっているし,登場人物のキャラは立っているし,彼らの人間性と人間関係も過不足なく説明されているし,映画作りの基本がきちんとできています。私はどうしても,こういう低予算映画できちんと作られている作品には点数が甘いですが,この作品の数百倍の金をかけ,有名スターを集めて作られた豪華絢爛クズ映画よりは,この作品のほうが数百倍素晴らしいのです。


 舞台はドイツのベルリン。ウィーンの田舎で配管工をしているミシェル(ミシェル・フィス)は,遠距離恋愛中のガービ(仕事の関係でちょっと前にウィーンからベルリンに来ていた)から一方的に別れを告げられ,それは何かの間違いだろうと彼女を追ってベルリンに来たばかりだった。「部屋の合鍵を返すだけなんだ」と口では言っているが,未練タラタラのストーカー男だ。ちなみに前額部はハゲが進行し,体型もちょっとお腹が出始めているようで,全然冴えない中年風味の青年である。

 そして彼はガービのアパートに入るが,そこで白目を剥いて涎を垂らしてくる男に襲われる。事態が飲み込めない彼は,たまたま廊下にいた少年(テオ・トレプス)と一緒に走って逃げ,何とかガービの部屋に入ってドアを閉める。部屋にガービの姿はなく,ドアの外にはあのおかしな連中がうろついている。アパートは中庭を囲んでコの字型をしている5階建てくらいの建物で,中庭をゾンビどもがうろついている。何人かの住民がアパートの窓から顔を出し,生き残っていることがわかる。だが,食料の蓄えはないし,いずれゾンビどもが襲ってくることは火を見るより明らかだ。

 テレビをつけると「凶暴化する新型ウイルス感染が広がっていてベルリンの街に溢れかえっている。噛まれると感染する」というニュースを繰り返し流していて,それによると体内に入ったウイルスはアドレナリンと接触することで活性化し,人間を凶暴化させるらしい。つまり,鎮静剤を服用することで発症が抑えられるらしい。しかしやがて,テレビ放送も途絶えてしまう。

 しかし,ガービの部屋もやがてゾンビに襲われ,ミシェルは辛くも天井裏から屋根裏に逃げることができ,一方,少年はたまたま持っていたデジカメのフラッシュがゾンビに対する武器になることを偶然発見する。そして,アパートの生き残り4人が集まり,川岸まで行ってボートに乗り,水上を逃げようという計画をたてる。しかしその時・・・という映画です。


 低予算映画ということもあり,物語は終始,アパート内部で進行します。普通の低予算映画なら2つくらいの部屋を行ったり来たりするんですが,この映画ではコの字型をしている5階建てアパートの立体構造と部屋相互の位置関係をうまく利用しています。

 そして,アメリカ製ゾンビ映画と一味も二味も違うのは,人間がほとんど反撃せずにひたすら逃げまわるだけ,という設定。アメリカ映画だったら銃で頭を吹っ飛ばすわ,どこかで見つけてきた斧みたいなので首をちょんぎるわとやりたい放題,倒し放題となるのですが,さすがにこれはアメリカ以外では「オイオイ,何処にそれだけ武器があったんだよ。お前ら一般人なのになんで機関銃を兵士並みに扱えるわけ?」と現実離れしちゃいます。おまけにアメリカ製ゾンビ映画だと必ず,元陸軍の特殊部隊とか警察官あたりが何人か登場するんですが,この映画ではそういうマッチョ役は一人もいません。だから逆に,とてもリアルなんですよ。普通の人間がゾンビに襲われたら,このように行動するしかないよね,という感じなのです。

 そういうゾンビどもの弱点はなんと、カメラのフラッシュ。閃光を浴びちゃうとびっくりして腰を抜かしちゃう。とはいっても、所詮はフラッシュにゾンビがびっくりするだけのことで、それでやっつけられるわけではございません。だから最後にフラッシュを武器にゾンビの群の中を逃げるシーンはスリリングです。


 そして何よりいいのが、主人公のミシェル君のダメダメぶり。若禿で冴えなくて、格好悪くて、しかも未練がましいときています。アクション映画のヒーローには絶対にあり得ない設定です。しかも、そのミシェル君がウィーンから追いかけてきたガービちゃんという彼女がこれまた全然魅力的じゃないの。単なる田舎のお姉ちゃんという感じで、若くもなけりゃ、美人でおなければナイスバディでもありません。ただただ普通の太めの姉ちゃんで、あと数年で確実にオバチャン化しそうです。ミシェル君、こいつとよりを戻すためにわざわざベルリンまで来たんですよ。もう、ミシェル君が不憫で不憫でなりません。しかも、ガービチャンにはお察しのように、すでに恋人がいるわけですよ。もう、ミシェル君が不憫で不憫で・・・。そこらへんが何か妙にリアルで泣けてきます。

 対する少年は若くてイケメン風で、行動力があって勇気があります。しかも冷静沈着でピンチに陥ってもパニックにならず、生き延びるための最善の方法を探ります。だから当然、最後の方では若くてきれいな彼女までできちゃいます。若禿ミシェル君と大違いというか、ほとんど対極の存在です。普通のアクション映画、ゾンビ映画なら間違いなくこちらの方が主人公でありヒーロー役でしょう。

 そんな、ダメダメのミシェル君が最後の最後で男を見せます。必死の思いでフラッシュを取り戻すけれどゾンビに噛まれてしまい、ゾンビへの変化は時間の問題と悟ります。そこで彼は若いカップルを脱出させるためにフラッシュで武装(?)した自転車を作り、彼らを見送って自らはアパートに残るのです。格好いいぞ、若禿ミシェル!

 そんな彼の前に、ゾンビに姿を変えたガービちゃんが現れます。そんな元カノを見たミシェル君はそっと彼女を抱き寄せます。その瞬間、意識が戻ったガービちゃんが口にした言葉はなんと! ミシェル君が不憫で不憫でなりません。


 低予算映画で世界をあっと言わせ、その後、大予算映画でも傑作をとばし続ける映画監督としては、ロバート・ロドリゲスがいます。
 この映画の監督にも潤沢な予算で映画を撮らせてあげたいです。このセンスの良さなら、絶対に傑作が作れるはずです。

 というわけで、この映画には手放し絶賛モードですが、もちろん、「低予算ゾンビ映画としては」という枕詞付きの評価です。普通の映画ファンは観なくていい作品だと思いますが、ゾンビ映画ファンだったら絶対に観た方がいいです。こういうゾンビ映画も作れるのかと、思わず唸るはずです。そういう映画ファン限定で「超オススメ」です。

(2011/10/14)

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