《BANSHEE バンシー》★★(2009年,アメリカ)


 いつもいつも,アメリカ製の低予算アホバカ・モンスター映画を見てはツッコミを入れておりますが,今回もそういう低予算映画です。ま,ストーリーがそこそこまともで,クリーチャーの造形もそれほど手抜きでない分,まだマシな方ですね。

 今回登場するクリーチャーさんはバンシー (Banshee) です。もともとはアイルランドとかスコットランド北部あたりの氏神様というか守り神みたいな妖精で,本来の言い伝えでは「家族の誰かが死ぬと,その家の周りを回りながら家族を亡くした人たちと一緒に泣いて悲しんでくれる」という妖精さんです。なんだ,いい妖精さんじゃないですか。それがいつの間にか,「バンシーが泣くと人が死ぬ」と変化してしまったようです。

 ところがですね,このアホ映画ではその心優しいバンシーを,事もあろうに人を喰い殺す凶暴な怪物にしちゃったのです。しかも,アイルランドと関係のないアメリカのどっかの森に出現しちゃいます。アイルランドからの移民と一緒にバンシーちゃんもアメリカに移住しちゃったんでしょうか。そのあたりの説明は一切ございません。


 舞台はアメリカのコネチカット州のどっか。7人の大学生グループ(男4人,女子3人)が休暇を利用して森の奥のキャンプ場にやってきます。さあ,これからテントを設営して,後は食事して酒飲んでエッチだぜ,と意気込んでいた矢先,仲間に変身した怪物に襲われ,あっという間に一人殺されます。

 生き残った6人は命辛々,森の中にすむ自動車解体業者のジャックの家に逃げ込みます。ジャックの家には彼と彼の甥のロックが立てこもっていて,ジャックの妻が怪物に殺されていたのです。一方,町の居酒屋では「あれはバンシーの声だ。あれを聞いた奴は殺される!」と喚く酔っぱらいも登場します。どうやら,謎の怪物バンシーが森をうろついているらしいことがわかります。

 そのころ,町の女性警察官ジュエルは町民の一人から,昨夜から帰っていない年頃の娘の捜索依頼を受け,森のキャンプ場の入り口に車が止まっているのを発見し,キャンプ場に向かいますが,すでに娘はボーイフレンドとのエッチの最中に怪物に襲われていました。

 ジャックの家の中にもバンシーは侵入し,次々に学生たちを襲っていきます。そしてそこにジュエルも合流し,モンスターに立ち向かおうとするのですが・・・というお話でございます。


 という具合で,ごくオーソドックスなモンスター・パニック映画ですが,意表を突かれたのがアホ学生君たちが最初にバンシーに襲われるまでの展開が早すぎること。普通のこの手の映画では「冒頭,いきなりエッチをおっぱじめる馬鹿ップル登場」→「エッチの最中のモンスターに襲われる」→「キャンプ場とか別荘に卒業を控えたバカ学生の一団が到着」→「食事をして,酒を飲んで,ゲーム」→「1組は2階に上がってエッチ」→「そこにモンスター出現」→「悲鳴を聞いた残りが2階に上がると無惨な死体が・・・」というのが相場なんですが,この映画ではなんとエッチもしていないのに一人殺されます。もうそれ以降は,エッチどころではなくなります。このスピーディーな展開にびっくりというか,この後どうやって時間を持たせるんだろうかと逆に心配になる始末。


 で,バンシー君の造形ですが,古典的な悪魔に近いかな? 本物のバンシーは見たことがないんでよくわかりませんが,この手の低予算映画としては頑張っている方でしょう。ちなみにこのバンシー君は「人間を殺しちゃう殺人音波」みたいなのを出す能力があり(最後の方では,音だけで人間の頭を吹っ飛ばしちゃいます),しかもその音が人間の脳味噌に作用するらしく,幻覚っぽいのを見せてしまうようです。

 そして弱点はというと,こちらも音でして,低周波の音波が苦手のようです。つまり,武器は高周波で弱点は低周波。何となく納得できる程度の説明かな? 実はこの「怪物は低周波に弱いんじゃないの?」と言うことに女子学生の一人がかなり早い時期に気が付くのですが,その後30分以上,「低周波に弱いんならそれって武器に使えるよね」ということに誰も気が付きません。見ている方がイライラして,「おまえら,早く音を使えよ。どうせ一人,ロックグループのギタリストなんだろ。だったらそれを使えばいいじゃないか」と言いたくなります。アホ学生はやはりアホぞろいです。

 で,低周波成分をギンギンい増強したアンプを持ち出し,華麗なギターソロでバンシーを苦しめるのが70分過ぎ。これで動けなくしておいて,みんなで一生懸命に作っていた火炎瓶を投げて焼き殺すんだろうな,と思っていたら,すぐにアンプが焼き切れちゃいます。低周波の音を出すだけなら,ギターソロを演奏する必要なかったっすね。あれで電力使い切っちゃいましたね。節電がいかに大切かよくわかる名シーンです。


 こういう風に,バンシー君の能力と弱点についてはかなり詳細に説明してくれるんですが,それ以外の部分については全く完全に説明不足です。アイルランドの妖精が何でアメリカの田舎にいるのか,それがなぜいきなり人間を襲い始めたのか,あの酔っぱらいはなぜその声がバンシーの声だとわかったのか(・・・だって,聞いたら死ぬんだから,聞いたことがある人はいないはずですよね),全くわからないし,どうやって人間に擬態しているのかも不明。さらに,アホ学生たちが何でこんな山奥のキャンプにきたのか(だって,「なんでこんなところで俺たちはキャンプしないといけないんだよ」という会話があるくらいです),彼らの人間関係はどうなっているのかもほとんど不明。

 そのため,見ていても「こいつは最後まで頑張る子だな」とか,「多分,こいつが最後まで生き残ってヒロインとカップルになるんだろうな」とか,そういう展開が全く読めないのです。というか,感情移入ができる登場人物が一人もいないのですよ。こういうモンスター映画・ホラー映画は見ていて辛いですね。物語の全体像が説明されないままにどんどん話だけは進んでいくからです。観客はほとんど置いてけぼり状態です。

 多分,映画監督は「とにかく怪物が暴れ回って人間を殺しまくる映像さえ撮れれば,あとはどうだっていいんだぜ」というスタンスで撮影したんだろうと思います。だから,ろくに学生たちの人物像を説明もしないうちに怪物が襲ってくる展開にしちゃったのでしょう。ついでに,バンシーである必然性も希薄ですから,何だってよかったんじゃないかと思います。まぁ,割り切り方が潔いと言えば潔いのですが・・・。


 学生たちの最初の犠牲者がでるまではものすごいスピードで展開しますが,その後はグダグダしたテンポになります。やはり,最初に殺しすぎたために間がもてなくなりそうなことにようやく気が付いたらしく,ジャックの家でお互いの人物関係がようやく説明されますが,ここは本当に間延びしてしまい,緊張感がなくなっちゃいましたね。やはり,モンスター映画の展開の定石というやつをしっかり学んでから映画作りに着手すべきだったと思いますね。

 あとは,女子学生のうち二人(一応ヒロインみたいなのと,捜索願が出される不良娘)は美形なんで,彼女たちは及第点ですね。これで,女性警察官のジュエルがもうちょっと細身の美人だったもっと良かったな。


 というような映画です。暇つぶしになるかならないか,微妙なラインというところかな?

(2011/10/27)

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