アメリカ製の巨大生物パニック映画とくれば,十中八九,「アメリカ軍が秘密裏に生物兵器として遺伝子操作で作った怪物」と相場が決まっていますが,この映画はまさにその典型。巨大なクモが雪山のスキーヤーを襲う映画ですが,巨大クモを作ったのはもちろんアメリカ軍の委託を受けた研究者です。もちろん,「これは多くの人を助けるための研究なんだから,一人や二人死んだくらいで騒ぐな!」と言い張るお約束の研究者も登場します。
お話があまりに定石通りな点と,巨大クモが合計6匹とちょっと少なめな点と,巨大クモの犠牲者が少なめという点と,巨大クモが全然恐ろしげでない点と,ストーリーが散慢でグダグダしている点と,厳冬の雪山という設定なのにどう見ても「初夏を迎えた雪山」としか見えない点を気にしなければ,暇つぶしくらいにはなるかな,というレベルの映画です。
ちなみに,こういう素敵な映画を作ったのはティボー・タカクスさんで,《アルマゲドン2011》とか《メガスネーク》とか《クラーケンフィールド》とか,似たような傾向の作品を作っている人です。多分,これからもこういう映画を作っては楽しませてくれるんでしょう。
舞台は,どっかの山奥にあるスキー場。ここにスキー合宿のためにオリンピック候補の大学生ご一行がやってきます。そしてこのスキー場でコーチをしているのが,かつてのオリンピック選手で怪我で一線を退いたダッシュ・ダシール(ティボー・タカクス)です。一方,そのスキー場近くにアメリカ軍の研究所があり,そこで働いているのがサマー博士(ヴァネッサ・ウィリアムズ)で,ダッシュはサマー博士に好意を抱いている模様です。
サマー博士が研究室に戻ると実験室には研究員の死体が転がっているのを発見します。実はそこではクモの研究をしていましたが,クモが逃げ出したのです。その施設では「合成繊維をはるかに凌ぐ軽さと丈夫さを備えたクモの糸」で防弾チョッキを作る研究をしていたのですが,アフガニスタンで発見された先史時代の巨大クモの化石からミトコンドリアDNA抽出に成功し,その遺伝子を現在のクモの遺伝子に組み込み,巨大化させてクモの糸を沢山取ろうと計画していたのです。しかし,功を焦ったマルクス教授(=サマー博士の上司)がステロイド入りのエサを山ほど与えたために予想を超えて巨大化して食欲が旺盛になり,凶暴化してしまったのです。逃げ出したのはそういうクモだったのですよ。しかもご丁寧なことにマルクス教授は,耐寒性遺伝子までクモに組み込んでいたのです。そして,逃げ出したクモの数は6匹とわかります。
一方,ダッシュは惨殺死体を見つけ,何かとんでもない事態になっていることを知り,ロッジに急ぎますが,既にスキー客に巨大なクモが襲いかかっていました。何とかスキー客たちをロッジに避難させ,サマー博士から事件の真相を知ったダッシュは守りを固め,外部との連絡を取ろうとしていますが,電話が通じません。もちろん,事件隠匿を図るマルクス教授の仕業です。
雪山のロッジに閉じ込められたダッシュたちは果たして生きて出られるのか,そして,ダッシュは首尾よくサマー博士に愛を打ち明けられるのでありましょうか・・・という映画でございますね。
ちょっとは生物学を齧ったことがあるなら,このタイトルを見て「オイオイ,クモって節足動物だろう? 寒くなると動けないはずだよね。それなのに雪山でクモっすか?」とツッコミを入れたくなりますが,この映画はその辺は抜かりありません。なんとこの巨大クモ君たちは寒冷地仕様の遺伝子が組み込まれていたんですね。なるほど,それなら動けそうです。その結果,クモ君たちは2時間ごとに食料を食べないと動けなくなっちゃった。それで食欲旺盛なんですよ。このあたりの説明も用意周到です。
ただ,あまりに説明がしっかりしているもんだから,「ということは,外に転がっている死体をクモが食い尽くしてから2時間ロッジで頑張れば,クモは動けなくなるはずだよね」という事になってしまいますので,このあたりは観客が誰も気が付かないことを前提にしているようです。ま,気が付かないふりをしてあげましょう。
さて,この映画の準主人公はもちろん巨大クモです。普通の「巨大クモ・パニック映画」ならウジャウジャとクモが登場するんですが,この映画ではたったの6匹です。なぜ6匹とわかったかというと,研究所では6種類のクモ(クロゴケグモとかタランチュラとか)を1匹ずつを選んで遺伝子操作したからです。実際,映像的にもクモは6種類確認できます。ただ,その中に「クモの巣」を作らない種類も含まれているため,最初の「クモの糸を大量に採取して防弾チョッキを作る」という説明と整合性がなくなってしまいました。ここは素直に,コガネグモとかジョロウグモとかオニグモに遺伝子操作をしました,としとけばよかったと思います。
ちなみに,6種類の巨大クモ君たちですが,それぞれの能力を生かして襲ってくるわけじゃないので(少なくとも画像的には区別できません),「6種類のクモが1匹ずつ」という設定は不要だった気がします。
巨大クモと紹介しましたが,サイズ的には大型犬サイズでして,他の「巨大クモ映画」に比べると慎ましいサイズです。まぁ,ぎりぎりリアルっちゃリアルだけど,迫力不足は否めません。しかも,走って追ってきて襲いかかるか,せいぜい,クモの糸を吐きかけて捕まえる程度なので,恐くもなんともありません。もうちょっと,クモの口をリアルに作るとか(クモの口を拡大してみるとちょっとグロいよ),毒液を吐きかけて動物や人間を溶かすとか,そういう能力を持たせてもよかった気がします。あるいは「遺伝子操作で大量の糸を吐くようになり(実際のクモはお尻から糸を出すけどね),その糸で人間を・・・」という設定にした方が良かったと思います。
それと,この手の「モンスターに襲われてどこかに立てこもる」映画(ゾンビ映画は基本的にこのパターン)の場合,モンスターが窓を破って侵入したために「立てこもりグループ」が奥に奥にと追い詰められるとか,立てこもった中にとんでもなくジコチュウの人物(「俺がなんでお前の命令を聞かなきゃならないんだよ」と文句を言ったり,「明日,重要なプレゼンがあるので今日中に戻りたいんだ」とほざいたり,「あんなクモなんざ,俺がぶっ飛ばしてやるぜ」というマッチョバカがいたり・・・)がいて,統制が取れなくなったりするのが定石なんですが,この映画では皆さん常識人で大人しく,ダッシュ君の命令に従います。アメリカ人,いつからこんなに自己主張がなくなっちゃったのでしょうか?
それと,セリフのある登場人物が多い割には,彼らのほとんどが死なずに生き残る,というのもモンスター映画としてはなんだかなぁ,と思います。普通なら,ダッシュとサマー博士,敵役のマルクス教授,そして自信過剰で嫌味な学生君の4人が生き残って他は「その他大勢」ということで食い殺され,最後の最後にマルクス教授と嫌味学生喰い殺され,もう駄目というところでダッシュ君が元オリンピック選手としての特技を生かして・・・となるのが定石のはずですが,ロッジに立てこもるあたりから人はほとんど死なず,ほとんどは生き残ります。このあたりも,「この巨大クモ,実は攻撃能力は低いんじゃね?」という感じを持たせる一因です。
そんな訳で,生き残り約20名に対し攻撃側は6匹ですから,緊迫感が薄れてしまいました。しかも途中で,学生たちはバスで逃げますから(もちろん,例の嫌味な自信過剰君が運転してスピードを出しすぎ,自爆事故を起こすというお約束の展開はありますが),舞台がロッジ,バス,研究所と別れてしまい,その結果として6匹もクモも分散しますから,さらにクモの攻撃は迫力がなくなりました。
最後の「スケボーのハーフパイプコースにクモをおびき寄せて一網打尽だぜ」計画も迫力不足でしたね。何しろ,クモ君の生き残りは3匹だけですから・・・。やはり,モンスターの数はもうちょっと多いほうがよろしいようです。
あと,真冬のスキー場という設定にするなら,真冬に撮影すべきですね。スキー場のあちこちで地肌が露出しているし,駐車場はほとんど雪がないし,研究所の警備をしているアメリカ兵たちは半袖・短パン姿で外で遊んでいるし,どう見ても冬には見えません。
こんな感じのクモ・パニック映画ですが,観る勇気,ある?
(2011/11/25)