普通の野生の熊(グリズリー)が兄弟を襲う愛憎昼メロドラマです。動物パニック映画と思ってみると完全に肩すかしです。登場人物は4人だけで、舞台はほとんど車の中だけという低予算映画なので、80分間をどうやって間を持たせるか、映画監督はその点だけを苦心惨憺していたんだろうなぁ、とよくわかります。これでは全く間が持たないため、兄弟間の愛憎と対立とか、浮気とか、リーマン・ショックとかを持ち込んで、何とか80分映画の体裁を取り繕うことに成功しました。しかしそのため、映画自体は安っぽい昼メロになっちゃいました。結局、映画監督はいったいどういう映画を撮りたかったのか、最後までよくわからなかったです。
両親の結婚30周年を山奥のレストランで祝うため、ニックとサムの兄弟、そしてそれぞれのパートナー(ニックの妻のリズ、サムの恋人のクリスティン)を乗せた一台の車が山道を走っています。兄のニックはバリバリの証券マン、弟のサムは売れないミュージシャンです。しかし、運転していたサムは「こっちの方が近道なんだ」といきなりハンドルを切って細い道路に入ります。案の定、車は道をはずれてクラッシュ! 「こっちが近道なんだ」という道に入り込んで早く目的地に着けないのはホラー映画、パニック映画の定石でございます。
しかも、助けを呼ぼうにも携帯は通じません。周囲は鬱蒼たる森です。お約束の展開すぎて笑っちゃいます。
その時、巨大な動物が近づいてきます。巨大なグリズリーです。しかし、しっかり者の兄のニックは携帯していた拳銃の銃弾を浴びせ、何とか熊をしとめます。「何も殺すことはなかったんじゃないか? 威嚇するだけで十分だったのでは?」と弟のサムはなじりますが、威嚇射撃でグリズリーが逃げてくれるとは思えませんので、とりあえず撃っちゃう判断は良かったと誰しも思うところです。というか、サム君がそもそも脇道に入らなければ車は故障しなかったし、熊にも会わなかったんじゃないの、君が諸悪の根元だろう、と文句を言いたくなります。ちなみに、ニックが持っていた拳銃で巨大グリズリーが殺せるのか、という根本的疑問は忘れてください。
こんなとこ、さっさと逃げ出そうぜ、と思いますが、今度は車のエンジンがかかりません。で、そのままじゃ埒があかないので、兄弟は車の外に出てボンネットを開けて修理を始めます。別の熊が襲ってくるんじゃないの、と誰しも心配になりますが、兄弟はいたって暢気なもので、兄は弟に「おまえの恋人のクリスティンだけどさぁ、素敵な子だけど結婚相手には向いていないんじゃないの?」なんて説教をします。もちろん、弟は「そんなの余計なお世話だろ」と反発します。
ここらで「この映画ってグリズリーが襲ってくる動物パニック映画だったよね。昼メロじゃないよね」と心配になってきます。おまけに、車中のリズとクリスティンもなんだか険悪ムードです。クリスティンが車の中でタバコを吸おうとしたからです。リズは「副流煙はいやなの」とクリスティンのタバコを取り上げます。すると、懲りないクリスティンは今度はバッグから酒瓶を取り出してグビっと飲みます。バッグに酒びん女とは結婚しない方がいいと思うよ。
おまけにクリスティンちゃん、リズに向かって「最近、ニックと寝てないんだって? サムに聞いたわ」なんて言い出す始末。まぁ、クリスティンちゃんってこういう子なんでしょう。ちなみに、「ニックとリズは夫婦生活がない」というのは後半の展開の重要な鍵ですから覚えておくように。
そういう、グダグダした会話が延々と続くので、もう熊さんは襲ってこないんじゃないか、という気分になってきますが、もちろん大丈夫。さらに巨大なグリズリーが襲ってきます。どうやら先ほど殺した熊はメスで、今度はその旦那様のようです。怒り狂っております。しかし、すでにサムの拳銃に銃弾は残っていません。4人は車の中に戻りますが、ここでガラスを割って熊が侵入し、「悪い子はいねがぁ〜」という「なまはげ@秋田名物」のノリで「酒とタバコの悪い子@クリスティン」を引きずり出して成敗します。
とは言っても、人が殺される様子は映らないし、お約束のスプラッターシーンはありません。登場するグリズリー君は本物の熊さんを使っているからです。この熊君はよく調教されていて見事な「演技」を披露してくれますが、さすがに「人間を惨殺するフリ」の演技はできなかった模様です。
クリスティンをやっつけた熊君はどっかに行っちゃいますが、残った三人も手詰まり状態で、動くに動けなくなります。そこで、兄のニックが「俺はマラソンをしていて走るのは得意だから」という理由で、両親が待っているレストランに走って助けを求めることにします。というわけで,ニックはランニングに出発!
一方、車のサムとリズはなんだか変な雰囲気です。どうやら、二人は2ヶ月前に一度だけ、エッチしちゃったのです。サムは、いつも上から目線で話す兄への当てつけでリズを誘ったらしいのですが、どうもリズは本気のようです。実は夫婦仲が既に壊れているからです。おまけに、ニックは破産寸前で、証券取引監視委員会の査察が入ってヘタをすると逮捕されちゃうんだとか。それで夫婦仲が悪くなるって、リズちゃん、ちょっと嫌な奴です。
そういう展開を知らない兄のニックは何とかレストランの駐車場までたどり着き、自分が両親にプレゼントしたポルシェを見つけ、それに抱きつきます。ポルシェなんかどうでもいいから、早くレストランに飛び込んで事情を説明して妻と弟を助けろよ、と誰しも思ったその瞬間、お約束のグリズリー君が登場。
普通ならここで大声を上げるとか、そこらに停車している車の間をすり抜けてレストランに行くはずなんですが、なぜかグリズリー君に邪魔されたニックは回れ右をして弟たちの待つ車に逆戻り。何で君はそっちに戻る?
そして、車に戻って二人に「奴は俺たちをもてあそんで楽しんでいるんだ」と言いますが、弟のサムは「いや、違う。奴は俺たちにケジメを付けろと命令しているんだ」と言い出します。サム君は熊君から「電波」を受信した模様です。
「おい、ケジメって何だよ」と訳が分からないニック君に、リズちゃんは「実は私、妊娠しているの」と告白。サム君、「良かったじゃないか、兄貴。ずっと子供を欲しがっていたじゃないか」と他人事のように喜ぶフリ。するとニック君、「いつできた子供だ?」。するとリズちゃん、「2ヶ月前よ」。するとニック君、「俺たちは寝室を別にしてもう5ヶ月だ。俺は経理が専門だから計算できる。5ヶ月と2ヶ月じゃ計算が合わない。誰の子だ!」と詰問します。そこでリズちゃん、「サムの子供なの」と告白。この状況で「俺は経理が専門で計算ができるんだ」と威張るニック君、ナイスでございます。
うわぁ、もうドロドロの人間関係でございますよ。ザッツ、修羅場でございますよ。安っぽい昼メロ顔負けの展開です。もう、グリズリーどころの騒ぎではありません。二人は車の外で取っ組み合いの喧嘩を始めます。もう、グリズリーのことはどっかにいっちゃってます。
「二人とも、車に戻って」とリズちゃん絶叫。その時、「志村、後ろ、後ろ〜」じゃなくって「リズ、上、上」です。車の上に乗っていたグリズリーがリズちゃんを襲います。兄弟喧嘩をやめた二人はなんとか熊君からリズを助け出し、3人は車の中へ。さっきから、同じような展開が繰り返されていますが、さすがにそれではマズいと思ったのか、サム君は兄に「ごめんよ兄さん。この子は兄さんの子供として育ててくれ!」といって,愛用のギターを片手に車の外にでてグリズリーに戦いを挑みます。すると,突然,兄弟愛に目覚めたニックが素手でグリズリーに殴りかかります。ギターと素手ですから,無謀二兄弟です。
そしてリズちゃんは車の外に出て,夫(ニック)と恋人(サム)の死体を見て泣きながら歩いて行きます。でもグリズリー君は襲って来ません。どうやら,ニックとサムの兄弟が倒したとしか考えられません。めでたし,めでたし・・・でいいのかなぁ?
というような映画ですが,この映画のグリズリーくんには動物パニック映画の主役としての資質が欠けているんじゃないかと思います。今回のグリズリー君の行動をまとめると,「破壊力が特に強いわけではない」,「襲ってくるけどすぐに飽きていなくなり、攻撃が淡白」,「攻撃パターンはワンパターン」,「何が何でも人間を食ってやろうという気迫が感じられない」となり,ホラー映画の主役としてはいかがなものかと思います。もうちょっと,人智を超えた暴走ぶりを見せてくれないと,今後,この手の映画の主役は張れないと思いますね。
というわけで,「頑張れ,ベアーズ」じゃなくて「頑張れ,グリグリー」というエールを送る次第でございます。
(2011/12/06)