《オーシャンズ・オデッセイ》★★(2009年,ドイツ/オーストリア)


 多分,この映画を撮った監督は重層的で複雑な味わいを持つ本格映画にしたかったと思うのです。セリフのある登場人物はこの手の映画としてはかなり多いほうだし,登場人物の過去や背景は丁寧に説明されているし,色々なエピソードが満載です。

 しかし残念なことに,それが全く生かされていないのです。丹念に人物像や過去の背景を説明したのにあっけなく死んでしまう登場人物がいたり,逆に細かい心理描写がないために主人公とヒロインの恋愛が浮いてしまっているし,それに何よりモンスターの正体が十分に説明されていません。要するに,要素を詰め込みすぎの部分と説明しなさすぎの部分のバランスが悪すぎです。意欲が空回りした感じですね。

 ちなみに,DVDジャケットは映画の内容とは全く無関係で,こういうシーンは全然ありません。DVDジャケットで騙してやろうという意図が,逆に清々しいくらいです。


 ドイツ北部の海上に浮かぶWBO社のレフティング海上油田基地でセルゲイと彼の妻ナターシャらが作業していたが,突然プラットが傾き,ナターシャは重傷を負う。しかもその朝,ナターシャは妊娠したことを夫に告げたばかりだった。

 一方,海岸沿いの町の病院の女性医師エヴァは離婚したばかりで,別れた夫が一人娘の親権を彼女から剥奪し、それに悩んでいた。別れた夫が娘を連れて海に遊びに行く姿を見送り,彼女は病院に急ぐが,そこでは伝染病を思わせる患者が殺到していた。そして,彼女の目の前で倒れた患者はそのまま息絶えてしまう。何かただならぬ事態であることを彼女は感じる。そして患者はいずれも海水浴の直後に発症していたことを知ったエヴァは連邦環境庁に連絡する。

 一方,WBO社の女性幹部は仕事一辺倒で家庭を顧みず,彼女に愛想を尽かした夫は離婚を口にして家を飛び出たが,飛び出したところで車に跳ねられ重傷を負う。どうやら治療には多額の費用がかかりそうだ。そんな彼女に会社首脳から海上油田基地での事故の連絡が入るが,彼女はその事故を隠し通せと命じられる。2日後に油田売却の契約が行われる予定だからだ。そうすれば彼女にも500万ユーロの利益が転がり込むが,事故が起きたことがわかればもちろん契約はお流れだ。

 一方,エヴァからの連絡を受けた連邦環境庁はクランツを派遣し,エヴァから患者に付着していた粘液の提供を受けたクランツは、その町に住む変わり者の生物学者フィンに分析を依頼する。フィンはそこに未知の単細胞生物を発見し、それが病原体であることが判明する。

 その道の生命体の謎を解こうとするエヴァとクランツは,フィンの助けを借りて潜水艇に乗り込み,生命体が最初に発見された海底の油田掘削基地現場に向かうが、そこで彼らは信じられない光景を・・・という映画でございます。


 このように筋書きをまとめてみましたが,なんだかゴチャゴチャした感じだなと思われたはずですが,実際はもっとゴチャゴチャしています。映画の1/3ほどまで見ても,セルゲイとナターシャが主人公なのか,WBO社の女性幹部が主人公なのか,あるいはエヴァなのか,全然わからないからです。なぜわからないかというと,それぞれの人物像が同じくらいの比重で描かれているからです。

 例えば,冒頭の油田基地での事故シーンでは,ナターシャが妊娠していることがわかり,それをセルゲイが喜ぶ様子が丁寧に描かれています。これだけ見たら,この二人が主人公かと思ってしまいます。ところがその後,エヴァが登場し,娘の親権を取り上げられ,その原因が「あのハンブルクでの事件」だったと説明されます。この時点で,もしかしたらエヴァが主人公かなと思ってしまいます。ところがこれにWBO社の女性幹部の様子まで細かに描かれるのです。もう,誰が主人公なんだかわかりません。

 おまけに,映画の半ばを過ぎるあたりから,この「主人公みたいな人たち」が呆気なく死んだりします。ほとんど雑魚キャラ扱いです。雑魚キャラは雑魚キャラらしく描いてくれないと,見ている方が混乱しちゃうんだよね。さらに,連邦環境庁のクランツと生物学者のフィンが登場しますが,フィンのキャラが濃すぎてクランツの印象が地味なため,どうしてもフィンのほうがメイン登場人物のように見えてしまいます。もうちょっと登場人物にメリハリをつけた方がいいと思います。


 未知の生物(=病原体)についても「石油を食べる単細胞生物だけど,すぐに多細胞生物に進化し,おまけに地下で生活してきたために酸素があると死滅する」という説明は我慢できるとしても,それが病原性を発揮する説明はよくわからないし,染色体が46本という設定は全く生かされていません。と言うか,染色体数46とした意味がわかりません。おまけに,最後のほうではこの生命体は潜水艇を飲み込むほど巨大になり,金属を溶かすらしいのですが,そういう能力はその後生かされません。金属を溶かす意味はなかったような気がします。

 意味不明といえば,エヴァの娘さんが助かるのもなんだかなぁ・・・。酸素があると死滅する生命体に取り囲まれて海底に沈んでいるわけですよね。そこでどうやって呼吸していたんでしょうか。鰓呼吸でもしていたんでしょうか。

 そういえば,海で行方不明になった一人娘を助けるためにエヴァは潜水艇に乗り込むんですが,病院の仕事をほっぽり出していいんでしょうか。しかも,娘さんは海原のど真ん中で行方不明になっているわけですよ。これじゃ絶対に生きているわけないし,死体を探すにしてもどこを探すんだよ,と思います。このあたりのエヴァの行動は無茶苦茶です。


 さらに,エヴァとクランツが恋仲になるのも唐突過ぎ。エヴァ役の女優さんはきれいな顔立ちなんで,それにクランツが一目惚れするのはいいとしても,エヴァがクランツのどこに惚れたのか,なぜ惚れたのか,映画ではほとんど描かれていません。だから,最後に二人がいきなりラブラブになっても観ている方が困るんですよね。ラブラブになるならそれでいいけど,それならその過程を丁寧に描いて欲しいっすよ。


 とりあえず,次から次へと事件が起こるため退屈はしませんし,《アビス》を思わせるシーンもあってこの手の映画としては映像的にはかなり頑張っている方だと思いますが,傑作になるためには決定的に欠けているものがあるよね,というのが正直なところです。

(2011/12/08)

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