ミラ・ジョヴォヴィッチの映画をこれまで数編見ていますが,どれもこれもいまいち面白くなく,記憶に残っていません。ジョヴォヴィッチについても「美人ですぐに裸を見せたがる女優さん」という印象しかありません。この映画ではジョヴォヴィッチさんは脱ぎませんが,やはりイマイチ感が漂っています。
この映画のタイトルの The 4th Kind とは「宇宙人との第四種接近遭遇」のことです。ご存知かもしれませんが,UFO研究業界では次の4段階があると主張しています。
舞台はアラスカ州北部の町ノーム。以前からこの町では行方不明者が多数いて,FBIも何度も捜査に訪れたが行方不明者は発見できず,真相は不明だった。そして西暦200年10月,この町では不眠症を訴える患者が300人以上続出するという異常事態が発生する。彼らの不眠症を治療をするため女性心理学者アビゲイル・タイラーは催眠療法で彼らの不眠の原因を探ろうとしたが,治療の様子を撮影したビデオには異様な映像が写っていた。そして,タイラーの夫は何者かに殺害され,彼女の治療を受けた患者は銃を家族に突きつけて自宅に立てこもり,銃を乱射するという事件を起こしてしまう。そして,タイラーのみにも異常が起き・・・という映画でございます。
映画は,ジョヴォヴィッチが登場して「これからお見せする映像は実際の映像であり,実際に起きたことです。正視に耐えないような映像がありますが,これが真実です」ってなことをトークで始まります。そして,いたるところで画面を左右に分割し,実際のタイラー博士の診察風景を左側に,それをジョヴォヴィッチが再現する映像を右に移して映して同時進行させるという場面があります。「ほら,これは本当のことなのよ」と言いたいのでしょう。ところが,実際のタイラー博士とジョヴォヴィッチの風貌があまりにも違いすぎて違和感ありまくりです。そして実は,この映画で一番怖いのはタイラー博士ご本人です。目が異様に落ち凹んでいて,げっそりしていて,しかも変に無表情。夜中にこの人にいきなり出てきたら,絶対に腰が抜けてションベン漏らすくらい怖いです。
この映画が「第4種接近遭遇」があった証拠として提示しているのは次の5つです。
どれもこれも迫真的ですが,あまりに「映画の展開」に都合の良すぎる証拠映像ばかりなので,次第に「これっておかしくね?」と感じてくるはずです。それもそのはず,これは完全に映画監督がでっち上げた「事実を記録した証拠映像」だからです。このあたりについては,この映画についてWikipediaなどでちょっと調べるとわかります。アビゲイル・タイラーなる人物は実在せず,その他の登場人物も実在しないことが確かめられています。
それに,ちょっと頭を使えばわかりますが,ひとつの町で行方不明者が続出していたら絶対に話題になるし,インターネットが十分に普及していた西暦2000年にこんな「小さな町で不眠症患者多発」なんて事件があったら,絶対に「不眠症が多発する町があるってマジっすか?」という具合に情報がネットに流れるはずです。何しろ,政府の最高機密情報までネットに流出する時代なのですから。それなのに,話題にすらなっていないのですから,これは絶対に嘘なんですね。ちなみにジョヴォヴィッチさんご自身はこの事件が本当に起きたと本気で信じているみたいですけどね・・・。
宇宙人たちの言語が古代シュメール語である,というのはいいとしても,その宇宙人の会話を「シュメール語の研究者」がヒアリングできる,というあたりになるともうお笑いでしかありません。古代シュメール語は文字としては残っていますが,その発音は不明だからです(その文字を使っている民族はもういないのだから発音がわからないのは当たり前です。例えば,チェコ語の文字を見ただけチェコ語の発音はわからないのと同じです)。
更に,「証拠映像」も最初から変なんですよ。ここでいよいよ宇宙人登場か,という場面になると決まって映像が乱れるんですが,なぜか音声だけは正常に録音されているのです。宇宙人って映像記録は妨害できるけど,音声の録音は妨害できないんですかね。なんとも中途半端な宇宙人さんです。
さらに,これだけ嘘映像を流しておいて,それでも足りないとばかりに,エンドロールで「私,UFOを目撃したんです」という多数の目撃者の証言を映像付きで延々と流します。これがしつこいのなんのって・・・。これさえなければ,「宇宙人ごっこに付き合うのも悪くないね」程度で許そうと思ったのですが,これはやり過ぎでしょう。過ぎたるは猶及ばざるが如し,ですね。このエンドロールで一気に嘘っぽさが倍増してしまいました。
宇宙全体には無数の銀河があって,その銀河はそれぞれ,無数の星からできているんだから,宇宙のどこかに宇宙人がいるはず・・・と夢想するのは悪くないし個人の自由ですが,『ミトコンドリアが進化を決めた』とか『大気の進化46億年』なんて本を読むと,生物がいたとしても細菌だけで,多細胞生物なんてまぁ絶対に無理だろうと思うのです。水があってもよほどの条件がないと水はすぐに宇宙に逃げてしまって干からびてしまうし,その条件が満たされたとしても(これをハビタブル・ゾーンといいます),その条件が少なくとも20億年は続かないと多細胞生物なんて生まれないし,おまけに多細胞生物が地球に誕生したのはただの一度で,しかも極めて特殊な条件下だったことがわかっています。その条件がしばらく続かなければ,たとえ最初の多細胞生物が誕生したとしても,すぐに死滅してしまったのです。
何が何でも宇宙人の存在を信じて欲しいと考えるのはその人の勝手ですし,そういう「信仰」があっても悪くないと思います。また,宇宙人がいるという「事実」を人々に知らしめるためにはどんな嘘をついてもいい,と考える人がいるであろうことも理解できます。でも,「原理的に無理なものは無理」,「科学的にありえないおのはない」のです。私にとって宇宙人は,悪魔や妖精と同じ,おとぎ話の存在でしかありません。
(2011/12/30)