3流以下の鮫パニック映画ばかり見ていると、あの《ジョーズ》はしっかりした映画だったなぁ、鮫もすごい迫力だったよなぁ、と溜息をついてしまいます。《ジョーズ》以後の鮫映画はどれもこれも本家に遠く及ばない亜流以下の物ばかりです。今回紹介するこの《ディノシャーク》もそんな駄作群の中の一つです。CGもしょぼいし、無駄シーンが多いし、無駄登場人物も多いし、物語としても単調だしと、誉めるところを見つけるのが大変です。何より、主役のはずの鮫君が人をパクパクするシーンがまるでダメ。喰った人間の数がむやみに多いだけです。
何で2010年にこういう映画を作っちゃったのでしょうか。そう思ってDVDジャケットを見ると「制作:ロジャー・コーマン」ってあるじゃないですか。そうか、コーマン先生か。じゃあ、しょうがないな。というか、コーマン先生の映画としては悪くない方じゃん。
ちなみに、「地球温暖化で北極や南極の氷に閉じこめられていた古代の生物が生き返って・・・」という設定の映画、最近の流行ですね。
まず舞台は北極海。地球温暖化で氷山が溶けて崩れています。すると氷の中からなにやら魚のような物がスイスイと泳いで行くではありませんか。氷に閉じこめられていた古代鮫が生き返ったのでございます。
そして舞台は3年後のアラスカ沖。ダイバーが鮫に襲われてあえなく絶命。
そして舞台はメキシコの太平洋に面したリゾート地。世界のあちこちを旅してきたクルーザー船長のトレース(エリック・バルフォー)が久しぶりに故郷であるこのリゾート地に帰ってきて、旧友たちと久しぶりに再会。そして、この町で生物学の教師をしているブロンド美女(イヴァ・ハスパーガー)と出会います。
で、いくつかの無駄シーンを経て、サーファーを鮫がパクパクしますが、目撃者ゼロのため騒ぎにはなりません。ちなみにこの頃になると、「古代鮫って言ってるけど、これって魚竜っぽくね? チョウザメの胴体に鮫の頭をくっつけただけじゃね?」という疑問が沸々とわき上がってきますが、とりあえず先を急ぎましょう。
で、いくつかの無駄シーンを経て、ヒロインの高校教師が町の有力者(?)に呼び出されて、町のお祭りのイベントとして、彼女が指導する女子水球チームの試合を運河で行うように、強引に迫ります。しかもこのおっさんはセクハラオヤジでございまして、この先生をねらっている模様です。ちなみに、ヒロインの生物学の先生は「この映画の胸の谷間係」も担当しております。
一方、トレース君の元カノと思われる黒髪のお姉さんは一人海に泳ぎに行きますが、もちろん鮫君のお食事タイムですから食べられちゃいます。
一方、沿岸警備隊のレーダーに遭難して救助を求める船が映し出され、すぐに救助に向かいますが、全員、鮫の胃袋に直行です。そして、その光景をトレース君が見てしまいます。一方、ヒロインちゃんも友達の黒髪お姉さんが戻ってこないことを心配しています。
町に戻ったトレース君は「人を喰っているのはただの鮫ではない。見たこともない巨大な鮫だ!」と保安官たちに言いますが、もちろん全然相手にされません。酒場でトレース君とヒロインが合流したところで、テレビで黒髪お姉さんが鮫に襲われて死んだというニュースを目にします。そこで、トレース君は自分が敵を討ってやるんだと決意します。
でも、すぐには行動せず、ヒロインちゃんとトレース君は黒髪姉さんの思い出なんぞを語り合ったりします。一方で、腹ペコ青虫・・・じゃなくて腹ペコ鮫君はお食事タイム。パクパク、パクパク、人間を食べます。
トレース君とヒロインちゃんは行き当たりばったりに鮫を探そうと海に船を出しますが、海面に浮かんでいるイーパブ(救難信号を発信する装置ですね)をなぜか一発で見つけます。大海原に懐中電灯サイズの機械が浮かんでいるんですが、すごい視力です。そして、拾い上げたイーパブからそれが3,000キロも離れたアラスカで消息を絶った船の物であることが判明します。
町に戻ったヒロインちゃんはトレース君が見た鮫の形から、それが太古に生息していた巨大鮫に類似していることに気が付き、古代鮫を研究している海洋生物学者(なんと、ロジャー・コーマン先生が出演!)に連絡します。それは1億5000万年前に絶滅したはずの生物だったのです。そしてヒロインちゃんはアラスカのヨットを飲み込んだ鮫が発信器だけ消化できず、メキシコ沖で吐き出したと推理します(・・・イーパブより消化が悪そうな物をたくさん食べているのに、なぜイーパブだけ? と疑問を持ってはいけないよ)。そして、イーパブに付着しているであろうDNAを分析すれば古代鮫だと証明できるはずです(・・・1億5000万年前に絶滅した鮫のDNAがなぜわかるの? と疑問を持ってはダメだぞ!)。そして彼女はイーパブをコーマン@海洋生物学者に託します。
そのころ、トレース君は一人でボートに乗り、沖に出ます。すると都合よく古代鮫君がピンポイントで襲ってきます。もちろん、ライフル銃を乱射しますが、鮫君には何のダメージもなく、逆に追いかけられて必死で逃げます。しかし、必死すぎてスピード出し過ぎ! すると沿岸警備隊が「そこのボート、スピード違反だ。止まれ!」と警告。哀れトレース君はスピード違反で沿岸警備隊に船を没収されます。ちなみに、沿岸警備隊の隊長さんはトレース君を快く思っていない、いけ好かない野郎です。
沿岸警備隊がのんきにトレース君を取り締まっている最中にも、鮫君はこれ幸いとお食事タイム! またも目撃者がいないため、騒ぎになりません。目撃者がいない人間ばかり襲う鮫君、頭いいです。
この時点で、「ヒロインが町の有力者でセクハラおやじから、水球の試合をするように強制された」ことなんて誰も覚えていないと思いますが、有力者さんはヒロインちゃんに「水球の試合、忘れてないよね」と念を押します。ヒロインちゃんは上の空で「参加OK」と言っちゃいます。
その後、トレース君とヒロインちゃんが合流し、「運河を封鎖するネットを張れば奴を封じ込められる」と話が進みますが、「あんな奴、殺しちまえ!」と考えるトレース君と、「殺しちゃダメ! 貴重な生物よ」とするヒロインちゃんで一悶着が起きます。普通ならここで、トレース君とヒロインちゃんが喧嘩別れするところですが、この映画ではヒロインちゃんがあっさりと折れて、「貴重生物殺害」の方向でまとまっちゃいます。
そこに都合よく沿岸警備隊が登場し、トレース君とヒロインちゃんの計画を邪魔しようとします。その時、鮫君が颯爽と登場し、封鎖ネットを軽々と飛び越えて逃げ出します。敵役の沿岸警備隊隊長もそれを見ては「怪物鮫がいる」事を信じます。隊長さん、警察に連絡してヘリコプターで攻撃するよう要請します。というわけで、ヘリコプターが登場! しかし、海面から大ジャンプした鮫君がヘリに食いつき、ヘリはあえなく墜落・炎上! 鮫君は悠々と逃走。
一方、トレース君の親友は森の中の川縁を車で走っています。そこで、川面を失踪する巨大な背鰭を目撃します。もうこの頃になると、この鮫が海水魚なのか淡水魚なのか、訳が分からなくなってきますが、鮫の背鰭を見た親友君は車からロケットランチャーを取り出し、照準を定めますが、危険を察知したらしい鮫君は水中に身を隠します。「何で一般人がロケットランチャーを車に積んでいるんだよ」というツッコミはしないで下さい。コーマン先生の映画ではこれが常識なんです。
そして町ではお祭りの真っ最中。もちろん、女子高生たちの水球試合も開催されます。キャピキャピ(・・・死語)の女子高生さんたちが運河で水球をしている最中にトレース君とヒロインちゃんが到着します。ヒロインちゃん、必死に「水から上がって!」と絶叫しますが、時すでに遅し。女子高生たちはパクパクと食べられます。よい子の皆様がこれほど喰われちゃう映画って他に見たことがありません。ちなみにこの時、生徒たちを助けようとした「トレース君の親友」も喰われちゃいます。
そこに、コーマン先生扮する生物学者先生から「あやつの弱点は目じゃよ」と連絡が入ります。なぜ、DNA分析から目が弱点とわかったのかは不明ですが、とりあえず先を急ぎましょう。
目が弱点とわかったトレース君たちは「次に鮫が襲うのはビーチだ!」と急ぎますが、ビーチではすでに鮫君のお食事タイ〜ム! ざけんじゃねぇ、とトレース君は手榴弾を投擲! アメリカでは手榴弾やロケットランチャーが簡単に入手できるんだよ。
しかし、手榴弾では倒される鮫君ではありません。トレース君たちに襲いかかります。しかし、ヒロインちゃんが水中銃を放ち、それが怪物の目に命中! 目を射られた鮫君は、アキレス腱を射られたアキレスのように倒れてしまいます。
めでたし、めでたし、なんですが、「オイオイ、最初のシーンで鮫は何匹も生き返ったよね。何で一匹倒したらおしまいなんですか?」という疑問は皆が持っていると思いますが、コーマン先生御制作の映画なんであえて突っ込まない方がよろしいかと。
(2012/01/03)