《ザ・ホード 死霊の大群》★★★★(2008年,フランス)


 気合いの入りまくったフランス製のゾンビ映画。フィルム・ノワールを思わせる沈鬱で重厚な感じの導入部から,突然ゾンビの大群が襲ってくる唐突でいきなりな展開について行けるかどうかで映画の評価が決まってしまうと思いますが,私にとってはこの映画はアリです。というか,あまりのテンポの良さと景気のいい殺戮シーンの連続に呆気にとられて,気が付いたら映画が終わっていました。

 フランスのホラー映画というと《ハイテンション》とか《マーターズ》とかのように,やたらと残酷度の高いけどスピード感抜群の作品が少なくないですが,今回もそういう伝統(?)はきちんと守られております。少なくとも,ゾンビ映画が好きな人には十分に楽しめる作品,と断言しておきましょう。もちろん,ゾンビ映画もホラー映画が嫌いな人はスルーしてね。


 ストーリーはシンプルそのもの。舞台は現代のパリ。アルジェリア・ギャングに同僚を惨殺された刑事たちが復讐を誓って,ギャングたちのアジトであるビルに潜入するが,そこで激しい銃撃戦の末,刑事たちはギャングに捕らえられ,一人は無惨にも撃ち殺されてしまう。

 もはや絶体絶命,助かる術なしの状況となったその時,さっき撃ち殺した警官の死体を放置していた部屋から獣のようなうなり声と物音が聞こえる。そして窓の外を見ると,パリの街のあちこちから火の手が上がっている。死体のあった部屋のドアを開けると,そこには死体のはずの男が暴れ,襲いかかってきた。ギャングたちは銃弾を撃ち込むが生き返った死体は倒れず,何とか頭を吹き飛ばして倒すことができた。しかし,窓の外を見ると,そこにはゾンビの群が次の獲物を探してうろつき回っていた。

 そして,生き残った刑事とギャングたちは一時休戦し,協力して脱出することにしたが・・・という映画です。


 映画の冒頭はフィルム・ノワールの雰囲気を漂わせ,静かななかにただならぬ緊張感が漂う印象的なものです。そして,人間関係(女性刑事と殺害された刑事は不倫関係。夫は同僚の刑事など)が次第に明らかになりますが,ここだけ見たら本格的警察映画かフランス暗黒映画という感じです。そしてギャングのアジトへの潜入から襲撃,しかしちょっとしたアクシデントからギャングの逆襲にあって・・・という展開も無理がなく,スリリングです。特に,黒人の兄弟の弟の方が切れやすく,本当に危ない感じです。この段階に至っても,ゾンビ映画になるなんて全く予想できません。このあたりは《フロム・ダスク・ティル・ドーン》を彷彿とさせます。

 そして,いきなり突然のゾンビ登場。ここはいいですよ。フレンチ・ホラーの特徴である「スプラッター度・残酷度がかなり高め」のまま突っ走り,ハイテンション状態が続きます。しかも,ゾンビがワラワラと湧いて出るように次から次へと増えてきます。低予算ゾンビ映画とは気合いの入り方が違います。

 そして,ゾンビたちの動きがこれまた速いです。ユラユラ,のたのたと動くだけだったロメロ・ゾンビとは全く違います。おまけにこのゾンビたちが怪力ときています。もちろん,銃弾を雨あられと撃ち込んでも倒れません。要するに,死ぬ前より死んでゾンビになってからの方がはるかに強そうです。


 それに対する「刑事+ギャング」の連合軍はもちろん銃で対抗するんですが,主な武器はむしろパンチやキック,関節技を主体とした格闘技です。ゾンビ相手に関節を決めたりハイキックで頭部を吹っ飛ばすなんざ,新機軸ですよ。特に,ヒロインの女性刑事の戦闘能力は高くて,マーシャルアーツ系の身の動きは素晴らしく爽快そのもの! 「ゾンビを倒すなら銃で頭を吹き飛ばすのが常識」なんですが,マーシャルアーツでバシバシと倒していく様子は鮮烈で印象的です。

 しかし,この女性刑事が性格悪いです。最後の最後までギャングの親玉に心を許していないし,旦那の刑事も冷静・冷酷に切り捨てちゃいます。しかも,この女性刑事さんは美人でもないし,若くもないし,ナイスバディでもないし(途中でノーブラ・タンクトップで乳首がくっきり見えるシーンはあるけど)と,この手の映画のヒロインの条件(=美人で若くて巨乳系)を一つも満たしていません。しかも,最初のアジト潜入以降は完全にスッピンです。綺麗に見せてやろうなんて努力は一切していません。しかし,いきなりゾンビに襲われて逃げまどっていれば化粧なんてできるわけがなく,すっぴんで最後まで演技する姿が逆にとてもリアルでよかったです。


 で,彼女の夫の刑事が妻を助けるために,最後にウンカの如く押し寄せるゾンビの群れの前に囮になってゾンビを引きつけ,無数のゾンビの真ん中で車の上に仁王立ちになって拳銃を乱射するシーンはマジで格好いいです。その勇姿にしびれます。そして拳銃の弾が切れても,素手を振り回してゾンビどもを倒していきます。絶対に諦めないその姿に,何やら目頭が熱くなってきます。無茶を承知で強大な敵に立ち向かう姿はまさに「兄貴・漢」です。このシーンは,モーリス・ベジャール振り付けのバレエ『ボレロ』のクライマックス(中心で踊るジョルジュ・ドンに周囲のダンサーが集まるシーン)を彷彿とさせる素晴らしいシーンです。ここは文句なしの格好良さです。

 そして,この映画で最もキャラが立っていると言えば,途中から一行に加わる「戦争ジジイ」です。ギャングのアジトとなっているビルのどっかに住んでいるじいさんで,大量の武器を保管していて,襲ってくるゾンビをいかにも嬉しそうに殺しまくるのです。どう見てもまともじゃないし,脳味噌の配線がどっかイカれている感じなのですが,これが強いの何のってメタボな外見に騙されちゃいけません。やはりゾンビ映画には,こういう戦闘能力の高いいかれたジジイが必要です。

 こうなってくると,ナイジェリア・ギャング兄弟の兄が一番まともな人間に見えてくるんですよ。何しろ,一番人間味に溢れているし,仁義と約束は守るし,何より弟を守ろうとする気持ちが痛いほど伝わってきます。だから,弟を殺してムシャムシャ食べているゾンビの頭を何度も壁に打ち付けてグチャグチャにするシーンなんてマジで泣けてきます。


 というわけで,「ゾンビ映画なんて大嫌い! 暴力シーンがある映画なんて絶対に見ない!」という人以外にはオススメしちゃうのでありました。

(2012/02/22)

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