新しい創傷治療:アフロ忍者

《アフロ忍者 "Afro Ninja"★★★(2008年,アメリカ)


 映画のタイトルを見ただけで低予算・B級映画であることが解ります。もろに《ヴァンパイア侍》路線です。でも、内容はそんなに悪くありません。頑張って真面目に作っています。そして何より、格闘技シーンがとてもいいです。ブルース・リーのドラゴンシリーズへの愛に溢れています。だから、内容がどんなにハチャメチャでも、日本文化に対する理解がいい加減でも、ツッコミどころ満載のゆる〜い展開でも、私は笑って許しちゃいます。

 ちなみに、この映画の元になったのはYouTubeで大人気となった動画です。ベテランのスタントマンのマーク・ヒックス(本作の主演でもある)がナイキのコマーシャルビデオのオーディション用に私的に撮影したビデオなんですが、見事にバック転を失敗して顔面着地しちゃったんですよ。猿も木から落ちるし、本職のスタントマンだってバック転に失敗したっていいんです。でも、そのビデオをYouTubeに流しちゃった奴がいたらしいんですよ。しかもそのときのマークさんがアフロヘアにヌンチャクというおバカな格好をしていて、おまけにそれがプロのスタントマンと言うことがあっという間にバレちゃって、YouTubeの人気動画になっちゃったのです。マークさんにとっては何とも不本意な出来事です。下手すりゃ、スタントマン人生、終わっちゃいますから。

 結局、ナイキはそんなマークさんをCMに起用してめでたし、めでたしなんですが、マークさん自身もYouTubeの人気を逆手にとって映画にしちゃったのがこの作品なんですよ。


 主人公のレジーは郵便局に勤める冴えない黒人青年。上役にはいじめられるし、体型はメタボ気味だし、運動を始めると犬に追いかけるしと、いいとこがありません。

 そして今日はハロウィンです。局員は皆、思い思いの扮装をしていて、レジーは《燃えよドラゴン》のジム・ケリーを気取ってアフロのカツラの被り物姿で出勤。すると同僚の女の子が倉庫の奥から30年前に日本で出されて受取人不明となっていた小包を見つけます。そこでとりあえず保管しておこうとなりますが、その時、強盗が入り、女子職員に銃を突きつけます。彼女を助けようとしたアフロ姿のレジーはさっきの小包にヌンチャクが入っていることに気づき、それを両手に強盗の前に立ちはだかります。と、ここでレジーは格好良くバック転を決めるつもりでしたが、メタボですからジャンプに失敗し、あえなく顔面から着地。すると強盗はレジーに銃を突きつけ、手榴弾のピンを抜いて投げつけます。レジー、絶体絶命! その時、レジーの目の前に老婆が姿を現し、彼は助かります。

 翌日、レジーは友人たちからの「お前、すっかり有名人だぜ!」という電話で起こされます。なんと「バック転失敗・顔面着地」がYouTubeで流され、テレビでも取り上げられ、笑い物になっているのです。あの意地悪上司がネットに流したのです。

 ところが数日後、レジーは突然変身します。頭髪は本物のアフロになり、体はムキムキ筋肉質になって空手の達人となり、貝アレルギーだったのに寿司が食べられるようになり、おまけに読めないはずの日本語までペラペラに! 彼は日本の魂を持つ戦士、アフロ忍者に変身したのです。

 そんなレジーが、育ての親である叔母さんが経営するレストランが嫌がらせを受けていることを知ります。その裏にいるのが悪徳市長で、その手先が空手道場の主でした。叔母の店を守り、街の平和を取り戻すために、アフロ忍者は敢然と立ち上がるのでありました・・・ってなお話です。


 後半の「叔母さんの経営するレストランが・・・」というのは《燃えよドラゴン》そのままの設定だし、空手道場に乗り込むシーンもカンフー映画では定番ですが、多分、マーク・ヒックスさんはこういうカンフー映画が大好きなんでしょうね。そういう「カンフー映画♥ラブ」がいっぱい詰まっていて、しかも変な小細工もせずストレートに描いているから、この映画はバカバカしくてチープだけど、内容はチープでないのです。

 もちろん、ツッコミどころは満載です。タイトルに「忍者」とあるけど実際は「カンフー」で国が違っているし、日本人のお師匠さんが弟子に与えたのはヌンチャクだし、そのお師匠さんからの手紙が巻物なのはいいとして、その巻物を縦に持って横に読んでいるし、まぁ無茶苦茶です。でも、こういうシーンは笑って許しちゃいましょう。

 そして、カンフー・シーンは普通にいいです。きちんとしたアクションができているので嘘っぽさがないです。こういうのも見ていて気持ちいいですね。やはり、ヒックスさんはカンフー映画が大好きなんだろうなぁ。


 そういえば、西脇美智子さんが出演しています。1957年11月生まれ(奇しくも私と同い年!)なので撮影当時52歳のはずですが、美貌は昔のままだし、スタイルは抜群だし、アクションもきちんとこなしています。映画の役柄は叔母さんのレストランで働く「百恵ちゃん」で、多分アラサーくらいの設定と思われますが、それが全然不自然じゃないのです(ちなみに、デビュー当時の西脇さんは「ボディービル界の百恵ちゃん」と呼ばれていましたね)。これぞ美魔女の見本です。若作りしているなんてレベルでなく、どう見てもごく自然にアラサーです。

 もちろん、低予算映画の常として出演者の数は少ないです。悪役の経営する道場でレジーの相手をする門下生はせいぜい6人くらいだし、最後の新市長さんが演説するシーンはそこらの空き地にパイプ椅子を並べただけで、聴衆は30人もいません。ここはエキストラをもうちょっと増やした方がよかったですね。これじゃ市長の就任演説には見えませんよ。

 ちなみに、ナレーション役として古谷徹さんが出演しています。古谷さんと言えばお約束ということで、《ガンダム》とか《巨人の星》とか《聖闘士星矢》の台詞が(多分アドリブで)入っていますが、これはちょっとやり過ぎというか、ちょっとスベり気味でした。この映画は「おバカのフリをした真面目映画」ですから、こういう部分でのオチャラケは不要じゃないかと思います。


 というわけで、あまり期待しないで見ると十分に楽しめる佳作でした。

(2012/03/13)

Top Page