《プリズン211 "Celda 211"》★★★★★(2009年,スペイン)


 この映画には本当に面白かった。これほど見事に緻密に作られたサスペンス映画は久しぶりだ。2009年度のゴヤ賞(=スペインのアカデミー賞)の8部門を総なめにしたということだが,宜なるかなと思わせる。囚人の群れの中にいとり取り残された善良そうでいかにもひ弱そうな新人看守のサバイバル物語であり,男と男の友情の物語であり,裏切りの物語であり,そしてとても切ない夫婦愛の物語だ。しかも,ストーリーのどこをとっても無理がなく,話の流れは自然であり,しかも至る所に心の琴線に触れる言葉と行動があり,最後まで結末の読めない展開にあっという間に110分が過ぎてしまった。確か日本では劇場未公開だったと思うが,レンタルショップで見つけたら絶対に借りたほうがいい。見逃して後で後悔しても知らないよ。

 なお,原題は「第211監房」という意味であり,邦題もこのままにして欲しかった。《プリズン211》ではどこぞの有名テレビ映画のパチモンと思われて素通りされるのが関の山だと思う。


 舞台はスペイン国内のある刑務所。翌日から看守として務めることになったフアン(アルベルト・アンマン)は同僚からよく思われようと,前日の見学を申し出,職員たちに連れられて職場の中を案内されていた。

 しかし,見学の途中で囚人たちによる暴動が発生し,頭部を負傷して気を失ってしまう。同僚たちは彼を空き部屋だった211号室監房に連れていき介抱しようとしたが,その棟でも暴動が発生しそうなことから逃げ出してしまい,フアンはただ一人,211監房に取り残されてしまう。

 やがてフアンは意識を取り戻すが,そこは囚人たちの暴動のまっただ中だった。自分が囚人だとわかればなぶり殺しにされるのは火を見るより明らかだ。彼はとっさに「郵便局員だが人を殺してしまい,17年の刑期でぶち込まれたばかりだ」と説明する。暴動を計画した首謀者マラマドレ(ルイス・トサル)は頭にケガをしているフアンを見て,「看守に殴られたのか?」と質問し,彼は新入り囚人として受け入れられる。

 暴動を計画したマラマドレの武器は,同じ刑務所に収監されていたETA(バスク祖国と自由)のテロリストだった。なぜなら,ETAはスペイン政府にとってはテロリストだったがバスク人,バスク政府にとっては政治犯だからだ。囚人たちがETAに危害を加えるとスペインは内乱状態に陥ってしまう。だから,彼らを人質にしている限り,スペイン政府は踏み込んでこれなとマラマドレは踏んでいたのだ。

 一方,フアンには最愛の妻エレーナ(マルタ・エトゥラ)がいて,しかも妊娠6ヶ月だった。なんとしても生きて刑務所から生きて出なければいけない。前後の見境なく衝動的な行動をする囚人たちを見てフアンは,このままでは早晩,警官隊が突入し,自分の身が危ないことを知る。そして彼は次々に,生き延びるためのベストの道を必死で考えだし,矢継ぎ早に手を打っていく。当初,マラマドレはフアンに胡散臭いものを感じていたが,彼の行動が自分たちが生き延び,自分たちの要求を当局に受け入れさせるために最善の方法であることを理解する。

 政府は当初,秘密裏に事件を解決しようと考えていたが,事件はマスコミに漏れてしまい,囚人たちの家族たちが安否を尋ねて刑務所の入り口に殺到し,その中にフアンの妻,エレーナの姿もあった。家族たちを解散させようと看守たちは警棒を振り回すが,その混乱の中でエレーナは頭部に重症を負って病院に収容される。そして,フアンは刑務所内のテレビで妻が倒れる姿を見てしまい・・・という映画である。


 フアンは絵に描いたような善人顔で線が細く,どう見ても殺人犯になんか見えない。何しろ,囚人たちはスペイン中の悪人顔のおっさんと兄ちゃん大集合という感じのツワモノぞろいなのである。要するにフアンと彼らは水と油である。そういう中でフアンは,自分を殺人犯と信じてもらえなければ死ぬしかないのだ。

そういう状況下で,フアンの行動は見事だ。囚人たちが監視カメラを壊そうとするのを,「警察と交渉する際に,ETAテロリストが生きていることを見せないと,奴らは一斉になだれ込んでくる」と必死になって阻止するし,囚人たちがテロリストを殺そうといきり立っているとこに割って入って(恐らく囚人たちの家族がETAのテロの犠牲になったのだろう),「殺したら交渉材料がなくなる。俺達が本気だということを示すだけなら耳を切り落とすだけでいい」と叫ぶ。必死なのである。そしてフアンの顔つきは次第に眼光鋭く,迫力を増していく。そういう変化にしびれてしまう。

 一方,囚人たちを率いるマラマドレがこれまたいい味を出している。凄みのある殺人犯であり,前にも暴動騒ぎを起こしたことがある。囚人の待遇改善と監修による囚人への暴力をやめさせるために暴動を起こしたのだ。そして彼は頭がよく,冷酷だが人間味もあり,カリスマ性に溢れている。どういうマラマドレだからこそ,不安の正体に不信感を抱きながらも,彼の作戦は評価する。後半,フアンの正体を知ってからも,「俺達の前で堂々と囚人だと嘘をいい,堂々と行動したお前の肝っ玉はすごいぜ」と告げる。まさに男と男の友情であり,このシーン,ちょっといいのである。

 そしてまた,警察がスパイとして送り込んだ男がいて,こいつが実に巧妙に立ちまわって情報を当局に流したり,最後の最後に裏切ったりして,最後まで目が離せない展開が続くのだ。


 冒頭,一人の痩せこけた男がタバコみたいなのを吸おうとしているシーンから始まるのだが,これがなんと自殺なのだ。医学的には「そこを切ってもしなないよ」とアドバイスしたくなるが,これがかなりリアルで目を背けたくなる陰惨さと迫力だ。そして,映画の後半,これが誰なのか,なぜ彼は自殺するのかが明かされ,それがフアンの運命と重なっていくのだが,このあたりもとても切ないものがあり,深い余韻が残る。

 そして,結末がこれまたハリウッド映画とは一線を画している。アメリカ映画がこの映画をリメイクしたら,アメリカ人向けに180°異なる結末にするはずだ。そして見るも無残な娯楽映画になるのだろう。そういう意味で,こういう映画を作り,しかもそれにゴヤ賞を贈るスペイン人の感性は素晴らしいと思う。


 そういう訳で,まだ見ていない人がいたら,すぐにレンタルショップに急いだほうがいい。

(2012/04/10)

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