《ラン・オブ・ザ・デッド "Devil's Playground "★★★(2010年,イギリス)


 「ゾンビ映画としては」という枕詞はつきますが、これは結構面白かったです。腐るほどある《〜 of the Dead》映画の中では、むしろかなりいい方です。ストーリーが(ゾンビ映画としては)きちんとしているし、登場人物も十分に描かれているし、映画として押さえるべきところはきちんと押さえています。そして何より、主人公がとても魅力的であり、これぞ「漢(おとこ)」です。こういう人物造形だけで、私は嬉しくなります。


 ことの発端は "N-gen Industries" という会社がストレス社会に生きる現代人を救うために精神と肉体に劇的効果がある「新世代のエネルギー補給薬」として開発した RAK295 という新薬だった。同社は3万人の被験者に2ヶ月間隔でこの薬を投薬し、副作用ゼロと判断し、大々的に売り出そうとしていた。だがその1ヶ月後、3万人の被験者の全員に好熱、嘔吐、皮下出血、そして多臓器不全という重傷な副作用が出現してしまった。そして、N-gen社は3万人の被験者のうち1人の女性、アンジェラ・ミルズ(マイアンナ・バリング)だけ行方不明であることを知る。死んでいれば大事だし、発症せずに生き残っているのであれば副作用を抑える鍵を握っていることになる。そして同社は警備部長のコール(クレイグ・フェアブラス)にアンジェラの身柄を確保するように命令する。

 舞台は移って、ロンドンのとある刑務所。水上警察官のジョーは職務中に薬剤中毒の少年を射殺してしまい、仮釈放されたばかりだった。実は彼はアンジェラの恋人だったが、彼女の兄は「そんな乱暴な奴とは早く別れろ」と言い続けていた。

 一方、N-gen社の実験室を訪れた社長は、被験者の体に変異が生じていることを知らされる。それを直に見たいと実験室に入った社長の目の前で、被験者は異常な痙攣を起こしたあと、突如として目覚め、次々に人間たちを襲う。コールの奮闘で何とか倒すが手を噛まれてしまい、感染してしまう。そしてRAK295開発者から3本の抑制剤を渡される。万一、発症したとしてもこれを注射すれば18時間は発症が押さえられるらしい。

 一方、アンジェラとその友人もテレビで恐るべき勢いでゾンビが増殖していることを知り、兄から「アブラクソンに来い。ヘリで脱出できる」と連絡が入る。アンジェラは必死で車を走らせるが途中で故障してしまい、ジョーの知人(実はジョーの保釈金を払ったのはこの人)が経営する自動車修理工場に向かうが、ここでアンジェラとジョーは再会する。そしてそこに、ゾンビの群から逃げてきた二人、そしてコールが加わり、生き残りは6人だった。しかし、ヘリコプターは4人乗りだった・・・という映画です。


 とにかく、ゾンビの体の動きがハンパないです。跳躍力があって、体の身のこなしがしなやかで、小さな窓からでもスルリと入ってきます。まさにこれはパルクールです。イギリス製ゾンビ映画は「走れるゾンビ」が特徴ですが、まさかゾンビ映画でパルクールが見られるとは思ってなかったです。

 それほど金をかけていない映画と思われますが、そのためか、ゾンビの群が襲ってくるシーンの合間は、登場人物同士の会話シーンとなります。これで、登場人物同士の過去や人間関係がよくわかりますが、ここはもうちょっと短くてもよかったかもしれません。ちょっと中だるみしてしまったようです。

 それにしても、N-gen社は2回の投与だけで「安全性? バッチリっすよ」としたのですが、その前に動物実験はきちんとしたんだろうか、とか、いきなり3万人で臨床実験するのはさすがに無茶だろう、とか、ここらにはツッコミを入れないとまずいでしょうね。あと、この試薬の作用機序とか、体に起こる変化のメカニズムとか、唾液感染するのはなぜかとかについては、嘘でもいいから説明が必要だったと思います。でないと、3万人で1人だけ発病しないのはなぜ、という疑問が最後まで解決できません。


 それにしても、コールの格好良さと言ったらないです。彼の格好良さと首尾一貫した行動原理に、この映画のダメ・ポイントを全て帳消しにして、さらにおまけが付くくらいです。銃を自分に突きつけるジョーに「お前は人を殺せない(・・・この台詞が、ジョーが麻薬中毒少年を射殺したのが冤罪であることを示している)。それはお前の目を見ればわかる。俺は何人も殺してきた。だから、俺のようになってはいけない」と諭すシーンもシビレるし、とりわけラストの「俺は数え切れない罪を犯してきた。だが許しは乞わない。彼女(アンジェラ)は俺たちの光だ。世界を救う光だ」と独白し、チェーンソーを手にしてゾンビの群の中に向かう姿は神々しいばかりです。こいつだけはゾンビの群の中で生き残りそうな頼もしさに溢れています。

 そして、このコールに引きずられるように、それまでヘタレキャラだったジョーも、最後の最後で格好良く決めるのもよかったです。アンジェラを助けるため、そして人類の未来のために自分を犠牲にするのです。ゾンビの群にむさぼり食われる姿が悲壮にして美しいです。

 あと、こういう映画には必須の「嫌われキャラ」の二人組もしぶとく生き延びますが、最後の最後できっちりとコールが引導を渡すのも気持ちよかったです。


 そういうわけで、ゾンビ映画好きなら見た方がいいです。思わぬ拾いものでしょう。

(2012/04/13)

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