新しい創傷治療:ホスピタル・オブ・ザ・デッド 〜閉ざされた病院〜

《ホスピタル・オブ・ザ・デッド 〜閉ざされた病院〜》(2009年,フィリピン)


 最近,アジアの新興国製のホラー映画を見かける機会が多くなりました。欧米のホラー映画と一味も二味も違う,いかにも湿度の高そうなジメッとした怖さに風土の違いがあったりして,面白い映画が結構あります。

 というわけで,今回はフィリピン製のホラー映画なんですが,これがなんとも箸にも棒にも掛からないクズ映画でした。褒めるところを頑張って探したんだけど,一つも見つからないんですよ。爪の垢ほどの美点も見つけられません。これほどのダメダメ映画は久し振りです。

 とにかくストーリーがすごくわかりにくいのが致命的です。その上,展開は遅いし,無駄シーンは満載だし,ホラー映画のくせに怖くないし,モンスターはワアワア騒いで無駄にうろついているだけだし,登場人物の言動も行動も首尾一貫していません。ダメ映画の要素を集めてごった煮にして,底に溜まったドロドロしたものを集めてさらに煮詰めるとこの映画になります。


 舞台はもちろんフィリピンのどっか。まず,森の中を幼い子供とお姉さん(クリスティーン・レイズ)が走っています。「何だ? いきなり化物から逃げているのか?」と思っちゃいますが,実は森の中の家に帰る途中だったようです。ちなみにこのお姉ちゃんは男の子の乳母のようです。

 すると家の外で,ガタイのでかいロン毛の浮浪者風ファッションの男が唸り声をあげています。お姉ちゃんはどうやらそのロンゲ男と知り合いらしく,何か言い合いをします。男の子が家の中に入ると両親は死体になって転がっています。どうやらロンゲ男の犯行のようです。そこにナイフを振りかざした男の子の兄(?)が入ってきてロンゲ男を追いだそうとしますが,その甲斐なく殺されて喰われちゃいます。男の子の命も風前の灯ですが,なぜかお姉ちゃんが「この子だけは許してあげて!」とか何とか言って懇願してくれ,男の子は助かります。


 それから舞台はいきなり20年くらい経過します。あの男の子,ルーカス(リチャード・グティエレス)は医者になりましたが,生まれ故郷の警察から「君の一家を皆殺しにした犯人の一人を捕まえた」と連絡が入ります。

 ルーカスは故郷に戻りますが,その犯人はなぜか警察でなく病院にいます。そしてその病院の医者は「犯人の一人を捕まえ犯行を自供したので,この病院の地下室に閉じ込めている。しかし,捕まってから食事はおろか水一滴も飲んでいないんだ」と説明します。ルーカスがその地下室に行くと,なんとそこにいたのはあの乳母のお姉ちゃんです。なんと20年経ってもまるっきり変わっていません。

 そこで,地元警察署長さん(彼の家族も皆殺しにされたらしい)が登場して,「この女は人間ではなくアスワン(Aswangs)だ」と説明します。アスワンはフィリピンの伝説の怪物で「サルのような体にコウモリの翼を生やしたような吸血鬼」という伝承と,「昼間は美女の姿で夜になると吸血鬼に変身する」という伝承の2つがあるそうで,この映画のアスワンは後者のようです。このお姉ちゃんはアスワンなんで,何年経っても年を取らず,銃で撃とうがガソリンをかけて焼こうが死なないのです。そして署長さんはルーカスくんに「いずれ残りのアスワンがこの女を取り戻しに来るので,そこで奴らを全滅したい。君はこの女からアスワンの弱点を聴き出してくれ」といいます。
 アスワンにアスワンを殺す方法を質問したって教えてくれる訳ないじゃん,矛盾してるじゃん,と誰しも考えると思いますが,なぜか警察署長もルーカスくんもそれに気が付きません。

 病院からは患者が避難していますが,重症で動かせない女の子がひとり残り,あとはルーカス君ともう一人の医者,婦長,警察署長など数人が残っています。その病院にアスワン2人(2匹?)が襲ってきます。映画冒頭に登場したロン毛君たちです。伝説の怪物くんのはずですが,メイクが手抜きのため見た目のインパクトがなく,やたらと「ウーウー」とか「ガオォー」とか唸っているだけです。もうちょっと怖そうとか,恐ろしげとか,強そうなメイクを工夫して欲しかったです。


 ここから先はゾンビ映画によくある「外から襲ってくるゾンビ vs 建物に立てこもる人間の攻防」というパターンになり,普通なら怒涛の展開になるはずなんですが,この映画はここからがさらにグダグダと展開します。外をうろつくアスワンはかなりの力がありそうで窓ガラスなんて簡単に破れるはずなんですが,何故かそっちの方向に力を発揮しません。また,アスワン姉ちゃんは「もうこれ以上人間は殺したくない。でも,おなかが空くと人間を食べなければいけない」と繰り返して悩みを打ち明けるだけだし,ルーカス君はアスワンとはいえかつては乳母だったお姉ちゃんが好きになっちゃったみたいだし(とは言っても,そのあたりの心理描写が全く無いのでルーカスくんが何を考えているのか,全く不明),警察署長は「アスワンの殺し方をアスワン姉ちゃんから早く聞き出せ!」の一点張りで,話がなかなか進展しません。

 それではさすがにまずいと感じたのか,「アスワンが入ってきそうな入り口の戸締り用心」のために病院内を歩きまわったり,落雷で電気が消えたために非常用電源のスイッチを入れに外に出たり,そこでアスワンに襲われたり,婦長さんに厨房のドアを開けさせたり,一人残された入院患者の少女が心停止したり,ルーカス君が心肺蘇生したり,時間稼ぎばかりしています。


 途中でアスワン姉ちゃんの具合が悪くなり,今にも死にそうです。するとルーカスくんは彼女をお姫様抱っこしてERに連れていって治療しようとします。「アスワンは何をしても死なないんだ!」という説明は忘却の彼方でございます。というか,アスワン姉ちゃんは「人間の血を吸う or 人間を食べる」ことができなくて空腹で具合がわるいわけですから,治療をするなら人間を食べさせなければいけないはずですが,ルーカス君はそこらへんに気がついていないようです。

 いずれにしても,「アスワンにアスワンの殺し方を教えてもらう」という設定そのものに無理があると思います。


 で,さすがにこのままでは映画が終わらないということに気が付いたのか,山刀みたいなやつでアスワンの首を切り落とせば倒せることに,ルーカス君が偶然気が付きます。何だ,それかよ。っていうか,一番最初にそれを試せよ。普通なら「銃で撃っても燃やしても死なないのか。それなら首を切り落とすか頭を吹き飛ばしてみよう」と考えますよね。ルーカスくんも警察署長さんも頭悪すぎ!

 で,ルーカス君がロン毛君の首をちょん切ってアスワンを退治し,アスワン姉ちゃんは山に帰って行きましたとさ。


 こういう映画ですけど,君は観る勇気ある?

(2012/05/01)

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