新しい創傷治療:ハルマゲドン

《ハルマゲドン " ANNIHILATION EARTH "★★(2009年,アメリカ)


 フランスにある超大型粒子加速器がアラブ人のテロリストの工作で暴走し,ヒッグス場が生成され続けてブラックホールが生まれ,地球が壊滅しちゃうよぉ〜,というパニック映画。舞台はおフランスですが,アメリカ映画なんで英語で話してくれます。

 結論から言うと,面白くないです。派手なシーンはそこそこいいのですが,いろんなところに手抜きがあって,緊迫した破壊シーンと,それ以外ののんびりムードのシーンの落差が大きすぎ,観客は苦笑するしかありません。「地球滅亡まであと80時間」,「あと72時間」・・・「あと6時間」・・・とテロップで煽ってきますが,映像を見ていると「あと2時間かよ! ヤバ!」というような緊迫感は全く伝わってきません。


 舞台は近未来のヨーロッパ。化石燃料に頼っていてはいけない,ということで「EVE計画」なるものが発案されています。これは超巨大加速器から得られる莫大な電磁真空エネルギーを取り出して全ヨーロッパに供給しようとするもので,このEVEのおかげで石油の消費量は65%も減らすことに成功したのです。その計画の責任者がウィンダム博士で,一応この映画の主人公です。

 しかし,石油が売れなくなると困るのが産油国のアラブの皆様です。また,EVEを平気に転用されてはかなわないと言うことで,EVE計画から中東地域は仲間外れです。そこで,この計画を破壊しようと背後で暗躍を始めます。そして,アラブの動きを察知したEVE陣営はこの計画に参加しているアラブ人の科学者ラージャを情報漏洩の罪で告白を計画し,彼の親友であるウィンダムはそれを阻止しようと必死です。

 一方,アラブ人と言えば髭面,というわかりやすいメタファー顔のスパイがパリ郊外のオルレアンにある粒子加速器施設に侵入し,何か細工をし,数時間後,施設は大爆発を起こし,そこで放出された莫大なエネルギーは都市を壊滅状態にし,3000万人が死亡し,数百万人が怪我をすると言う大惨事に至ります。それまで「EVEは絶対に安全さ」と言っていたEVE研究施設上層部はウィンダムに原因究明を命じ,一方で,スパイと考えてウィンダムのラージャ博士を捕まえようと躍起です。

 なんだかんだとグダグダした展開があった後,なぜかドバイで大地震が発生し,超高層ビルがあっけなく倒壊します。どうやら,あの爆発事故のエネルギーが地殻変動を引き起こし,EVEのネットワークと無関係のはずの中東にまで影響を及ぼし始めたのです。そしてこの頃,ウィンダムは何者かが「破滅の方程式」をEVEの制御システムに組み入れた可能性に気が付きます。
 これは,実験の途中で偶然,ヒッグス粒子を作り出してしまったプログラムのようですが,加速器が正常に動いている限りヒッグス場は制御できるので,「ま,いいか」と上層部に伝えなかった秘密の技術なんですね。

 で,ウィンダム博士と二人の女性科学者(なぜか超美人でナイスバディ)はヘリに乗り込み,事故現場に向かい,お約束の展開でヘリが故障して不時着しますが,助かった3人はガイガーカウンターみたいなのを取りだしてヒッグス粒子を検出に成功します。やはり,「破滅の方程式」が使われたのです。

 で,ラージャ博士がアラブ人テロリスト集団に捕まったり,ウィンダム博士御一行が救助されたり,空にオーロラが出現したり,軌道上の人工衛星もバンバン落ちてきて街を直撃したりします。ちなみに,全ての人工衛星が狂ってしまったと説明されますが,なぜか落ちてくるのはフランス上空だけで,被害程度もせいぜい火山弾の直撃くらいの規模だったりします。

 で,このあたりでアラブのテロリストの目的がEVE計画を破壊して,石油価格の暴落を防ごうというものであることが明かされます。このままでは,石油価格が上がろうが下がろうが,石油を使う人類自体がいなくなってしまいそうな雰囲気ですが,アラブのテロリストは石油価格を守ろうと必死でございます。

 で,家族が心配なウィンダムは自宅(フランスは壊滅状態,と説明したのに,なぜか彼のご自宅とその周辺は被害の様子は微塵もありません)に戻りますが,ここで拉致されちゃいます。拉致したのは,映画冒頭からネチネチと文句ばかり言うEVE計画の女性上司です。

 一方,ラージャ博士を拉致したテロリストたちはスペインの粒子加速器施設に侵入し,連れ込んだラージャに「ここも破壊しろ」と迫り,彼は「そんなことをしたら,ブラックホールができちゃって,地球は全滅するぞ!」と言いますが,もちろん,テロリストさんたちは聞く耳持たず。地球が破壊されても中東地域と石油価格さえ守ればそれでいいようです。破壊するためのパスワードを教えろとテロリストはラージャを拷問しますが屈しません。そして隙をついて,テロリストに反撃し,彼を倒します。グッジョブでございます。「漢」でございます。

 そして,他の加速器のある施設と連絡を取り,ウィンダムとついに連絡が取れます。ウィンダムの嫌味上司は「さっさと止めちゃいなさい! どうせ,何も起きないんでしょう? ラージャはスパイなのよ!」と言うし,ラージャ博士は「絶対に止めてはいけない。他の加速器がヒッグス場の崩壊を防いでいるんだ。止めたらブラックホールだ!」と言うし,ウィンダム君は右往左往,右顧左眄です。

 そしてついに,ウィンダムの手がスイッチに伸び・・・という映画でございます。


 どうせこの映画,誰も観ないと思いますのでネタバレすると,なんと本当に地球が木っ端みじんになっちゃいます。「オイオイ,ブラックホールなら吸い込むだけで爆発しないんじゃないの?」というツッコミはしないでください。ここでアメリカのパニック映画なら,主人公が最後の最後に決断してヒッグス場の膨張を防ぎ,地球の平和は守られ,失われた家族の絆を取り戻し,イヤミな上司は逮捕され,ラージャ博士は名誉を取り戻して,めでたし,めでたしとなるのが定石のはずなのに,思いっきり人類滅亡,地球は跡形もなくなります。ある意味,新鮮っすね。


 ウィンダムの上司に当たる女性が,「嫌な上司の嫌なところを集めて煮詰めて煮凝りにした」ようなイヤミっぷりでいい味を出しています。うまく行けば自分の功績,失敗したのは部下のせい,っすよ。挙げ句の果てに,地球爆破のスイッチをウィンダムに押させるんだから,最後のスイッチだけでも自分で押せよ,と言いたくなります。

 一方の主人公であるウィンダムも言動が首尾一貫していなくて,観ていてイライラしますね。ラージャは親友だ,とか言いながら,最後の最後のラージャの考えでなく女性上司の命令に従っちゃうし,時間が切迫している割には無駄行動ばかりしています。人工衛星が雨霰と降っている現場に遭遇しては「子供を助けるのが先だ!」とか言って家の中に入るんですが,君が今すべきことはそれじゃないだろ! 「一人の人間の命の重さは地球の重さに匹敵する!」とか青臭いお笑いを言い出すんじゃないかと,観ていてハラハラしちゃいましたよ。主人公としての自覚が足りないっすね。


 ちなみに,最初の爆発がオルレアンで起きて,そこで3000万人が死亡というのは,明らかに変です。オルレアンは人口10万とか20万とかだし,ちょっと車で走るとパリに行けます。ちなみにパリの人口は200万ちょっとですから,パリが壊滅しても3000万に遠く届きません。それなのに,事故後にパリの本部で会議をしたりしているのですから,この映画を作ったアメリカ人はフランスの地理の知識なしにこの映画を作っちゃった模様です。

 あと,これほど壊滅的な事故が起きているのに,被災現場以外は何の被害も受けていないのどかな風景,というのも観ていて萎えますね。こう言うところはしっかり作っておかないとダメでしょう。


 というような春髷丼映画でした。

(2012/05/05)

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