《チャーチルズ・ウォー "Churchill The Hollywood Years"★★★(2004年,イギリス)


 イギリスの名宰相として歴史に名前が残る偉人,ウィンストン・チャーチルが実はアメリカ海兵隊員だった,という「実は○○は▲▲だった」映画の一つ。おまけにイギリス国王やエリザベス女王を思いっきり茶化しています。恐れ多くも国王陛下を「いつも酔っぱらってばかりのケチな小心者」として描いています。しかもこの映画,アメリカ映画でなくてイギリス製の映画なんですよ。要するにこの映画,日本にたとえると「西郷隆盛は実は中国人で,明治天皇はケチな酔っぱらいだった」という映画を日本で作ったようなものです。よくこんな設定の映画を作ったなぁ,と驚いてしまいます。

 ただ,問題が一つあります。映画としてそれほど面白くないことです。発想がハチャメチャなら,その分,ストーリーを綿密に練り上げないといけないはずなのに,肝心のストーリーが超いい加減でテキトーなため,歴史秘話映画としても,コメディー映画としても,アクション映画としても中途半端なものになってしまったようです。


 舞台は1940年のイギリス。つまり,ナチスドイツがヨーロッパ各国に侵攻し,勢力を拡大していた時期です。そしてドイツはついにイギリスにも空爆を仕掛けて,イギリス占領を企てます。このイギリスの苦境を救うべく,一人のスーパー戦士がアメリカから派遣されます。ウィンストン・チャーチル(クリスチャン・スレーター)です。そして,バッキンガム宮殿で催されたエリザベス王女(ネーヴ・キャンベル)の18歳の誕生日に招かれ,二人は恋に落ちます。

 一方,そのバッキンガム宮殿に極秘裏に乗り込んできたのがヒトラーとゲッペルス。イギリス占領を狙うヒトラーはイギリス国王一家を地下牢に幽閉し,国王にエリザベスとの結婚を迫ります。そのヒトラーの邪悪な企みの前にチャーチルはマシンガンを構えて立ちはだかるのでありました・・・ってな映画でございました。


 ・・・というように内容は要約できます。アメリカでこの映画を作ったら,イギリス国王一家を茶化したりはせず,その一方で「アメリカ海兵隊員@チャーチル」をブルース・ウィリスばりに活躍させるアクション映画にするはずですが(何しろ,スレーターの格好は誰が見ても《ダイハード》のウィリスですから),このイギリス映画ではスレーターはそれほど活躍しません。最後の「ヒトラーとエリザベスの結婚式」に乗り込むシーンでも,ちょっとマシンガンをぶっ放して,ちょっと暴れちゃったかな,程度です。抑制が利きすぎているんですね。

 イギリス国王(実に見事なほど国王陛下に似ています)がケチな小心者でいつも酔っぱらっている,という面白いし,バッキンガム宮殿の国王の側近や衛兵が「バッハみたいなカツラ」を被っているのも笑わせてくれますが,そういう設定や格好以上の面白さがありません。そこまでイギリス王室を笑い物にするなら,もっとハチャメチャな笑いを盛り込めるはずなのに,肝心なところで抑制が利かせすぎてしまったために,突き抜けた笑いになりません。ヒトラーと愛人エヴァとのやりとりも,パーマをかけたヒトラーのチリチリ頭もとても面白い素材なんだけど,どれもこれも単発のギャグに終わっています。


 映画としてはかなり金と手間をかけて作られている感じだし,バッキンガム宮殿内部もかなり本物っぽいし,舞踏会シーンでもかなりの数のエキストラを使っています。そのあたりは素晴らしいと思います。しかし,そういうところに金をかけるより,映画の根幹であるストーリーをもうちょっと入念に作るべきだったと思うのです。一つ一つのシーンはいいし,各シーンでのエピソードも悪くないのに,それらを繋ぐストーリーの全体像がわかりにくいというか,全体像がそもそもないため,単発ギャグをつなげただけの映画になってしまったのです。

 ちなみに,久しくスクリーンの上で見なくなったクリスチャン・スレーターさん,この映画では生き生きと楽しそうに演技していました。それが見られただけでよかったかな。

(2012/07/25)

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