《MOTHER マザー "SAINT ANGE / HOUSE OF VOICES"》★★(2004年,フランス)


 幽霊屋敷譚映画なんですが,「何かが出そうでなかなか出ない/やっと出たけどそれがなにかよくわからない/結局この映画のテーマが何なのか最後までよくわからない」という,糞詰まり感しか感じないホラー映画でした。フランス映画にはよく「なんとなく雰囲気があるんだけど,最後の解決部分は観客に丸投げ」という作品が少なくありませんが,この映画もその伝統に沿ったものかもしれません・・・悪い意味で・・・。ちなみに監督は一部にカルト的人気を誇る残虐系映画《マーターズ》のパスカル・ロジェで,彼の長編第一作目に当たる作品だそうです。


 舞台はまず1946年ころ(?)のある孤児院で,夜,トイレに行ったとした少年が「何か」を見てしまい,驚いて転倒し,頭部を打って死亡する。

 そして,舞台は1958年へ。フランスの片田舎にある孤児院サンタンジュは老朽化のために廃止が決まり,現在,改修工事の真っ最中だった。そのために子供たちは別の孤児院に移動していた。そういうサンタンジュに若い女性アンナ(ヴィルジニー・ルドワイヤン)が雇われ,孤児院に一人残る少女ジュディス(ルー・ドワイヨン),調理係のイリンカ(ドリナ・ラザール),そして時折姿を見せる院長のフランカルド(カトリオナ・マッコール)との静かな暮らしが始まった。

 しかしアンナは,ジュディスやイリンカしかいないはずの孤児院の中で,奇妙な気配を感じる。もう子供たちはいないはずなのに,どこから子供たちの足音や歓声が聞こえてくるのだ。そして夜毎,彼女は悪夢に悩まされるようになった。

 そして,アンナがひた隠しにしていた彼女自身の秘密が明らかになり,それと同時にこの孤児院にまつわる忌まわしい過去が明らかになっていく。そしてアンナはついに恐ろしい記憶を探り当ててしまい・・・という映画です。


 まず,映画の邦題とDVDジャケットが最悪。ここで映画のネタバラシをしちゃいかんだろ。原題は《HOUSE OF VOICES》,つまり家から聞こえてくる奇妙な話し声,つまり幽霊話です。ところがこの映画ときたら,《Mother》であり,ご丁寧にDVDジャケットで若い妊婦が描かれているのだ。これを見たら,よほど鈍い人でない限り「ヒロイン役は妊娠しているんだな。そして母になるんだろうな」と読めてしまいます。というか,読めないほうがおかしいでしょう。実際,ヒロインのアンナは妊娠しているのですが,それを彼女はずっと隠しているのです。人に知られないようにしてこの孤児院に就職したのです。しかも,彼女の妊娠が明かされるのは映画の中盤ころであり,それまでは謎なのですよ。こういう核心部分の謎をDVDジャケットでバラすなんて最悪じゃないでしょうか。サスペンス映画を借りようと思ってDVDを手にとったら,ジャケットに「犯人はこいつです」と書いてあるようなものですね。

 ちなみに,アンナ役のヴィルジニー・ルドワイヤンは若くてきれいな女優さんです。しかも後半,神々しいばかりに美しい妊婦ヌード(しかもフルヌード!)まで披露します。どうやらこの撮影の時,彼女は本当に妊娠していたようです。


 問題は,この映画に登場する様々な謎が何一つ解決されないまま映画が終わってしまうことです。

 まず,冒頭の共同トイレのシーンに登場する女の子が誰なのか,その後にアンナに「怖い子供たちに気をつけて」と耳打ちする少女は誰なのか,という点です。普通の映画なら,実はこの少女は同一人物で・・・と言うことになるはずです。でないと,冒頭の共同トイレのシーンでいかにも意味ありげに彼女を登場させた意味がありません。そして,後半の少女にしてもなぜアンナに耳打ちしたのかもわからないし,そもそもこの少女がアンナを選んだ意味もわかりません。また,他の孤児院の子供達も「怖い子供たち」に気付いていたのか,それともこの少女だけが気がついていたのかも説明してくれないと困ります。

 それと,アンナがこの孤児院で起きたかこの忌まわしい出来事を探る動機も説明されません。普通なら,「実は冒頭の共同トイレの少女が後年のアンナであり,彼女は自分の育った孤児院の秘密を探ろうとした」というあたりが物語的には定石だと思うのですが,そういうこともなさそうです。つまりアンナは,偶然この孤児院を単なる一つの職場として選んだだけのようです。

 それと,彼女が妊娠を隠していたというのはありとしても,すでに8ヶ月くらいのお腹の大きさですから,隠し通せるものではないし,どうしても出産の時にバレます。このあたりりは不自然だし,何より,彼女が妊娠に至った過去の経緯(前の職場で何かあったらしい)も説明してくれないと困ります。

 それと,「老朽化が進んで廃止が決まり,改装工事中の孤児院」が,なぜ新規に職員を募集するのかも意味不明。孤児院を廃止するのなら新規職員を増やす必然性も必要性もありませんよね。このあたりの不自然さにパスカル・ロジェ監督は気がついていなかったのでしょうか?

 また,成人年齢に達していると思われるジュディスが何かの理由で最後まで一人残り(その理由も最後まで説明されてませんね),そのお世話をするかのようにイリンカが残っていた,というのはなんとなく想像できますし,イリンカが院長の秘密を知っている(?)ために解雇されなかったありかもしれませんが,そのあたりの説明もありません。

 さらに,アンナが生まれたばかりの赤ん坊を抱っこする姿(これまたヌード)はこれまた神々しいばかりに美しいけど,その意味するところがまるでわかりません。あのスペイン映画の傑作ホラー《永遠の子どもたち》のように,「恐ろしい子供たち」が自分たちのお世話係としてアンナを呼び寄せたのか,あるいはアンナが母性本能から子供たちを選んだのかもしれませんが,そう考えるための手がかりがまるでありません。本作と《永遠の子どもたち》は雰囲気も設定もラストも似ているため,見ている方はどうしても両作を比較してしまいますが,監督の力量の差は一目瞭然です。


 というわけで,何やらいわくありげなシーンと映像的に凝ったシーンを重ね,美しいヒロインを登場させ,何やら恐ろしげな雰囲気を撮影しても,それだけではまともな映画にはならないことがよくわかる映画です。

(2012/08/03)

Top Page