新しい創傷治療:ミックマック

《ミックマック "Micmacs A Tire-larigot "★★★★(2009年,フランス)


 フランス版《七人の侍》&《特攻野郎Aチーム》という感じの痛快映画。7人の男女が1人の仲間のために立ち上がり,兵器製造会社の親玉をとっちめちゃう、という映画で,原題は「いたずら」という意味。ハリウッドだったらアクションに次ぐアクションという感じの映画にしたと思うが,さすがにおフランス映画はそういう野暮なことはせず,「いたずらの延長」程度の軽いノリと,ピタゴラスイッチばりの創意工夫+発明と,わざとポイントを外したような脱力系の笑いをちりばめ,最後はあれよあれよという間に感動のラストを迎えちゃうのだ。

 よくよく考えてみると,主人公が復讐を誓う大会社2つのうち,地雷を作った会社は悪役として十分だが,もう一つの会社はちょっと逆恨みといえば逆恨みだし,7人の特技が平等に遺憾なく発揮されているわけでもないしと,かなり微妙な部分もあるが,2時間近く,これだけ楽しませてもらったのだから,よしとしよう。


 最初の部隊は1979年の西サハラ。ここで地雷撤去作業をしているフランス兵が爆発に巻き込まてしまい死亡する。彼の妻と幼い少年バジルが残されるが,妻は心労で倒れて入院し,バジルは施設に入れられるが、その生活に耐えきれず脱走する。

 そして30年後,バジル(ダニー・ブーン)はビデオ・レンタルショップで働いていたが,通りで起きた銃撃戦に巻き込まれ,一発の銃弾が額に命中してしまう。すぐに摘出手術が行われたが,取り出したら植物状態とわかり,結局そのまま傷を閉じてしまい、銃弾は頭に残されたまま。バジルはやがて退院するが,アパートからは追い出され,ビデオ店では後釜が決まり,ホームレス生活に転落する。

 そんなある日,ガラクタの骨董品を売る老人に声をかけられ,自分たちと共同生活しないかと誘われ,ガラクタで作った住み処に連れて行かれ,そこで彼らの仲間に入る。彼らは揃いもそろっておかしな奴らだった。

  • ギロチン台から生還した男プラカール(「塀の中」の意味)
  • 料理の上手なお母さんタンプイユ(「ごちそう」の意味)
  • 計算の得意な女の子・数学娘
  • 人間砲弾として77年の世界記録を持つ男フラカス(「残骸」の意味)
  • 何時もタイプライターをたたいている元民俗学者で詩人
  • ガラクタを材料にする発明家プチ・ピエール
  • 軟体人間の女性・野菜室(冷蔵庫の野菜室に入れちゃう)
 

 そしてある日,バジルはふと見上げたビルに,あの父を奪った地雷製造会社と,自分の頭の中に残っている銃弾を作った会社が,通りを挟んで向かい合っているのを見てしまう。どちらも巨大ビルである。バジルはそれぞれの会社の社長に文句を言おうとするが,もちろん取り合うはずもなく門前払い。そこでバジルは6人の仲間たちに事情を説明し,彼らは一も二もなく「お前の復讐に手伝ってやるぜ!」と手を挙げる。

 やがて,バジルと6人の仲間たちの手の込んだ「いたずら」が始まり,やがて2つの会社は敵対するようになり,お互いの会社の工場や倉庫を攻撃し合うようになる。と,そこまでは良かったが,なんとバジルが捕まってしまい,絶体絶命のピンチに!

 その時,冷蔵庫の野菜室に隠れていた「軟体女@野菜室」が凍える手で携帯電話をかけ,「作戦Bでバジルを助けて!」と連絡する。そして6人の創意工夫を集めた大作戦の幕が切って落とされる,という映画である。


 それぞれがどんな作戦なのかはネタバレになるので書かないが,はっきり言ってどれもチープというか,ローテクというか,人海戦術というか,ダサいというか,一世代前の作戦が次々と繰り出されるわけだ。特に,バッグすり替え作戦なんて,二人が同じ形のでかいバッグを持っているんだから誰か一人くらい気がつけよ,とツッコミを入れたくなるし,ソーセージに弱い麻薬犬なんていないだろうと思うんだけど,どれもこれも,あまりに見事にお洒落に決まるもんだから,ツッコミを入れるのがアホらしくなり,「映画なんて楽しんで見ればいいんだよね」という気分になってくる。

 それにしても,廃品で作った「住み処」の内部がすげぇ格好良いぞ。廃品同士をがっちり溶接している感じで,なんだか要塞みたいなのだ。この内部が映されるたびに,男の子なら「入ってみたい。ここを秘密基地にしたい」と思ってしまうはずだ。それほど内部が見事に造形されている。これだけでも見る価値がある。

 そして,じいさんの作る各種の仕掛けやロボットが,これまたローテクっぽくて不恰好なんだけど,なんだかすごく格好いいのである。このあたりも「男の子魂」をくすぐるものがある。また,バジルたちが運転する「オート三輪」がすごくキュートでかわいい。何なんだ,このかわいさは! 欲しいぞ,この三輪車!


 それから,パリのいろんな風景がこれまた圧倒的に見事なまでに美しい。カーチェイスの途中にある可動式の橋も,バジルが大道芸をする地下鉄駅もすごくいいのである。この監督(ジャン=ピエール・ジュネ)はいつもながら,パリの風景を撮らせたらうまいのである。「絵葉書みたいだけど,絵葉書じゃないパリ」という感じである。

 とは言っても,バジルの頭部に残された弾丸が途中で役立つわけでもないし,6人の仲間たちが平等に活躍するわけでもないし,いてもいなくてもあまり大勢に影響がない人物もいたしと,穴も結構ある映画だ。だが、欠点よりは美点がはるかに優っている映画であり、レンタルショップで見つけたら是非見て欲しい。

(2012/08/07)

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