モンスター映画と言うよりは怪獣映画っすね。だって,モンスターがデカすぎます。山と同サイズですぜ。これまで見てきた様々なモンスター映画で一番デカイです。もうここまでくると笑うしかありません。
でも,このモンスターの造形は「ワニガメ+ヘビ+タコ」の合体という感じでかなりいい線を行っています。低予算テレビ向け映画と思われますが,CGのレベルは悪くないです。ただ,あまりにデカく設定してしまったため,人間とのサイズが違いすぎて「人間 vs モンスター」の対決が成立せず,モンスターも動くに動けなくなってしまいました。このくらいのサイズになると,倒すにしても核爆弾でないと駄目なことは誰の眼にも明らかですが,さすがにアメリカ国内に核弾頭を打ち込むのはマズイと思ったのか,この映画では核は封印してチャチな武器で倒しちゃうというトホホな結末を迎えます。やはり,モンスターは程々に大きく,程々に強いくらいにとどめておかないと映画にならないことがわかりますね。「山のように大きい」というのと「山と同じサイズの大きさ」では天地ほどの違いがあります。
ちなみに原題は旧約聖書に登場する伝説の巨獣ベヒモスを拝借したもので,いつもは地中に潜んでいて,二酸化炭素をまき散らして生物を窒息死させる伝説の怪物なんだとか。
舞台はアメリカ・ルイジアナ州のリンカーン山。ここで原因不明の地殻変動が起きていて,原因を調査するために政府(?)の調査機関が山に入っています。政府の調査隊といっても2人だけのこじんまりした調査隊です。するといきなり地震が起きて地面から煙が吹き出し,一人はあっという間に御昇天。一人はアタッシュケースみたいなのを持って逃げますが,途中で滑って転んで死んじゃいます。何やら重要なものが入っているらしいアタッシュケースが崖っぷちに引っかかって残されます。
その頃,同じ山の中で作業をしているオッサンたちが登場。現場監督のトマス(エド・クイン)が本作の主人公です。ここでも地震とガス噴出があり,一人のオッサンが落ちてきた丸太に足を挟まれ,あっという間に死んじゃいます。この時点で,よほど鈍い人でない限り,地表から噴き出しているのは二酸化炭素だなとわかります。
そして,舞台が変わって本作のヒロイン,地質学者のエミリー(パスカル・ハットン)登場。彼女もリンカーン山全体の地熱が急激に上昇していることに危惧を抱き,生まれ故郷である麓の町に向かいます。ちなみに彼女の叔父は町の保安官をしています。
一方,街に戻って作業員の遺体を遺族の元に届けたトマスは,自宅に戻りますが,本棚や壁一面に怪物の絵や新聞記事が貼られているのを見てビックリ仰天。どうやら,トマスのパパ(ウィリアム・B・デイヴィス)の仕業のようです。そして,パパはトマスを見つけてマヤ文明がドータラコータラ,地球が人類に対して復讐するとか,怪物がいるとか,訳の解らんことを口走るため,困惑気味です。実はこのパパ,元は大学教授だったのですが,奥さんが死んでからおかしくなったようです。「パパ,また薬を飲み忘れただろう」と相手にしません。
すると,トマスの妹,20歳になったばかりのキャピキャピのグレースちゃん(シンディ・バズビー)が登場。どうやら恋人とリンカーン山でキャンプをする予定のようです。この時点で,よほど鈍い人でない限り,「恋人と山に入ったグレースが大地震にあい,それを兄のトマスが助けに行くんだな」と鉄板の予想が立つはずです。ちなみに普段のグレースちゃんはパパの世話をしている良い子です。
で,パパを行きつけの「モニカの店」に連れて行ったトマスは,ここでエミリーと会います。どうやら二人は元恋人同士だった模様です。世間は狭いというか,アメリカのモンスター映画の定石的設定です。この時点で,この映画のラストは二人のキスシーンで終わることが鉄板で予想できます。
で,山に入ったエミリーは大量のリスの死骸を発見します。それを見て二酸化炭素が噴出していると気付きます。それで,叔父の保安官に「街のみんなを避難させるべきよ! 火山噴火が起きるわ」と進言しますが,叔父さんは「1984年の時はもっとすごい地震で避難したけど,結局何も起きなかったんだぞ」ととり合いません。
一方,街を歩いていたトマスに,一人の男が「山に入るのでガイドをしてほしい。私は政府の秘密機関のエージェントだ」と声をかけてきます。どうやら,トマスが軍に所属していた時の上官が彼を推薦したようです。「軍にいたことがある地元民だからガイドをしろ」とは無理やりすぎるよな,という気がしますが,とりあえず先を急ぎます。このエージェントの話によると,リンカーン山で起きている異変を極秘に調査していた部隊(といっても二人だったけどね)からの連絡が途絶えたため,その地点まで行く必要があるんだそうです。と,ここまでバラしているのに,「何を調査しているのか」についてだけは絶対に喋りません。で,とりあえずトマスとエミリーとエージェントは山に入ります。
その頃,リンカーン山の麓にある一軒家の住民が何者かに襲われたかと思うと,いきなり地面が陥没して家ごと飲み込まれます。ちなみに,このシーンまでは「この映画って火山パニック映画,地震パニック映画ですよね」ムードだったのに,ここでいきなりモンスター映画に豹変します。見ている方は呆気にとられます。
この頃,エージェントの男はトマスに,世界各地で異変が起き,日本や中東やアメリカのあちこちで大惨事が起きていると説明します。そして,地熱データから見てその異変の中心地がこのリンカーン山らしいのです。「世界を揺るがす大惨事の中心地の調査だというのに,派遣するのは一人だけ? そんな重大事なら,徒歩でなく軍用ヘリとかで乗り込めばいいじゃん」と誰しも思いますが,低予算だから仕方ありません。
一方,グレースちゃんと恋人はテント設営中。すると彼がいきなり指輪を渡し,プロポーズするじゃありませんか。感激で泣き出しそうなグレースちゃんですが,ふと岩肌を見ちゃいます。そこに巨大な目玉が! 山の中に何かいます! そしてヘビのような触手が伸びてきます。二人は猛ダッシュで逃げます。
一方,町でも地震が頻発・ガス噴出ですから,ようやく保安官が住民に避難命令を出し,住民たちは逃げ出します。「モニカの店」に行っていたトマスのパパも残っていた店員に「すぐ逃げなければ」といいますが,店員さんは「お金の計算が終わってから。これは私の責任だから」と金勘定をしています。命よりお金ですよね。と,その瞬間,いきなり地面が割れたかと思うと,「モニカの店」だけがピンポイントで地面に飲み込まれます。当然,トマスのパパと店員さんは閉じ込められます。そして彼らの目の前を巨大なヘビのような触手が姿を表します。パパの予言通りです。この時点で,この二人の脱出劇が後半のポイントになり,恐らく天井裏に上がって地表に出るんだろうな,ということが鉄板で予想できます。とは言っても,一人はよぼよぼの爺ちゃん,一人はいかにも力の無さそうな細身の女性ですから,脱出は大変そうです。見ている方が心配になります。
グレースを探しに山に入ったトマスとエミリーは,エージェント合流し,あの崖っぷちのアタッシュケースを見事に見つけます。それを拾おうとした時にモンスターの触手が伸びてきて,エージェントは呆気無く御昇天。そして死ぬ前にトマスに「ケースの中にはあの怪物を倒す武器が入っているんだ。あれを使って倒してくれ」と言い残します。オイオイ,正体不明の怪物による地震なのに,最初からその怪物をピンポイントで倒すための専用の武器を持ってたの? もう,どう突っ込んだらいいかわかりません。
一方,怪物から逃げ惑うグレースちゃんと恋人ですが,巨大アリジゴクのような地面に開いた穴の縁をわざわざ通り,予定通りに穴に落ちそうになります。君たち,なんでそこを選んで通る? で,予想通り,彼氏は落ちて怪物に食われ,グレースちゃんはあわやというところでトマスが助けます。ちなみに,この映画で怪物の犠牲になる人達のうち,セリフのある役はこの恋人君一人だけでした。そして3人はレンジャー基地に向かいます。そこにヘリがあるからです。そしてトマスは軍のヘリ操縦士だったからです。
そして,映画も残り時間10分くらいというところでようやく,モンスター様が全身のお姿を見せてくれます。山頂の火口から[ワニガメの顔とヘビの首とタコの触手]が出ています。標高1000メートルくらいの山と同じサイズです。これはすごい迫力です。これが暴れるんでしょうか。もしかしたら,これまでの75分が長いふりで,ここからが映画本番なんでしょうか。ようやく軍が登場して,バカスカ爆弾を打ち込むんでしょうか。それとも,パパがトマスに手渡した「古代マヤ族のお守り」が霊力を発揮するんでしょうか。
さんざん想像をふくらませる怪物登場シーンですが,実は全部違ってました。アタッシュケースを開けたトマスが中に入っていたロケットランチャーみたいなのを組み立て,パパが言っていた「喉の奥で矢が放たれて心臓を引き裂き,龍は死ぬ」という言い伝えを思い出して,そのとおりに口の中に小さなミサイルみたいなのを打ち込みます。そしてヘリが飛び立ったその時,山より大きい怪物くんは,たった一発の折り畳み傘サイズの武器で大爆発。
こんだけ引っ張っておきながら,これだけっすか? 本当にこれだけっすか?
そしてヘリは町に到着し,グッドタイミングで「モニカの店」の天井から逃げ出せたパパと店員さんはトマス君たちと合流。元恋人同士のトマスとエミリーは発情状態に入ったのかキスしまくっています。プロポーズしてくれた恋人を失ったばかりのグレースのことなんか,忘却の彼方のようです。
(2012/08/31)