《ヒンデンブルグ大爆発》★★★(2007年,イギリス)


 1937年5月6日,ドイツから大西洋を越えて飛来した巨大飛行船ヒンデンブルグ号は,着陸態勢に入ったところで突然爆発炎上し,その巨体は紅蓮の炎に包まれ,地上に激突する。その事故の様子は詰めかけていた報道陣により撮影され,全世界に伝わってしまう。それはドイツのツェッペリン社が進める「客船より速く,しかも安全な飛行船へ」という計画を根本から崩壊させる大事件であり,「船から飛行機へ」というその後の時代の動きを加速させることにもなった。


 この映画は,そのヒンデンブルグ号爆発事故の真相に迫る真面目なドキュメンタリー映画であり,娯楽色は微塵もない。同じヒンデンブルグ号事故を題材にした映画としては1975年のアメリカ映画《ヒンデンブルグ》があるが,こちらの方は「ナチス・ドイツに反対する乗員が爆弾を仕掛けたことによる事故」という設定で作られている。

 それに対し,今回の映画は事故調査を行ったツェッペリン社の飛行船設計の最高責任者エッケナー博士による分析と推理によったものであり,博士は当時の気象状況と地上作業員の証言,生存者の証言から,強引な着陸をしようとしたために鼻翼のワイヤーに過剰な力が加わって切れ,それが水素ガスが入っていた内壁を損傷し,漏れ出た水素と空気が混ざり合ったところにスパーク放電が起きて炎上した,と結論づけている。そしてそこには,途中の嵐で12時間到着が遅れ,「船より速くて時間に正確」のうたい文句に傷が付くことを恐れて焦るツェッペリン社幹部の存在が関わっていたことが明らかになり,同時に,水素より安全なヘリウムがアメリカで製造されていたのに,値段の高さ(ヘリウムの方が10倍高い)からヘリウム導入を見送ったエッケナー博士自身の決断が,事故の遠因であることも明らかにされていく。

 映画としては1975年のアメリカ映画の方が面白いが(・・・というか,面白い映画を目指して作ったのだから当たり前だ),今回の映画には,事実の積み重ねから事件の真相に迫っていく重みがあり,映画の作り手の良心を感じさせるものとなっている。


 それにしても,この映画で繰り返し流れるヒンデンブルグ号の実際の火災の様子を記録した映像は,何度見ても身震いするほど恐ろしい。目の前でこんな大惨事が起きたら,まさに悪夢である。この事故は乗員乗客97名のうち35名が死亡したという大惨事だが,この映像を見ると35人しか犠牲者がいなかったことの方が奇跡だと思う。もちろん,ヒンデンブルグ号が最終着陸態勢に入って地上15メートルの高さにほぼ静止したところで火災が起きたからだが,これが50メートルの高さだったら生存者はゼロだったはずだ。

 そして,ヒンデンブルグの巨大さにも圧倒される。長さが230メートルと,あのタイタニックとほぼ同サイズらしい。それが空に浮かんで飛行する様を一度見てみたかった。その様子はどれほど壮麗だったろうかと,想像するだけで心躍るものがある。


 結局,この事故のあと大型飛行船は建造されず,第二次世界大戦終結後の旅客の主役は大型飛行機になった。この映画によると,大西洋横断に客船で6日,ヒンデンブルグ号で2日かかったそうである。もちろん,船旅に比べると大幅日数短縮であるが,所詮それは飛行機登場前までの「速さ」」に過ぎないのだ。

(2012/10/05)

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