《ゾーンA》★★★(2010年,フランス/モロッコ)


 アイディア倒れというか,アイディア詰め込み過ぎというか,意欲先行し過ぎというか,そういう言葉しか浮かばないフランス製のホラー映画。監督はユーグ・マルタンという人ですが,allcinemaで検索しても何一つ情報がないところを見ると,本作が第一作目とかの新人監督なのかもしれません(違っていたらゴメン)。でも多分,映画作りの才能はあるし,意欲は十分すぎるくらい持っているし,映像作りにかける情熱は人一倍強いと思います。

 でも,こういうタイプの人間が映画監督をすると,意欲とアイディアばかりが空回りをしている映画を撮ってしまいます。映像はやたらと美しいけどストーリーが滅茶苦茶とか,映画が3つくらい作れそうなストーリーを1つの映画に詰め込んだために収集がつかなくなったとか,やたらと哲学的なんだけどそれに映像がついていないとか,そういう映画になりがちです。

 本作はそういう実例です。アルジェリアでフランスが行った核実験への抗議という硬派のテーマと,アルジェリア土着の伝説的精霊を組み合わせた意欲作なんですが,社会派映画としての問題提起の部分と,ホラー映画という方法論がまるで合っていません。ホラー映画という方法を選択したため,アルジェリアでの核実験の非人間性という部分がまるっきりすれ違っています。

 核実験反対を主張するならホラー映画にすべきではありません。核実験反対はホラー映画にしなくても主張できるからです。そして,ホラー映画にするなら核実験は入れるべきではありません。ホラー映画は「現実の世界ではありえない怖さ」であり,核実験は「現実に起こる怖さ」なので,この2つは本来,共存し得ないはずです。つまり,この映画は基本設計,初期設定の段階でミスしちゃったなと思います。


 というわけで,とりあえずストーリーを紹介。

 舞台は1960年ころのアルジェリアのサハラ砂漠。ここに機密書類を持ったフランス軍の将軍が乗った飛行機が行方不明となる。そして,機密書類と将軍を奪還すべく,10人ほどで構成される部隊がサハラに送り込まれる。

 彼らは程無く,不時着して破損した飛行機を発見するが,乗員は既に死亡していた。なんとか機密書類を入れたアタッシュケースを回収できたが,将軍の死体だけが見つからない。

 隊員たちは苦労の末に,砂漠の真ん中にある集落に到着するが,そこは老人と子供と女性しかいなかった。そこでフランス兵で最も若いミシェルは異形の者達が地を徘徊する不思議な幻影をみる。それは,よそ者の侵入を防ぐ精霊ジンだった。やがてミシェルは村の呪術師から「あなたは村を守ることになる」と予言される。

 しかし,精霊ジンは,人間の過去の記憶を読み取り,最も忌まわしい記憶から精神を操る悪霊だった。やがてフランス兵たちは錯乱していき,お互いに銃を向け合い・・・・という映画である。


 この映画で活躍する「ジン」は,イスラム教のスンナ(=預言者ムハンマドの言行・範例)の中にも登場する,由緒正しい悪霊というか魔物です。これが人間の精神を操るというのも,映画の中ではよくある設定です。しかし,この映画がダメなのは「ジン」が全く怖くない点にあります。画面が暗すぎて「ジン」の様子がよくわからないという点もダメなら,造形的な怖さもありません。ジンが人間の精神を操る怖さはもちろんわかりますが,それが映像的な怖さに直結していないため,「何だかダラダラとかったるいシーンばかりが続いている映画」という印象しかないのですよ。


 あと,個々のフランス兵の描き分けはかなり丁寧になされているのに,最後にアタッシュケースを駐屯地まで運んでいく役が誰なのか,最後までわかりません。途中で死ぬ役なら全員名前がわかっているのに,肝心のこのお兄ちゃんの名前がわかりません。さらに,なぜ彼が最期まで生き残ったのかも意味不明です。

 それと,ミシェルが「シャーマン2代目」になるというのも意味がわかりません。「実はミシェルはアルジェリアの先住民の血を引いていた」などの説明が必要ではないかと思いますし,映像編集の段階で,そういう説明を入れ忘れたのかもしれません。なぜミシェルなのか,最後まで意味不明でした。

 意味不明といえば,この映画の中心テーマというべきアタッシュケース。この映画は要するに,アタッシュケース争奪戦がメインテーマなんですから,観客サイドとしてはその中身については驚天動地の内容であって欲しいわけです。それなのに,アタッシュケースの中にあるのは1枚の紙切れで,しかもその内容は〇〇〇〇なんですよ。オイオイ,これだけの内容を伝達するために,飛行機を飛ばす? 1960年だったら,もっと確実な伝達手段がいくらでもあったと思います。

 そういえば,ミシェルがたまたま偶然にアラブ・ゲリラを発見し,彼らを捕虜にするというシーンも噴飯物でしょう。何しろミシェル君は実戦経験のない新兵,対するゲリラ側は歴戦の勇士です。どう考えても,ミシェルくんに勝ち目はありません。それなのに,ゲリラ側はあっさりとミシェルに捕まえられ,おとなしく連行されます。あまりの淡白さに笑うしかありません。もしかしたら,映画監督は戦場・戦争というものをわかっていないようです。


 あれもこれもと,テーマを詰め込んでもいい映画にはなりません。取り上げたいテーマを野放図に増やすのでなく,削るべき部分はどんどんそぎ落とし,最後に残った精鋭部分だけにすべきです。

 名作映画はすべて,骨子部分はシンプルであり,ストーリーは単純明快です。骨太の中心がしっかりしているから,その他のエピソードが生きてきます。瑣末で些細なエピソードを積み重ねても傑作映画にはなりません。

 本作のマルタン監督は映画監督としての基本的なセンスは悪くない人なので,「盛り込みたいテーマをそぎ落としていって,これだけは捨てられなかった本質部分を描く」監督に成長して欲しいです。一流になれるか二流で終わるかの分かれ道はここでしょう。

(2012/10/16)

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