リゾート海岸を舞台にしたB級ホラー映画には定石というか,忘れちゃいけないお作法ってのがあります。若いオネエチャンの半分は美人で半分は巨乳とか,全員必ずビキニ姿を披露するとか,無駄オッパイシーン・無駄エッチシーン・無駄ストリップバーのシーンを必ず入れるとか,そういうやつですね。あとは,そこそこ怖いシーンがあって,そこそこ血しぶきが飛んでいれば暇潰しくらいにはなるんですよ。
この映画はもちろん,そういったラインを狙ったいかにもなB級サスペンス・ホラー映画なんですが,監督さんは肝心の 「B級ホラー映画の基本的な作り方」 がわかっていないようです。女優さんたちはなかなかのレベルを揃えていますが,お色気シーンはほとんどないし,オッパイシーンは一カ所あるんですが見せ方が下手なんでエロっぽさは全くなく,女優さんは無駄脱ぎですね。
しかも,話を端折り過ぎちゃって何がどうしてこうなったのか,というあたりがよくわからないまま話が進んじゃいます。せめて,冒頭に登場するサイコパス殺人鬼オッサンの怨霊が教会に乗り移った,くらいの説明はしてくれないと困るんだよなぁ。
それと画質が悪いというか,くすんでいるというか,最初の海岸を遠景で撮影するシーンはなんだか1960年頃のカラー映画という感じにしか見えません。わざわざ狙った風でもないので,もしかしたら単に超低予算で仕上げるためにフィルム代とカメラ代にしわ寄せがきただけなのかもしれません。
冒頭はなんだかすごいですよ。前期おばちゃん風のお姉さんが猿ぐつわを噛まされて椅子に縛り付けられています。すると,でかい刃物を持ったオッサンが近づき,「何も恐れることはない。自由は怖くないんだ」 とか訳の分からんことを言って近づき,いきなりおばちゃんの舌を切り取っちゃいます。そして,その家に押し入ってきた地元自警団みたいな連中に射殺されます。のっけからハイテンションです。でも 「出だしからハイテンションなホラー映画は,その後失速することが多い」 という経験則から,ちょっと不安になったりします。もちろん,この経験則は今回も有効でした。
で,時代は移って現代のメキシコ。仲良しアメリカ女子5人組がここにやってきます。結婚を間近に控えたキャサリンの独身最後の夜を楽しもうと,親友のジェシカがメキシコ旅行をセッティングしてくれたんですね。そしてソフィア(アメリカ・オリーヴォ),アンバー,ベスたちが集うわけです。そして彼女たちはバーに繰り出し,酒を飲んでは女子会エロ話モード満開で,飲んで踊って騒ぎまくります。そして,アメリカからやってきたというイケメン青年2人組と仲良くなり,そのうちの一人,ロブ君にソフィアは一目惚れ。そのままベッドに直行します。そして残り4人は騒ぐだけ騒いでホテルに戻ります。
翌日,ロブ君とベッドの中のソフィアはキャサリンからの「案内をしてくれるガイドが見つかったので4人で遊びに行くからね。夕方までには戻るよ」という電話で起こされます。
4人を車に乗せてガイドと名乗る男2人は車を走らせますが,いきなり砂漠のど真ん中で 「ここで降りろ!」 と豹変し,銃を突きつけて金品を要求します。隙を見てソフィアに 「男たちに襲われた。椰子の木が生えていて鐘楼が見える建物のそば」 と携帯電話で伝えたところで電話を取り上げられます。そして男2人組は金目のものを奪って4人を置き去りにします。
ソフィアは警察に連絡しますが警察は取り合ってくれません。
一方,砂漠の4人は向こうに建物があることに気が付き,そこを目指します。そこは古いリゾート跡地ですでに廃墟となっていて,人っ子一人いません。4人は建物に入り,内部を調べますが,次第におかしくなっていきます。お互いに思っていても口に出せないような不満を相手にぶつけ,喧嘩が始まったりします。
一方,ソフィアとロブは,スペイン語のできるロブの友人ジェレミーの助けを借りて,町の人たちに 「この4人の女の子を見かけてませんか?」 と訪ねますが,誰も見ていないと言います。そして何とか老婆から 「鐘楼があるのは町の南にある古いリゾート地の廃墟だが,そこには近づいてはいけない」 とかなんとか教えてもらいます。そして3人でバーで休んでいると,カウンターに座っている2人組の男から 「その廃墟なら案内するぜ」 と申し出があります。実は,あの強盗2人組です。翌朝,3人は車に乗り込みますが,車中での2人組強盗のスペイン語の会話から,ジェレミーは彼らが犯人だと知ります。そして,彼らの銃を奪い,例のリゾート跡地に行けと命令しますが,男はやけに怖がります。
そしてソフィアとロブ,ジェレミーは廃墟に到着しますが,そこでキャサリンと再会しますが,彼女の様子が何か変です。そして彼らはこの廃墟に潜む恐ろしい謎に・・・という映画でございます。
この廃墟にある教会は,「欲望を解き放て! 何でも好きにやれ!」 という教え(?)を信じる人たちが建てたもので,そこで凄惨な事件が起きたらしい,というのは何となくわかります。で,キャサリンたちはこの建物に入ってから 「欲望を解き放ち,好きなことをする」 訳ですが,何かがとり憑いた結果として彼女たちが変わっていったかどうか,最後まで不明です。
普通の映画監督なら,過去に起きた凄惨な事件の顛末をきちんと描き,その後,その廃墟を訪れた人が悪霊に取り付かれたように殺し合う様子を描き,そのため,地元民たちは近づかないようにしているんだよ・・・というようなあたりを丁寧に描くはずです。その上で,何も知らないお姉ちゃんたちが廃墟に迷い込んでしまった,というストーリー展開にするはずです。要するに,過去と現在の関連性をきちんと説明するわけです。ところがこの映画では,過去と現在をつなぐものが全くないので困っちゃうのです。せめて,町の占い老婆がソフィアたちに 「実はあの廃墟ではこんな恐ろしいことが起きて,誰も近づかんのじゃ」 とか説明して欲しかったです。
それにしても,「ガイドしてやるぜ」 って近づいてきた男二人組の車に乗り込む女子4人,バカですね。レイプして下さい,金品を盗んで下さい,殺して下さい,と言っているのと同じです。無防備にもほどがあります。誰か彼女たちに「危機管理」という言葉を教えてあげて下さい。
それにしても,2人組強盗は絵に描いたような草食系男子で笑っちゃいます。きれいなオネエチャン4人がいて,2人をロープで縛っているわけですから,あとすることといったら,残り2人をオネエチャンを裸にすることですよねぇ。裸にしたらエッチですよねぇ。女性を見てラテンの血が騒がないメキシコ男子って,映画の中では初登場じゃないでしょうか。おまけに奪うといっても,婚約指輪とかわずかお金くらいですから,君たちはそれで満足しているのか,と説教したくなります。
それから,スプラッターシーンはそこそこありますが,冒頭の 「舌切りおばちゃん」 がちょっぴりエグいくらいで,後は血糊が取ぶくらいで大したことはありません。この辺もやたらと淡泊かつ草食系です。
というわけで,草食系アメリカ人が作ったヘタレ系バイオレンスホラー映画でございました。
(2012/11/22)