《モンスターズ地球外生命体 "Monsters"★★★★(2010年,イギリス)


 もしもあなたが映画を作ってみたいと考えていて,でも手元に130万円しかなかったら,どういう映画を作るでしょうか。130万円といったら奥行き150センチの家庭用グランドピアノが買える金額ですが,映画作りとなったらどうでしょうか。普通なら,家庭用ハンディカメラをつかって日常の風景の一コマと人生の機微を描いた短編とか,シュールな笑いの連続の短編とか,アイデア勝負の短編アニメとか,そこら辺がやっとだと思います。

 ところが,ギャレス・エドワーズさん(イギリステレビ界で長くVFXの仕事に携わってきた)はたった1万5000ドル(当時のレートで130万円!)の制作費で1時間半の本格的モンスター映画を作っちゃったのです。もちろん,低予算なんでチープなところはありますが,全体と貫くテーマの明確さと強いメッセージ性,低予算ならではの工夫,そして主演俳優二人の生き生きとした魅力が,この映画を見事な作品に仕立てました。低予算のあおりを食って,モンスター映画ならではの派手な破壊シーンやアクションシーンは作れなかったようですが,最後まで緊張感を途絶えさせない構成力と脚本は見事だと思います。

 ちなみにこのエドワーズ監督は早速ハリウッドの目に留まり,「ゴジラ@ハリウッド・バージョン」の次回作でメガホンを取ることが決まったそうです。


 2009年,ついに人類は地球外生命体の痕跡を発見し,NASAの探査機はその生命体を回収して地球への帰途についたが,メキシコ上空で探査機は爆破してしまう。そして数年後,メキシコにタコのような形の巨大生物が発生するようになり,アメリカ政府はメキシととの国境に高い防御壁を作り,同時に,メキシコ政府と協力して巨大生物に空爆を行なって絶滅を図ろうとしていた。そしてメキシコ政府はメキシコ北部を危険地帯として封鎖していた。

 そんなある日,メキシコで仕事をしていたカメラマンのコールダー(スクート・マクネイリー)は新聞社の社長から「メキシコ南部で休暇中に空爆に巻き込まれて怪我をした娘のサマンサ(ホイットニー・エイブル)を無事に連れ戻すように」と命令される。当初二人は列車で港を目指すが,到着した頃にはすでに港は閉鎖されて軍の管理下にあった。そして二人は危険地帯を通過してアメリカ国境を目指すことにしたが・・・という映画です。


 この映画は色々な読み方ができます。例えば,「北部危険地帯」として突然封鎖され,そこで日常が突然断絶状態に置かれるのは [3.11] の原発事故後の福島の状況とおはじですし(ちなみに,映画制作は2009年),危険地帯に取り残された人々はそこで生きていかなければいけない,という風景は世界各地の紛争地の光景そのものでしょう。

 また,壁を作って怪物の侵入を防ごうとするアメリカの姿は,[9.11] 以降のアメリカの姿と重なるし,その壁に到達したコールダーが「アメリカを外から眺めるのと内側から見るのでは,全く違って見える」というセリフも意味深です。

 同様に,アメリカ軍の空爆によって家を失って呆然としている人を撮影するコールダーに社長令嬢サマンサが 「あなたは,人が不幸になるのを待っているみたい」 となじるシーンで,コールダーが 「カメラマンは医者と同じだ。どちらも他人の不幸で仕事をしている」,「 知ってるか? モンスターに殺された子供の写真は5万ドルで売れるが,笑っている子供の写真の値段はゼロだ。 だから俺は悲劇を撮る。生きていくためさ」 と答えるシーンも,医者としては非常に納得。医者も看護師も人の不幸が飯のタネです。


 私はこの映画を 「外来生物は運ばれた環境でいかに生息域を獲得していくのか」 という物語としてみてみました。この映画のモンスターはもちろん,その本来の生態系から切り離されて,強引に地球に移動させられたものであり,これはモンスターの意志ではありません。しかし,強制的に地球に運ばれた,俺達の意志ではないと文句を言っても元の世界に戻れるわけではないので,そこで生きていかざるを得ません。これは,ハブ退治のために沖縄に持ち込まれたマングースも,ウシガエルの餌として日本に持ち込まれたアメリカザリガニも同じです。

 そこで,このタコ型生物は 「メキシコの山中の樹の幹に産卵し,孵化したら川で水中生活をして次第に大きくなる」 という生活サイクルを獲得します。日本で言えばモリアオガエルのような生活サイクルです。


 また,メキシコの危険地域の住民たちによれば 「あいつらは体が大きいだけで性質はおとなしい。ただ,攻撃を受けると怒り出し,暴れだして手が付けられなくなる」 と説明されています。つまり,彼らが暴れる原因は 「人間の攻撃」 であり,人間が攻撃したから彼らが暴れるようになった,ということがわかります。これも何やら意味深です。

 そういうおとなしい連中でも,メキシコで増えすぎてしまうと新しい生息域を拡大しないと生きていけませんから,当然のこととして北上してアメリカ国境を超えてしまうわけです。それに対してアメリカ軍が空爆し,万里の長城のような防御壁を築いて侵入を防ぐわけです。

 そういうアメリカに対し,メキシコの危険地域で 「モンスターと共存しながら生活している」 住民たちは 「自然のものに対し,壁を作って侵入を防ごうとしても無駄じゃよ」 と冷ややかに眺めているし,アメリカ軍空爆で家族を失った人や家を失った人は,アメリカに対し反対運動も起こるわけです。巨大だけれどおとなしい怪物は実害はないけれど,アメリカ軍の方は確実に実害をもたらしているわけですね。ううむ,深いのです。


 ハリウッド製の100億円をかけたSFX超大作に比べると,なにせこっちはその1/1億の予算ですから,派手さや見栄えや豪華俳優陣という点では最初から勝負になりませんが,内容の真摯さと深さはハリウッドの豪華絢爛大バカ映画と比べ物になりません。

 そういうわけで,見てよかった映画です。

(2012/12/28)

Top Page