無限ループに落ち込んでいく様子を描いた一群の映画があります。朝起きたら昨日と同じ日が繰り返されたとか、自分が死ぬ夢を見て目が覚めたら棺桶の中だったとか、そういう類の映画です。もちろん、時間がループするなんてことは絶対に起こりえない状態ですから、謎解きとしてよく使われるのは夢落ちだったり、死ぬ寸前の脳味噌走馬燈が生み出した幻影だったり、異次元空間迷い込みだったりするわけです。
そういう無限ループ映画の中で本作品はかなりよくできた部類に入ります。ループするたびに主人公の視点が異なるため(これがこの映画のキモですね)、同じ事件が繰り返されているのに全く別の真相が見えてきて、最後に全体像が明らかになるという作り方は見事です。そして、方々に張り巡らされた伏線が最後にほとんど回収されるのも、この手の映画としては非常に良心的です。
物語の真相は最後の最後に明かされますが、恐らくこれが「読めた」人はほとんどいないでしょう。私も「これが真相かな? それともこっちかな?」という興味で最後まで見てしまいました。その点では見事な作り方です。とはいっても、その真相が分かったからといって、見終わった後に深い感動があるというタイプの映画ではないし、見たからといって人生がちょっぴり豊かになるような映画ではありません。ラストまで見てしまったらそれでおしまい、という「後に残らない」映画です。
ちなみに監督は《サヴァイヴ 殺戮の森》、《0:34 レイジ34フン》など、マニアの間ではちょっと有名なクリストファー・スミスさん。
あと、この映画を見てみようと思っている人は、見る前にネタバレ系のレビューは読まない方がいいです。せいぜい、「巨乳のお姉さんが無限ループ殺人事件に巻き込まれていく映画らしい」程度の予備知識で見始めた方がはるかに面白いです。ネタが勝負の映画ですからね。そして、ラストまで見てよくわからない部分があったら、初めて「ネタバレ・レビュー」を読んで下さい。
自閉症の息子を持つ(恐らく)シングルマザーのジェス(メリッサ・ジョージ)は友人に誘われて、子供を特殊学校に預けた後にヨットセーリングに参加する。そのヨットには一組の夫婦など6人の男女が乗り込んでいた。
彼らは洋上のセーリングを楽しんでいたが、突然、風が止まったかと思うと向こうから雨雲が近づいてきたかと思うと、いきなり暴風雨に巻き込まれ、ヨットは転覆する。5人は何とかヨットにたどり着いたが、1人の女性の姿が見えない。途方に暮れる彼らの前に、突然、一隻の大型客船が姿を現し、近づいてくる。
彼らは何とか船に乗り移るが、不思議なことにその船に人の姿はない。だが、ジェスにはなぜか、この船に見覚えがあった。この船に乗った記憶があるのだ。彼らは船内の捜索を始めたが、その時、ライフル銃を持ち覆面を被った殺人鬼が突然現れ、仲間たちは次々に銃弾に倒れていく。ジェスは船内を逃げ回り、なんとかデッキにたどり着くが、そこで彼女は転覆したヨットの上で手を振って助けを求める自分たち5人の姿に気がつき・・・という映画です。
もうこれ以上、ネタバレはしませんが、もしもご覧になる方がいらっしゃったら、この客船の名前(Aeols,アイオロス)と、その名前の由来になるギリシャ神話のエピソード(アイオロスは風の神。その子がシーシュポス。シーシュポスは死神を騙してこの世に居座った罪で,岩を山に押し上げては岩が転げ落ち,その岩をまた押し上げなければいけないという罰を受けた)に注目してください。無限ループの謎を解く鍵はここです。そうすると、最後に登場するタクシー運転手が誰で、ラストシーンで彼がジェスにかける言葉の意味も分かります。
というわけで,今回は手抜きレビューでした。
(2012/12/29)