遺伝子操作されたネズミがうじゃうじゃと繁殖し街を襲う,という動物パニック映画で,この手の映画としてはかなり丁寧に作られている方で,安っぽさはほとんど感じさせません。むしろ,しんと静まり返った街の風景や,人々が避難する修道院の様子などはかなり美しいです。物語としての起承転結もしっかりしています。また,登場人物の紹介もなかなか手際が良く,心情の変化もしっかりと描かれています。
ちなみに,原題は "Ratten2" です。ということは "Ratten" の続編でして,こちらの方は日本では《ファングス》というタイトルでDVDになっていて,当サイトでも2006年にレビューを書いています。とは言っても,自分で書いたレビューを見ても,どんな作品だったのか思い出せないくらい記憶に残っていません。映画の中でも 「3年前のあの事件」 という言葉が数回登場し,登場人物の設定は "Ratten" を引き継いでいます。とは言っても,前作を見ないと理解できない,というわけでもありません。
ただびっくりするのは,主人公としか見えない登場人物が映画の真ん中あたりで呆気なく死んじゃうことです。いやはや,これにはびっくりしました。どうやら,この人物は前作の主人公で,本作では 「前作の主人公が死んで新たなヒーローに主人公役をバトンタッチ」 という大河ドラマのような構想のもとに作られたようです。映画の作り方としては面白いんですが,何しろ 「この映画って何人が見ているんだろう?」 レベルの地味作品ですから,ちょっと物悲しい気分になります。
ちなみに "Ratten" も "Ratten2" もドイツのテレビ向け映画ですので,この手の映画に付き物の残虐シーンはほとんどないし,お色気シーンは3ヶ所ありますがちょいとオッパイを見せる程度ですので,目くじらを立てるほどじゃないです。ちなみに,いかにも "ratten3" に繋がりそうなエンディングですが,こちらの方はまだ作成されていない模様です。
映画の冒頭,渋いオッチャンが登場します。前作で活躍した主人公ダブロックです。そして,元傭兵のシュトゥッフを伴って,ドイツの田舎町に向かいます。前作で一緒にネズミ退治に奔走した友人のヴェルナー(その街の市長をしている)の結婚式に参列するためです。そして,結婚式前日の 「独身最後のパーティー」 のどんちゃん騒ぎの最中に警官がやってきて,自宅浴室で動物に噛み殺された若い女性の死体が見つかったとヴェルナーに告げます。やがてそれはネズミの群れに襲われたことが判明します。ネズミと聞いたら黙っていられないダブロックとシュトゥッフたちは事件の捜査を始めます。
ネズミは,市からネズミ駆除方法の研究を委託された生物学者,マティが遺伝子操作で生み出したものでした。マティは気温が摂氏0℃になると死んでしまう耐寒性の弱いネズミを作り出すことに成功しましたが(ドイツの冬は寒いから,ネズミは死んじゃうわけね),凍え死ぬ前にネズミは凶暴化してしまう性質まで帯びてしまったのです。そして,実験室の掃除係が手違いから10匹ほど逃してしまい,それが増えたのです。
ダブロックたちはゴミ焼却場が怪しいとにらみ,踏み込みますが,そこは既にネズミの巣窟となっていて,ダブロックはここで命を落とします。死せる友の遺志を引き継いだ元傭兵シュトゥッフは,街のことならなんでも知っているヴェルナーの婚約者の妹と協力し,ネズミの群れを一箇所におびき寄せる計画を立て・・・という映画でございます。
多分,ネズミ嫌いにとっては拷問のような映画でしょうね。排水口やら通風口からウジャウジャと湧き出るようにネズミが群れを作って襲ってきます。ネズミ嫌いは見ないでね。ただ,前述のようにネズミに人が襲われるスプラッター・シーンはないので,スプラッター方面はダメだけどネズミなら大丈夫,という人は安心してご覧下さい。
なんでこんなに凶暴なネズミが生まれたのか,という説明部分は一応納得できる範囲です。ただ,気温が下がったらネズミ君たちは多分,温かいところに逃げこむと思うんですよ。「おっ,今日は冷え込むねぇ」 なんて呑気なことを言って凍死するネズミなんていないって。だから,マティ博士の遺伝子操作は最初から無理があったと思います。
あと,「街中の暖房を切り,廃工場の地下室にヒーターを設置してネズミを集め,集まったところで液体窒素のボンベを爆発させて冷凍ネズミにしちゃう」 という作戦で一網打尽を狙いますが,それだったら,鋼鉄製コンテナをいくつも並べて温め,ネズミが集まったところで扉を閉めてネズミを閉じ込め,屋外に放置すればいいだけっすよね,と誰しも考えつくところですが,ネズミパニック映画のラストは爆発シーンでなければいけない,というお約束を守るために,この簡単な方法は却下された模様です。
あと,凶暴なネズミのはずなのに,ヒーターの熱に集まったネズミ君たちはいたっておとなしく,シュトゥッフに噛み付いたりしません。もしかしたら礼儀正しいネズミなんじゃないか,という気さえしてきます。
あと,市長の婚約者の妹さん役の女優さんが,メガネっ娘でちょっと可愛いです。元傭兵のシュトゥッフの言動に噛み付いたり,生物学のちょっとした知識があったり,何故かアーマライトM16(ゴルゴ13が使っていることで有名な狙撃銃)を撃てたりと,なかなかの活躍です。もちろんラストではシュトゥッフとラブラブです。
というわけで,もしも "Ratten3" が作られるとしたら,シュトゥッフが映画の途中で死んじゃって,このメガネっ娘ちゃんが遺志を引き継いてネズミ退治の陣頭指揮をとる,という展開になると予想されます。
(2013/01/25)