《サウンド・オブ・サンダー》★★★(2006年,ドイツ/アメリカ)


 普通に評価すればツッコミどころ満載のタイムスリップ系SF映画なんですが,映画が作られた背景というか事情を知ると,単なるB級映画と無碍に切って捨てることができなくなります。

 どういう事情かというと,当初は制作費100億円の本格派映画を目指して作られ始めたんですが,途中でプロダクションが倒産するわ,チェコで行われたロケの最中に水害に見舞われて莫大な被害が出るわ,と呪われたように事故に次々と見舞われ,何度も完成が延期されたらしいです。普通ならそのままお蔵入りになるところですが,監督のピーター・ハイアムズさんが残っているデータを何とか繋ぎ合わせ,未撮影の部分は安上がりなセットで撮影し,低予算で作り上げたCGを組み込み,なんとか一本の映画として完成させたのですよ。満身創痍ながらなんとかゴールに辿りつけたマラソンランナーみたいなものです。

 そういうことがわかると,場面によって映像の完成度が異なるとか,CGのクリーチャーがちょっと安っぽいとか,そういうのが気にならなくなります。むしろ,よくぞここまで作ったなぁ,よくここまで完成度を高めたもんだなぁ,と感心します。特に,「時間の波」襲来のたびに一つの部屋の中が次第に変化(荒廃)していく様子を写すことで,世界全体の変化を想像させる手法なんて見事ですよ。これならセットが一つで済んじゃいますからね。やはり映画作りは予算ではなく才能ですね。

 ちなみに原作はレイ・ブラッドベリの短編SF『いかづちの音』で,これは短篇集の『太陽の黄金(きん)の林檎 (ハヤカワ文庫SF)』に収録されているようです。


 舞台は2055年のシカゴ。ソニア・ランド博士(キャサリン・マコーマック)はついに夢のタイムマシン「TAMI」を完成させるが,タイム・パラドックスの発生を恐れて実用に反対していた。しかし,旅行代理店サイム・サファリの社長ハットン(ベン・キングズレー)はソニアを無視してTAMIを利用した金持ち向けのツァーを売りだす。白亜紀にタイム・トラベルし,恐竜ハンティングをするというツァーであり,それは大金持ちの間で大流行する。もちろん,過去を変えないようにするため,殺すのは5分後に火山噴火で死ぬ運命にあるアロサウルスであり,過去の世界からなにか持ち出すことや,何かを置いてくることは禁止されていた。

 タイム・トラベルの添乗員トラヴィス・ライヤー博士(エドワード・バーンズ)は旅行参加者の行動に常に目を光らせる役目だったが,あるツァーでレーザー銃が故障し,参加者がアロサウルスに襲われそうになるという事件が起こる。なんとかレーザー銃を復活させて恐竜を撃ち殺したが,パニックを起こした参加者の一人が規則違反の行動をしてしまう。一行は無事に元の世界に戻れたが,儲け第一主義のハットンは有機物センサーのスイッチを切っていたため,そのミスは見逃されてしまう。そのためタイムパラドックスが発生し,「時間の波」第一波が世界を襲い,世界中の植物は異常進化して巨大化し繁茂する。政府は直ちにタイム・サファリ社を閉鎖するが,それは何の解決にもならなかった。

 トラヴィス博士はTAMIの開発者,ソニアの協力を求め,原因を探っていくうちに,「誰かが白亜紀から1.3gの生物を持ち帰った」という事実を突き止める。そうこうしているうちにも「時間の波」は次々と押し寄せ,地上の動物たちも異常進化し,怪物と化していく。

 人類を救うためには,発端となったツァーにタイム・トラベルし,「1.3gの持ち帰り」を未然に防ぐしかない。トラヴィスとソニアはTAMIを動かそうとするが,そこにはモンスターの群れが待ち構えていて・・・という映画です。


 前述のような事情がある映画ですが,クリーチャーは結構うまく作られています。マンドリルの顔を持って2足直立もできる爬虫類とか,歯の鋭いリュウグウノツカイとか,人間が「時間の波」に飲み込まれてヨーダみたいなのに進化したとか,映像的にはかなり頑張って作っています。また,巨大植物に飲み込まれて荒廃していくシカゴの街なかの風景とかも結構見事です。

 ただ,事故が起こる前の2055年のシカゴの街の風景までは作れなかったようで,街を走る車の形が2012年の車ばかりで,ごくたまに近未来的な形の車が走っています。シカゴ名物の高架電車の設備は錆び付いているし(多分,40年後も今のものが補修もされずに使われているんだね),タイム・サファリ社の入り口は普通の回転扉でだれでも入れるしと,2055年と言いはるのはちょっと苦しかったようです。


 問題の「1.3gのお持ち帰り」の正体は靴底についていた蝶(正確には蛾ですね)です。参加者の一人が踏んでしまった,という真相なんですが,映像で見ると低空を飛んでいる蝶を足で踏みつけるんですが,人間に踏まれるようなマヌケな蝶はいないと思うぞ。

 それと「蝶1頭(ちなみに蝶の数え方は匹ではなく頭です)といえども生態系全体が変化する原因になるのだ」という説明は無茶苦茶ですね。例えば,古代ローマ帝国の犬一匹が寿命より早く死んだからといってその後の世界が変わるわけじゃないし,14世紀のモンゴルの騎馬軍団のウマが一頭足りなくなってもその後の歴史は変わりません。
 しかも,そもそもこの蝶はここで踏み殺されなくても,5分後の火山噴火の火砕流に飲み込まれる運命だったはずです。巨大アロサウルスですら飲み込まれるんですから,蝶なんてひとたまりもないでしょう。もちろん,この蝶が子孫を残す余裕もないし,たとえ卵を生んだとしても卵ごと火砕流に飲み込まれるだけです。どう考えても,歴史が変わるわけがありません。

 また,5分後に死ぬ運命だったアロサウルスなら5分早めに殺しても影響はない,という論理もおかしいです。その5分間でアロサウルスが踏み殺すはずだったアリとかダンゴムシとかが死なないことになり,そのために世界は変化しちゃいますよね。何しろ,蝶1羽でも世界が変わるんですから・・・。

 それと,白亜紀の蝶1羽を踏んづけられないようにと白亜紀にタイムスリップするより,数日前のツァーに出発する前の時点に移動し,レーザー銃の点検をすればよく,これで問題は解決したはずです。この手のタイム・スリップものを理詰めで問い詰めていくと,そこかしこに矛盾点が見つかるんですよ。これはタイム・スリップものでは避けられないようです。


 そういうわけで,本格派SF映画ではなくB級のタイムスリップ映画であることを最初から知ってみれば,かなり楽しめる作品じゃないかと思います。

(2013/02/15)

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