1970年代のアメリカで実際に起きた連続猟奇殺人事件をもとにして作られた映画なんですが,実につまらなかったです。この手の映画としてはごく常識的(?)な事件なんで,見せ方とシナリオを工夫すればそこそこ及第点くらいは取れるはずなんですよ。それなのに,見事に赤点取っちゃいました。現実に起きた事件という素材をあまりにも馬鹿正直に,そして何の工夫もせずに扱うとこういう映画になります。要するに、テレビでの再現ドラマレベルですね。
多分、映画監督も脚本家もすごく真面目な人なんでしょうね。実際に起きた事件がテーマだから、実際に起きたことを順序よく撮影していけばいい映画になるって信じていたんでしょう。テレビのワイドショーの再現ドラマを撮らせたら上手いんだけど・・・という感じの方かもしれません。
アメリカのある町(?)ではヒッチハイク中の女性だけを狙った殺人事件が起きていた。刑事のトム(クリストファー・ステイプトン)が捜査に当たっていたが、犯人の正体は杳として不明だった。そこでトムは友人のエド・ケンパー(リック・ビッツェルバーガー)の助けを借りることにする。エドは窃盗罪の前歴はあるが、犯罪学の知識が豊富だったからだ。エドは横暴な母親と暮らし、自閉症(と映画の中では説明されている)だった。
しかし、トムの必死の捜査にも関わらず、犠牲者は増えていった。そして、殺人犯の正体が明らかになり・・・という映画です。
映画は冒頭から飛ばしまくります。いきなり首のない死体がキッチンの椅子に座っていて、ちょんぎられた頭部はオーブンの中から見つかります。この手の映画に弱い人なら、ここだけで拒絶反応でしょう。そのくらいエグいです。でも、最初に飛ばしまくるホラー映画はその後失速して、加速度的につまらなくなる、という経験則があります。今回もその経験則が成立です。
普通、この手の映画では犯人が明らかになるのは終盤になってからです。あくまでも刑事のトムが主人公ですから、複数の事件の共通点を割り出すなどして犯人に迫っていくトムの姿を描く必要があるからです。そして普通なら、トムと犯人(大抵は恐ろしいほど頭が切れて、しかも残忍)のスリリングな頭脳戦が続くはずなんですが、なんとこの映画では20分くらいで正体がバレます。ご想像の通り、エドです。主要登場人物が二人しかいなくて、しかも一方が犯人なんて映画は初めてですよ。
というわけで、犯人が自分から名乗ってくれるので、犯人探しというミステリー要素は皆無になります。しかも、エドはすごくお喋りなんで、何でこういう事件を起こしたのかとか、母親との確執とか、ベラベラとトムに説明してくれます。もうここまでくるとエドだけで成立する映画じゃないの、という気さえしてきます。
もちろん、刑事の親友で私的に捜査に協力していた男が実は連続殺人の犯人だっが、というのは設定としてはありですが、それなら正体をバラすのはもうちょっと先にしてくれないと困るんですね。だって、エンディングまでの間が持ちませんから。
案の定、ここで犯人が明らかにしてしまったため、間が持たなくなりました。そこで、エドの殺人シーンを派手でグロく見せたり、エドからトムへの電話が長々とあったり(しかも、これだけ長くしゃべっても逆探知がなかなかできない)、エドの母親の異常さぶりとか、エドの不幸な生い立ちとかを説明したり、トムと妻の無関係な会話シーンを入れたりして、なんとか88分映画に引き延ばします。
でもって、トムの捜査も何だか変なんですよ。エドが真犯人であることは明らかだし、何より彼の自宅の庭から頭蓋骨がゴロゴロ見つかっているんですから、テレビとか新聞に「こいつが真犯人です」ってエドの顔写真をどんどん流せばいいじゃないですか。何でそういう当たり前のことをトム刑事は思いつかないんだろうか。というか、警察の誰も「テレビで情報を流しましょう」と言い出さないのが不自然です。
あと、エド役の俳優さんが余りにも普通すぎる中年おっさんです。もちろん、ごく普通のおっさんが連続殺人犯である、というギャップも面白いけど、俳優として凡庸なため、犯人の異常さとか心の闇とか、そういうあたりが画面から全く伝わってきません。低予算映画なので、有名俳優は使えなかったという裏はあるんでしょうが、もうちょっと上手い、華のある役者さんを使って欲しかったです。
そういうわけで、見る価値は全くない映画でございました。
(2013/03/15)