《パーフェクト・センス》★★(2011年,イギリス)


 全てにおいて中途半端な映画です。人間の五感を奪っていく謎の病気が世界中に蔓延していったら,人類はどうなるんだろうか,その時人間は人間らしく生きていけるのだろうか,そういう状況でも愛は大事だよね,という内容なんですが,その病気の正体は最後まで不明だし,世界中に蔓延して大変なことになっているという割には,主人公たちが暮らす街は平穏に運営されているし,やたらとベッドシーンはあるけど単調だし,テツガク的ナレーションは何だかわざとらしいし・・・と,褒めるところがほとんどありません。ただただ,淡々と平板に時間ばかりが過ぎていく映画です。

 映画の作り手が自分の考え出したテーマに陶酔しきっている様子はよくわかりますが,それが観客(少なくとも私)に伝わってきません。このテーマなら,もうちょっと上手く料理できるだろうし,「極限状態での男女の愛」をテーマにしたいなら切り口を変えるべきでしょう。

 ヒロインのエヴァ・グリーンの体を張った演技は見事なんですけどね・・・。


 感染症の研究者スーザン(エヴァ・グリーン)は,近所のレストランのシェフ,マイケル(ユアン・マクレガー)とふとしたことから知り合った。だがその時,「不意の悲しみの発作に襲われた後に急に嗅覚が失われる」奇病が発生し,瞬く間に全世界に感染が広がり,人類は嗅覚を失った。そんな中でスーザンとマイケルはお互いに引かれ,愛し合うようになる。

 だが,そんな人類を翻弄するかのように,今度は「不意に食欲が異常亢進した後に味覚がなくなる」という奇病まで発生し,人類は嗅覚も味覚も失ってしまう。そんな中でもマイケルたちは必死に客に提供できる食事を工夫し,同時にスーザンとマイケルはそれまで誰にも隠していた秘密を打ち明けあう仲になっていた。

 しかしその次は「不意に怒りの発作に見舞われた後,聴覚を失う」症状が出現して全世界から音が失われ,スーザンとマイケルは別れてしまう。しかし,最後に人類は「不意に幸福感を感じるとともに視覚を失う」ことになる。闇に閉じこめられる寸前,マイケルとスーザンは互いを求めて再会し,抱き合った瞬間に二人とも闇に包まれ・・・という映画である。


 このように,嗅覚⇒味覚⇒聴覚⇒視覚の順に五感が失われる,という病気(?)が登場する。これが何とも都合よすぎというか,ワザとらしいと言うか,余りにもリアリティがなさすぎる。いかにも「愛をテーマにした映画に都合がいいように,脚本家が作り出した病気」という感じがプンプンである。おまけに,それぞれの感覚を失うために怒りとか悲しみなどの発作を伴う,なんてあたりが,何とも嘘臭すぎて興醒めである。これではまるでファンタジー,おとぎ話だ。

 脚本家や映画監督がファンタジーで「愛」を語ろうとするなら,新型感染症を素材にすべきではないと思う。もしもどうしても,パンデミック感染症を狂言回しに使いたいのであれば,最低限,ウイルスとか感染経路とか,それっぽく説明すべきだと思う。なぜこれほど急激に世界中で蔓延し,治療法も対策もないことについて,観客が納得できる説明が必要だろう。


 おまけに,ヒロインのスーザンは感染症の研究者という設定なのに,この映画ではもっぱらベッドの中で活躍(?)するだけである。つまり,彼女を感染症研究者に設定した意味がない。普通なら,彼女が自分の専門知識を駆使して活躍する設定だろうと思う。まして,マイケルが「味覚も嗅覚も失われた客」のために,触感を楽しむ料理を新たに開発するなどして活躍しているのだから,感染症研究者がここで頑張らなくて,どこで頑張ればいいのだろか。


 それと,個々のエピソードの提示の仕方が下手なため,全体が散漫というか,平板になってしまったと思う。スーザンと姉の会話も効果的ではないし,スーザンが「水兵さん」と呼びかけるようになった理由と,彼女と父親のエピソードも全く繋がらない。つまり,最初にマイケルに会った時に「水兵さん」と呼びかけなくてもいいような気がするのだ。

 平板といえば,二人のベッドシーンもそうだ。エヴァ・グリーンのオッパイもろだしで頑張る最初のベッドシーンはちょっといいけど,それが2度,3度となると単調になるだけで,むしろ,時間稼ぎでベッドインさせただけにしか見えない。

 あと,全世界的に暴動が起きたり略奪が起きたりしているという映像が流れるが,どうやらこれはYouTubeあたりからのニュース映像を借りてきただけみたいだ。そして,肝心の二人が暮らす街では何事も起きないのだ。この街の住人たちは淡々と日常生活を送っているし,事件も起きたりしない。暴動が起きて混乱するのはテレビのニュースだけだ。このあたり脳そっぽさもひどいと思う。


 もちろん,予算の関係で二人が暮らす半径100メートルの世界しか撮影できなかったのかもしれないが,それならそれでもうちょっと工夫のしようがあるはずだ。このあたりが嘘っぽいため,映画を見ていても二人に感情移入できないのだ。何だか二人でお芝居しているんだなぁ,絵空事の世界に閉じこもっている感じなんだよねぇ,という感じしかしないのだ。

(2013/03/22)

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