サンタクロースの原型と言われる「聖ニコラス」は実は悪逆非道の暴君で、その亡霊が満月の12月5日に蘇ってはアムステルダムの町を血の海にする、というオランダ製のスプラッター・ホラー映画。B級映画の世界では数年に一度くらいの頻度で「サンタクロースは実は殺人鬼だった」というネタの映画が作られていますが、これもその一つと考えていいでしょう。
首がちょんぎれたり、腕がちぎれたり、顔がまっぷたつになったりと、スプラッター・シーンはかなり力を入れて作っているし、ストーリーの起承転結は比較的しっかりしているし、映像もきれいです。しかし、ストーリーのメリハリがなくて単調なため、何とも退屈な作品になってしまいました。ネタ自体は悪くないのでちょっと残念です。
原題の "Sint" は英語の "Saint" ですね。ちなみに、一般的にクリスマスと言えば12月25日ですが、オランダでは12月25日とは別に12月5日を『聖ニコラス(Sinterklaasje)の降誕祭』としてお祝いする風習があるそうで、この映画の舞台も12月5日となっています。
15世紀のオランダを村人たちに暴虐の限りを尽くす暴君、聖ニコラスが支配する村があった。そして村人たちは余りに非道さに立ち上がり、12月5日の満月の晩に聖ニコラスがアジトにしている船に火を放ち、聖ニコラスを焼き殺してしまう。復習の鬼と化した聖ニコラスは32年ごとに訪れる「満月の12月5日」に従者たちを伴って復活しては、住民たちを手当たり次第に殺しまくっていた。
そして舞台は現代のアムステルダム。32年前に一家を皆殺しにされたトラウマを持つ刑事のフートは、過去の言い伝えや教会の記録から、満月の12月5日に聖ニコラスの亡霊が蘇って大量虐殺を行っていることを発見し、それを未然に防ごうと「聖ニコラス降誕祭」を中止するように上司に進言するが、もちろん全く相手にされず、それどころか休職させられてしまう。
一方、高校では降誕祭のプレゼント交換で賑わっていたが、恋人ソフィーと別れたばかりのフランクは、ソフィーの友達のリサをものにしようとあの手この手で必死だが、リサはそんなフランクを信じられない。
ソフィーは弟と自宅で留守番をしていたが、そこに聖ニコラスの亡霊が登場し、二人は惨殺されてしまう。そのころ、フランクは仲間たちと降誕祭に向かうが、その途中で聖ニコラスに襲われて仲間は殺されてしまう。何とかフランクは逃げられたが、警察は「ソフィーとその弟」の殺害容疑でフランクを逮捕する。フランクは車で護送されるが、またもや聖ニコラスに襲われ、警察官たちはこれまた殺される。そこに登場したのが休職中の刑事フートで、聖ニコラスが苦手とする火でフランクを助ける。
フートは聖ニコラスの船を燃やしてしまえば聖ニコラスが復活できないことを知り、その船を爆薬で爆破しようと考えていて、火薬満載のボートで幽霊船に近づこうとしたが、逆にテロリストとして警察に逮捕されてしまう。果たしてフランクとフートは聖ニコラスの幽霊船を爆破できるのでしょうか・・・という映画です。
スプラッター・ホラー映画としては、被害者の数自体は少なくないし、殺され方も気合いが入っているし、えぐいシーンも満載です。そして、ストーリーの展開とテンポも悪くありません。そして何より、赤い法衣に身を包み、手に錫杖を持って颯爽と白馬に乗る聖ニコラスの姿が格好いいです。特に、屋根の上で嘶く白馬に跨がっている姿は絵になります。そして、煙突から進入して住民を殺し、死体を袋に入れて煙突から出るという設定も秀逸です。
でも、映画としてみると何とも残念なんですよ。それはスケール感が微妙なためです。聖ニコラスの亡霊が32年ごとに蘇るのはいいとして、それは特定の相手を狙っての行動ではなく、不特定多数を殺すのが目的です。だから、被害者と加害者の関係性がなくなってしまい、物語性が希薄になってしまいました。要するに、「聖ニコラスは蘇りました。そして人を殺しました。そしていなくなりました」というだけのストーリーに要約されます。
それと、「夜のアムステルダムを蹂躙」と言っておきながら、町全体が炎に包まれるわけでもなく、「町全体の住民を手当たり次第に殺す」という設定の割には被害者は少ないです。なんだか全体に、半径500メートルの出来事という印象で、こじんまりした感じしかありません。
何よりダメなのは、主人公のフランクとヒロインのリサの印象が薄すぎて、この二人を主人公に据えた意味がありません。フランクはそれでもまだ、最後の爆破シーンでちょっとだけ役に立ちますが、それ以外は警察に取り調べされているシーンしか記憶に残ってないし、リサに至っては「こいつ、いてもいなくてもいいよね」という程度の登場人物です。常識的にはフランクでなく刑事フートを主人公にして、彼の復讐物語にすべきだったと思うし、そちらのほうがストーリー的に面白かったはず。
あと、警察がいきなりフランクを「ソフィーとその弟殺害事件」の容疑者として逮捕しちゃうのも無理矢理な展開で、ちょっとついていけなかったですね。「振られたばかりの元彼だから」というだけで逮捕するか? 同様に、市長さんが「この事件はフートが仕組んだテロ事件として処理しろ。聖ニコラスのことは伏せておけ」というのも無理矢理ですね。だって、聖ニコラスが馬に乗っている様子は多数の市民が見ているわけだし、そんなの見たら、全員が携帯電話やスマホで動画撮影してYouTubeにアップし、聖ニコラスの姿は世界を駆けめぐります。32年前と違って、2010年では隠し通せないと思うぞ。このあたりもストーリー作りが甘いぞ。
それと、アメリカ映画と違って子供がバンバン殺される(さすがに殺害される様子はないけど)のにはちょっとビックリ。小児病棟の入院患者なんて全員焼死だもんな。オランダではこう言うのは問題にならないようです。
あと、最初の方の「降誕祭のプレゼント交換」でいきなりアダルトグッズ(シリコン製でオチンチンの形をしたアレだ)が出てきて、ソフィー(女子高生だぞ)がそれを掴んで「これはあんたね」とフランクを睨むシーンにもちょっとビックリ。一応ここは高校の教室なんですけど・・・。オランダの高校ではこれが普通? まぁ、お笑いシーンと言えなくもないけどね。
というわけで、もしも私がこの映画の脚本を書くとしたら、舞台は「聖ニコラス降誕祭」で派手なお祭りの真っ最中のアムステルダム、主人公は32年前に一家を惨殺された中年刑事フートにして、若い女性刑事をヒロイン役にします。そして、町で一番古い教会の老牧師(実は64年前に家族を聖ニコラスに殺された過去を持つ)が「実は私もこの日を待っていたんじゃ。これに聖ニコラスの弱点が書かれておるのじゃ」と古文書を示して二人に協力しちゃう。その上で、12月5日の午前零時までに幽霊船を爆破しないといけないと32年後にまた惨劇が、いうタイムリミット型のサスペンス・ホラーにしますね。
(2013/05/06)