《ラスト3デイズ〜すべて彼女のために〜 "POUR ELLE"★★★★(2008年,フランス)


 無実の罪で捉えられ殺人罪で投獄された妻を取り戻すため,平凡な国語教師が緻密にして大胆な脱獄計画を実行する,というフランス映画。常識的に考えれば「奥さんが無実の罪であることは明らかなんだから,努力するなら脱獄の方向でなく,真犯人を探す方じゃないの?」とツッコミが入るところですが(だって,真犯人の指紋が凶器に残ってますからね),この映画の主人公は「彼女のために」脱獄させることしか思い浮かばず,そちらの方向に暴走を続けます。

 ところが,映画としてあまりに見事に面白く作られているため(特にラスト30分は息を呑む緊迫したシーンの連続),そういう不自然さに違和感を抱く暇がなくて,とにかくラストがどうなるのかが知りたくて、一気にラストシーンまで見てしまいました。


 舞台はパリ。国語教師のジュリアン(ヴァンサン・ランドン)は出版社に勤務する若く美しい妻リザ(ダイアン・クルーガー)、そしてまだ1歳にもなっていない一人息子のオスカル(ランスロ・ロッシュ)と3人で平穏な毎日を送っていた。しかしある朝、いきなり警官隊が押し入ってきて、リザを逮捕する。出版社の上司殺害の容疑だった。リザには身の覚えがない無実の罪だったが、上司と仕事の上で対立していたこと、凶器の消火器から彼女の指紋が採取されたことが決めてとなり、裁判の結果、禁固20年の刑が言い渡される。

 ジュリアンは妻の無実を信じていたが、リザは次第に精神的に不安定になり、自殺を図り、持病の糖尿病治療のためのインスリン注射を拒否するようになる。ジュリアンは以前出版された『7回の脱獄に成功した男』の著者に会い、なぜ7回も脱獄できたのかを聞き出し、緻密にして大胆な脱獄計画を練る。逃走に必要な莫大な資金を得るために、麻薬売人の元締め宅を襲い、彼を殺して金を奪う。すべては妻を取り戻すためだった。

 そんな時、3日後に妻が別の刑務所に移送されることが明らかになる。実行するなら今しかない。あと3日しか猶予はない。そしてジュリアンは・・・という映画です。


 いくら若く美しい妻との生活を取り戻すためといっても、麻薬売人の元締めを襲ったり殺したりはしないよね、という常識的判断をしてはいけない映画です。要するに、「目的のためには手段を選ばない」というのはモラル上許されることなのか、という視点はこの映画にはありません。だから、一般的モラルで物事を判断する人にはこの映画は合わないはずです。自分の幸せのためなら人を殺してもいい、ということになりますからね。

 しかし、そういうところを忘れて、脱獄の経過を楽しむ映画としてみると、これが俄然面白いです。途中で登場する「7回脱獄した男」から伝授される「脱獄の心得」がいいです。

  1. どんな刑務所にも隙がある。それが脱獄の「鍵」だ。
  2. 脱獄後は家族、友人、恋人との縁を切り、一切連絡を取るな。たいていの脱獄囚は家族や友人宅で捕まっている(ちなみに、この「7回脱獄男」は脱獄⇒自首⇒脱獄・・・を繰り返した)
  3. 子持ちの警備員でも容赦なく殺す覚悟を持て。
  4. 脱獄後の逃走には莫大な金がかかる。まず金を用意しろ。
  5. 直ちに国外に脱出しろ。陸路で他の国に行き、その空港から新聞も届かないような小さな国に行け。
  6. 逃走に必要な偽造パスポート、身分証はあらかじめ用意しろ。
 


 実際、ジュリアンはこの教えを忠実に守り、脱獄計画を立てますが、最初のうちは計画は断片的にしかわからず、どれがどこにつながるのかわかりませんが、それがラスト30分で全て見事に繋がります。あらゆるエピソードに意味があったことがわかります。実に見事に練り上げられた脚本です。

 どうやって国境の検問を通過するのかと思っていたら、あの短いエピソードがここで生きてくるのか。「逃走犯は幼い子供を連れた夫婦」と手配書が回るから、警察はまず車内の人数で判断しちゃうよね。ここは見事です。ほかにも、隣のアパートのゴミ捨て場にゴミを捨てるシーンとか、次第に家具が少なくなっていく部屋の様子とか、見事に意味がありましたね。


 それと、主人公のジュリアンを演じるヴァンサン・ランドンが実に見事です。いきなり妻が逮捕され、幼い子供との生活になってしまった中年男の悲哀と哀愁をリアルに演じています。若くて美しいダイアン・クルーガーとちょっと年齢差があるように見えますが、これも「(若くて美しくて魅力的な)妻を取り戻すためなら殺人だって!」と暴走する様子をリアルに見せています。これだけの美人に「あなたってとてもハンサムよ」と言われたら、誰だって頑張っちゃいますよ(この映画を見た中年おっさんたちは皆激しく同意するはず!)

 あと、息子ジュリアンが脱獄計画を立てていることを知ったジュリアンの父親の抑えた演技も見事です。警察に対し「ワシは息子とはしばらく会話もしたことがない」としらを切るところも渋くていいです。息子ジュリアンとの今生の別れであることを知り、老いた父が息子を抱きしめるシーンも胸に迫ります。


 逆に、最後まで違和感が残るのは、パリ警察の操作です。だって、凶器となった消火器にはリザの指紋のほかに真犯人の指紋・掌紋がばっちり残っているはずです。そして、殺人現場は会社の地下駐車場ですから、容疑者は会社の職員と言うことになり、職員全員の指紋を採取すれば真犯人はすぐに割り出せるはずです。このあたりはもっと緻密にプロットを練るべきでしたね。

 あと、麻薬売人の元締め殺害事件の現場に落ちていた車のガラスの破片からジュリアンが割り出されていくのも、ちょっと都合よすぎ。だって「これはボルボの破片で、この車種でパリを走っているのは37台だけ」ですからね。もしもジュリアンがプジョーやシトロエンなどの大衆車に乗っていたら、ジュリアンとリザはもっと楽に逃走できたことになりますね。


 いずれにしても、緻密に磨き抜かれたプロットと、主役のヴァンサン・ランドンとダイアン・クルーガー、その他の俳優陣の見事な演技と、最後まで目を離せないサスペンスフルな展開は一見の価値があります。
 ちなみに、本作の監督はフレッド・カヴァイエで,なんと長編映画第一作目とのこと。そして,この作品をもとに,監督ポール・ハギス,主演ラッセル・クロウでハリウッド・リメイク版が作られているそうです。

(2013/05/30)

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