新しい創傷治療:リヴィッド

《リヴィッド "Livide"★★★(2011年,フランス)


 2007年にフランスで公開されたホラー映画《屋敷女》はその内容から「女性,特に妊婦は絶対に見ちゃダメ! トラウマ必至!」と注目を浴びました(私は妊婦ではありませんがまだ見ていません)。その《屋敷女》のジュリアン・モーリー&アレクサンドル・バスティロ監督の第2作目がこの《リヴィッド》です。フランス語で「恐怖で真っ青になる」という意味のようです。

 こちらは前作のような血みどろ系ホラーではなく,ヴァンパイア伝説を根底にしたホラー・ファンタジーです(とは言っても,かなりエグいシーンが多いので,そっち方面が弱い人は見ちゃだめだよ)。ストーリーは一応,起承転結の形を取っていますが,「これってどういう意味?」という部分がかなり残ったまま終わります。だから,意味がスッキリ通っている映画が好き,という人もちょっと敬遠した方がいいかもしれません。両監督のインタビュー記事などを読んでも,スッキリ謎解き系の映画を作ろうという意図は全くなかったらしく,どうやら「俺はこういうシーンを撮りたかったんだ」,「こういう雰囲気の映画を作りたかったんだ」というあたりを最優先させたみたいです。だから,怖くて残酷で,それでいて映像が美しい映画を見たい,という限定的ファンにとってはとても面白い作品じゃないかと思います。

 ちなみに,両監督によると「Livide」という言葉にメッセージ性はなく,単に言葉の響きがきれいだから,という理由で選んだようです。徹頭徹尾,感覚重視の人のようです。


 フランスのブルターニュの小さな港町に暮らす若い女性リュシー(クロエ・クールー)がようやく見つけた仕事は訪問介護の助手(?)だった。介護士(?)の女性カトリーヌの車に乗り込んで訪問先に向かうが,カトリーヌはリュシーの瞳の色が左右違うことに気がつく。虹彩異色症である。そしてカトリーヌは「瞳の色が左右で違う人は,霊を呼び寄せる,って言われるのよ」と話す。

 二人が最後に訪れたのは,廃墟のような大邸宅だった。カトリーヌは「あなたはここで待っていなさい」と一人,邸宅に入るが,ヒマを持て余したリュシーは好奇心からその朽ち果てようとしている邸宅に入ってしまう。そして階段を登り,一番奥まった部屋に寝ていたのは酸素マスクをつけた骨と皮に痩せこけた老婆ジェセルだった。カトリーヌは「好奇心が強いのはこの仕事に向いているわ」と話し,この老婆はヨーロッパ中から生徒を集めたほどの有名なバレエの先生であること,一人娘を早くに病気で亡くしたこと,莫大な財産がこの屋敷に眠っているという噂があること,自分もかつて,その宝を探してみたことがあったが見つからなかったことなどを説明しながら,老婆に輸血する。

 その夜,リュシーは漁師をしている恋人のウィリアムと会い,行きつけのバーで新しい仕事のことを話すが,その邸宅に宝が眠っているかもしれないということを話してしまう。そしてウィリアムは悪友のベンをそそのかし,その屋敷に入り込んでお宝を頂いこうと考える。当初,リュシーは反対するが,屋敷のものを絶対に壊さないことを条件に屋敷に同行する。

 3人は屋敷に入り込み,鍵のかかっている部屋に到達し,老婆の首にかかっている鍵で扉を開けてしまう。そこには白いベールで覆われた等身大の人形が置かれていたが,それが不意に動き出したため,ウィリアムは反射的に殴りつけてしまう。その時,老婆の部屋から何か物音が聞こえ,惨劇の幕が切って落とされる・・・という映画です。


 とにかく,廃墟同然の屋敷の中が怖いです。一歩入っただけで,やばいものを感じる気配が漂っています。壁の動物の首も不気味なら,子供部屋の机に並んでいる動物の頭をした人形も怖いです。人形のように見えた白い少女がカクカクと動き出すシーンは本当に不気味です。そして,さり気なく置かれている小道具全てが恐怖を増大させます。それは過去の名作ホラー映画の「怖さ」を知り尽くした監督が,それらの作品を凌駕する恐怖を演出しようとしています。

 そして,それに輪をかけて残虐シーンは気合いが入りまくっています。派手に血がドバドバではなく,見ている方に「痛さ」が伝わってくるような描写の連続です。

 前述のように,この映画はヴァンパイア伝説をベースにしていて,若かりし頃の老婆ジェセルの一人娘が太陽の光を浴びて顔が焼けていくシーンはまさにヴァンパイアそのものですが,この娘は血を吸うのでなく肉を噛み取っていますから,ヴァンパイアというよりゾンビに近い感じです。多分,「太陽に弱いという設定はいただくけど,血を吸うだけだとインパクトに欠けるから,噛み取っちゃえ!」というノリで決めたんでしょうね。


 さて,リュシーを演じる女優さん,本当に美しくて魅力的です。最初に登場するシーンで帽子を目深にかぶってあの印象的な瞳しか見せないんですが,このシーンでもうこの人がどれだけきれいな人なのかがわかります。このシーンで既にこの映画は成功したも同然でしょう。

 そして,世界的バレエ教師のジェセルを演じているのはマリー・クロード=ピエトラガラですが,バレエに詳しい人はご存知のように,パリ・オペラ座のエトワール(主役を踊るプルミエールたちの中でも,最も花形のバレリーナのこと)であり,有名な振付師でもある人です。そんな超一流のバレリーナをホラー映画のバレエの教師役として出演させてしまうのですから,この映画の二人の監督はすごいです。

 あと,最後のシーン(少女が空をとぶシーン)は意味不明ですが,とても美しく,感動すら覚えます。特に,顔のひび割れが少しずつとれていき,元の美しい少女に戻るシーンはこの映画のあらゆる残虐シーンを浄化するほど印象的でした。


 そういうわけで,この映画に関しては,説明不足とか,ヴァンパイアなんだかゾンビなんだかわからないとか,起承転結になっていないとか,そういうことを批判するのは野暮というものでしょう。「考えるんじゃない,感じるんだ!」という映画ですから。

(2013/09/22)

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