『外来生物クライシス ー皇居の池もウシガエルだらけ』(松井正文,小学館101新書)


 1時間ほどで読了。タイワンザル,カミツキガメ,ブラックバス,マングースなどの有名外来生物から,チュウゴクオオサンショウウオ,カダヤシなどのそれほど有名でないもの,さらに政治問題も絡んでしまったために駆除が必要なのにそれができない魚釣島の野生化したヤギの問題まで,外来生物,国内移動生物の問題を広く論じています。この分野に関心のある人は手に取ってみて損はないと思います。

 例えば私は,本書で初めてキジについての問題を知りました。キジはもちろん,日本の固有種であり,1947年に「日本の国鳥」に定められたことはご存じの通りですが,その選定理由が5つあり,その最後のものはなんと「肉の味がよいので狩猟の対象に適している」からだったそうだ。オイオイ,「狩猟の対象に適している」って何だよ。世界の常識として,国の象徴である「国鳥」を「狩猟の対象」にしている国はほとんどなく(アメリカの象徴であるハクトウワシは一時数が減少したこともあり、狩猟対象ではありません),本来なら動物愛護団体あたりから抗議があがって不思議ないはずですが,「日本の国鳥」に関しては撃ち放題,殺し放題、食べ放題なんですね。こういう扱いを受けている「国鳥」は皆無とは言えないものの日本以外では珍しいそうです。

 しかも,「狩猟で国鳥の数が減って困るなら,減った分を補充すればいいんだろ」という論理で,日本固有種のキジを猟銃で撃ち殺しては,猟友会は外来種のコウライキジを飼育して増やし,放鳥してきたんだそうです。そして現在でも,北海道ではコウライキジの放鳥が続けられているんだと。狩猟を守って国鳥滅びる,という図式が浮かび上がります。


 結局,外来生物の問題とは人間の移動の問題です。本書で問題になっている生物はカメであったりカエルであったり鳥であったり昆虫であったりと様々ですが,その共通点は「長距離移動できない,あまり移動しない」生物であることです。渡り鳥やオオカバマダラのように海があろうと山があろうとものともせずに移動できる生物なら,人類登場以前から広い生息域で暮らしているため,少々のことでは「外来生物」扱いされることはありません。

 しかし,遊泳能力がなかったり飛翔能力がなかったり長距離走行ができない場合,海や川や陸地や山脈が移動障壁となるため,それらを境目とする「種の分離」が起こるわけです。例えば,ミミズは川を越せないし,カエルは海を泳ぐこともできないし,シジミチョウは何キロも飛べません。そういう生物は生息範囲をなかなか広げられず,地域ごとの固有種が形成されます。これが「種の分離」です。

 そういう,「本来移動できない」生物の移動に人間が手を貸します。つまり,人間が意図的にある生物を他の地域に持っていったり(例:遠い地の珍しい動植物だから高く売れるだろう),商業活動に伴って意識せずに生物を運んでしまったり(例:外材に混じってセアカゴケグモが入り込む),いろいろなケースがありますが,いずれにしても,外来生物として問題になっているのは「人間が移動させた生物」であることに違いはありません。つまり,現在の日本の「外来生物問題」とは「経済活動のグローバル化」と表裏一体であり,外来生物の日本侵入だけが起きているわけではありません。あくまでも人間の活動に伴って生物も移動しているだけです。

 従って,人間の活動をそのままにしておいて,生物の移動(=外来生物の国内侵入)だけをストップさせようとしても,恐らくそれはうまくいきません。外来生物の侵入を本気で防ごうとするなら,まず人間の移動をストップさせ,グローバル化した経済活動をストップさせる以外に方法はないと思います。生物は人間とともに移動しているだけであり,人間なしには彼らは移動できないからです。

(2010/01/04)

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