【はしがき】
- 最果ての構成や銀河内のガスの運動を正しく記述できないという証拠が,1980年代前半以降どんどん数を増やしている。ニュートンやアインシュタインの理論から予測されるよりはるかに強い重力が働いていて,それにより,外縁部を公転している恒星やガスが予測より高速で運動している様子が観察されている。数々の銀河内では予測より強い重力が働いているという圧倒的証拠がある。アインシュタインは1915年,水星の起動の変化を予測して一般相対論の正しさを決定づけたが,その値は一世紀あたりわずか43秒角という小さなものだった。それに比べ,巨大渦巻銀河の外縁部に位置する恒星の公転速度と,一般的な重力理論による予測との食い違いは,とてつもなく大きい。ニュートンやアインシュタインの重力理論に基づく本来の値の約2倍にもなる。
- アインシュタインとニュートンの理論を救おうと,数多くの物理学者や天文学者が,銀河や銀河団の中には“ダークマター”が大量に存在していて,それが重力を強め,理論とデータとの食い違いを解消してくれると主張している。もしダークマターが存在しないとしたら,アインシュタインやニュートンの理論から導かれる重力では弱すぎて銀河団内の銀河をつなぎ止められず,銀河団は安定に存在できない。この目に見えず検出もできないダークマターを仮定すれば,ニュートンやアインシュタインの重力理論を修正する必要は全くなくなる。ほとんどの物理学者にとって,ダークマターを仮定することなど,これらの理論を修正するのに比べれば過激でもなければ恐れるにも及ばない。アインシュタインの重力理論は一世紀近くにわたって「重力の標準モデル」だったから。しかし,ダークマターを構成しているとされる粒子を検出する試みは成功していない。
- 1998年,二つのグループが宇宙の膨張は予想通りに減速しているのでなく,加速していることを見出した。物理学者はこの驚くべき発見を説明するため,負の圧力を示し反重力のように振るまい謎の“ダークエネルギー”が存在するはずと仮定。これはダークマターと違い,宇宙全体に均一に分布していなければならない。ダークマターと合わせると,宇宙を構成するすべての物質やエネルギーのうち,96%が目に見えない事になる。
- アインシュタインは一般相対論の持つある性質に不満があった。アインシュタインの方程式は,時空内のある点で特異点を発生させ,方程式の解が無限大になってしまう。一般的に受け入れられている宇宙論の標準モデルによれば,宇宙誕生の瞬間,体積無限小の空間に閉じ込められた密度無限大の物質からビッグバンが始まったとされている。同じく,恒星は自らの重力で潰れる際に無限小の体積へ崩壊し,構成内の物質の密度は無限大となる。一般相対論の予測の一つとして,ある臨界値以上の質量を持つ恒星が自らの重力で崩壊すると,ブラックホールが形成される。ブラックホールの中心には密度無限大の特異点が潜んでいる。
- MOG(修正重力理論)は三つの難問を解決。ダークマターを使わずに住む。ダークエネルギーも由来も説明できる。特異点がない。MOGには強さが重力に近い5番目の新たな力が含まれる。その存在は,銀河内の恒星や銀河団の運動,あるいは宇宙の大規模構造に現れる。この第5の力はアインシュタインの理論を一般化するときの主な材料の一つとなる。この新たな力は,物質の存在によって時空の幾何が示す歪みの性質を変える。第5の力は重力の自由度,つまり幾何全体,あるいは時空のひずみの一部と考えることができる。
- ニュートンの重力定数は実は定数ではなく,空間や時間によって変化する。第5の力とこの変動要素が一緒になることで,遠くの銀河や銀河団の中で働く重力が強くなっている。また,膨張宇宙における時空の幾何も変わり,人工衛星による宇宙背景放射の観測結果と一致するようになる。また,ニュートンによる,重力場が弱い場合の逆二乗則も修正を受けることになる。
- MOGではブラックホールも修正を受け,極めて高密度の物体にはなるが,光など情報が逃げ出せる。宇宙膨張の加速を引き起こす真空エネルギー,いわゆるダークエネルギーも,天体の重力崩壊を妨げ安定化させる上で重要な役割を果たす。
- MOGは極めて初期の宇宙に対するビッグバン理論も正しくないかもしれないと予測。MOGでは時空が平滑なため,宇宙の始まりに特異点は存在しないが,零という特別な時刻が存在するのはビッグバン理論と変りない。しかし,MOGでは時刻ゼロは特異点ではない。時刻ゼロの宇宙には物質が存在せず,時空は平坦で,宇宙は静止状態にある。この状態は不安定で,やがて物質が生成し,重力が現れ,時空が歪んで宇宙が膨張を始める。
- ニュートンの重力理論は地球を含め太陽系の中では正しく,これまで3世紀以上にわたって有効だった。アインシュタインの一般相対論は一世紀近くに渡る時の検証を耐えてきた。パラダイムがひっくり返りそうだという事態に直面したとき,物理学者は保守的になりがちで,またそうでなければならない。
- MOGは観測データと一致させることが研究の推進力だ。理論を検証あるいは否定するデータを見つけることが重要だと力説している。成功する自然理論は観測に根ざしていなければならないと,固く信じているから。
【序論 惑星ヴァルカン】
- 1859年,ルヴェリエは水星の軌道の異常を発見。近日点の移動。ルヴェリエは他の惑星が及ぼす影響も考慮に入れてニュートンの天文力学に従って正確に計算したが,観測結果と小さな食い違いがあった。この食い違いは未発見の惑星か,太陽を取り囲む暗く目に見えない小惑星帯が重力を及ぼしているとしないと説明できない,と考えた。
- ルヴェリエは天王星の軌道運動から,ニュートンの重力理論に従って計算し,海王星の位置を予測し,その年に予測されたいちで発見された。
- ヴァルカンをめぐって論争が続いたが,1916年の一般相対論による終結した。太陽近傍の時空の幾何が歪んでいたための近日点の移動だった。
- これは現在のダークマターと同じではないか。宇宙の物質とエネルギーのうち,30%がダークマター,70%近くがダークエネルギーで,4%が恒星,惑星,星間塵。理論と現在の観測データの食い違いはそれほど大きい。
【第1部 重力の発見と再発見】・・・第2章 アインシュタイン
- ニュートンによる重力の概念とアインシュタインの重力の概念は根本的に違っている。どちらがより正しいかを実験,観測,データによって判断するには,驚くほど小さな値や微小な効果を相手にしなければいけない。水星の近日点移動に対するアインシュタインの計算結果と,ニュートンの重力理論で得られる値の違いは,1世紀あたりわずか43秒角だった。重力場中に置かれた原子の放射する光が赤方偏移すると示す予測は,数十年後に初めて観測された。日食中に太陽によって光が湾曲するという有名な予測が完全に実証されたのは,40年後だった。
- 1905年6月,「運動する物体の電気力学について」発表し,特殊相対論の大枠が示されている。全30ページの論文には有益な議論の相手として友人への謝辞は記されていたが,参考文献は一つも挙げられていない。
- 1907年から相対論に重力を組み込むことを考え始める。特殊相対論の二つの制約,「慣性系に限定されていること」,「ニュートンの重力法則が矛盾しない形で含まれていないこと」が不満だった。
【第二部 重力の標準モデル】・・・第4章 ダークマター
- 1930年代,かみのけ座とおとめ座の銀河団内の銀河の速さを測定。銀河団が安定した天体として姿を保つとした場合に重力理論から予想される速さより,はるかに高速で動いていた。銀河団全体の質量から計算すると,銀河団の外苑にある銀河は重力に打ち勝ってひとつずつ離れていき,両銀河団ともに推定寿命よりはるか以前にばらばらになるはず。
- この問題を回避して銀河団の安定性を説明するために,銀河団の中心付近にダークマターというものが球形に集まって存在しているのではないかと提唱される。望遠鏡による観測では見つけられないが,重力によって検出されるはずだと考えた。
- 現在では,ニュートンとアインシュタインの重力法則を守るためには,抗生物質とガスを足し合わせた質量の約10倍に相当するダークマターが銀河団には存在していると考えられている。一般的な理論による予測と実際の観測結果が,とてつもなく食い違っているのだ。
- 1980年代,銀河円盤や銀河中心にあるバルジにある目に見える恒星質量の推測値から求められる本来の速さより,渦巻銀河の実際の回転速度が大きいことが発見される。ニュートン力学から予測される速度は,実際のものより小さい。銀河外縁にある恒星の異常な公転速度を説明するために,銀河のコアの周りには未発見のダークマターが球状の大きなハローを形作っているに違いないと提唱した。
- アインシュタインの重力理論が正しいと仮定して計算すると,ビッグバンモデルにおいて宇宙誕生から数秒後の原子核合成の際に生成する水素とヘリウムの量は重力理論を修正しなくても宇宙観測データと一致する。従って,宇宙の極めて初期にはダークマターはほとんど役割を果たしていなかったと言える。しかし,ビッグバンから40万年が経過すると様子が変わり,観測値を説明するためにはダークマターが必要になる。
- どんな種類の物質であっても,その存在を証明できるのは,肉眼,望遠鏡,あるいは放射スペクトルにおけるさまざまな振動数を持つ光子放射を検出する装置で「見える」ものだけ。ダークマターは見ることができないので,もしそれが存在したとしても,電荷を持つ通常の物質と違い,光(光子)とは相互作用しないと結論するしかない。したがってダークマターは電子や陽子や中性子と言った通常の物質としょうとすしても,極めて弱い相互作用しか起こさないはず。そうでなければ,すでに実験室か,恒星の中の原子が放出するスペクトル線によって検出できていなければおかしい。
- そんな見つけにくいダークマター探しは,今や数十億ドルもの規模の国際的な科学産業となっている。
- ダークマター候補があまりに増えてしまったため,理論家は実験家に,ダークマター粒子はどこでどのようにすれば検出できるのか,さらには「何か」を検出したところで本当にダークマターを発見したことになるのか,はっきりと伝えられないでいる。ダークマター探しは,エーテルを検出できなかったマイケルソン=モーレー実験以来の,否定的結果をもたらすもっとも高価で巨大な実験となるかもしれない。
【第5章 従来のブラックホール像】
- ほとんどの天体物理学者は,せいぜい状況証拠しかないというのに,アインシュタインの重力理論が示している通りブラックホールは確かに存在すると信じている。しかし,連星ブラックホールが実際に存在するかどうかは,今でも激しい議論の的。天体物理学者の中には,ブラックホールの事象の地平面を直接観測するのは絶対に不可能だと主張するものもいる。天文学者の手で見つかっている連星ブラックホール候補は驚くほど数が少ない。宇宙の恒星のおよそ半分を連星が占めていることからすると,連星ブラックホールも数多く存在しなければおかしいが,そうなっていない。
- ほとんどの研究者は,天の川銀河中心の,事象の地平面があるとされる領域の周りを恒星が高速で公転しているという観測結果だけで,巨大ブラックホールによる強い重力の証拠として十分だと考えているが,それに反対する人もいる。
- ブラックホールにおける情報喪失問題をホーキングが指摘。ブラックホールがホーキング放射によって蒸発する際,その中にあった情報はすべて失われるか,あるいは暗号化された情報として蒸発して事実上失われてしまうという考え。量子ホーキング放射によれば,ブラックホールは有限時間内に蒸発することになるが,これはアインシュタインの重力理論と相矛盾する。
- ブラックホールの情報喪失パラドックスについての議論で意見が一致することはない。誰も情報喪失パラドックスを本当に理解していない。アインシュタインもシュヴァルツシルトもブラックホール解に不満であり,物理的でなく,自然界で実際には起こらない数学的な想像の産物だと考えていた。しかし,ブラックホールを放棄するためには,ブラックホールとなる特異点を生成しないような場の方程式を使う,別の重力理論に頼るしかない。
【第三部 標準モデルのアップデート】・・・第6章 インフレーションと光速可変理論(VSL)
- インフレーション理論とその問題点。
- 著者は,宇宙スケールでインフレーションが起こったのでなく,ビッグバンから1/1000秒後の初期宇宙では光速が極めて大きかったという理論を提唱。これで,ビッグバンモデルの数々の初期値問題(地平面問題,一様性問題,平坦性問題)を解決できる。やがて光速は急速に小さくなって現在の速度になった。光速の相転移である。極めて初期の宇宙で温度が臨界点に達すると,温度の関数である光速が突然,極めて高い値から現在観測される値へと不連続に変化する。
- 定数が変化するというアイディアは古くからある。光速,ニュートンの重力定数,プランク定数といった物理「定数」も,宇宙の歴史上絶対に一定だったとは限らない。宇宙の進化のうち,ある時期に一定であるように見える,というだけだ。「可変定数」。
- 宇宙の物理モデルはすべて,間接的にしか証明できないであろう基本的仮定に基づいている。ニュートンの重力理論でさえ,空間は三次元だと仮定する必要があるが,なぜ空間が三次元なのかは説明できない。VSL理論で,なぜ初期宇宙で光速が大きかったのかは説明できない。それは,VSLモデルを作る上で必要な基本的仮定に過ぎない。
【第7章 新たな宇宙論的データ】
- 1998年,宇宙が加速膨張しているという観測データが出て,それは確認された。宇宙の膨張は50から80億年前に加速し始めた。
- 宇宙論の標準モデルによれば,ダークエネルギーは宇宙に均一に分布しているとされるため,過去のある時点では物質の量が上回っていて,宇宙の膨張は減速していたに違いない。しかし,宇宙の膨張とともに物質の密度が下がり,まだわかっていない何らかの理由によって,50〜80億年前という比較的最近に物質の密度がダークエネルギーの密度を下回った。そして,ダークエネルギーが物質の密度を上回るにつれ,宇宙の膨張が加速し始めた,と考える。
- ある説によれば,ダークエネルギーは真空のエネルギーだという。現代の素粒子物理学では,真空は陽子と反陽子,電子と陽電子と言った仮想粒子が生成しては消滅している状態を,我々は真空だと解釈しているという。つまり,陽子や電子などの粒子の生成と消滅のバランスが完全に取れていて,宇宙は最小エネルギーの状態にあり,それを我々は真空と呼んでいることになる。真空エネルギーは言っていであり,宇宙に反重力を導入したアインシュタインの宇宙定数と同じものだと考えられている。真空エネルギー,ダークエネルギー,宇宙定数という言葉は,事実上同じ意味だ。
【第8章 ひも理論と量子重力】
- 物理学者の間では,現代物理学の二つの大黒柱,一般相対論と量子力学を統一しなければならないということで意見が一致していた。どちらの理論も,首尾一貫した理論的枠組を見事に作り出した。そしてどちらも,正確な実験によって検証されてきた。
- 多くの物理学者の共通意見として,一般相対論と量子力学を統一するには,アインシュタインの理論により表される重力場を量子化しなければならない。
- ひも理論の分野における初乗論分が発表されてから30年以上経た今日でも,ひも理論から検証可能な予測は一つも導かれていないし,逆にひも理論が間違っていることを証明する方法を思いついた人もいない。
- ひも理論の解は片手で数えられるほどではなく,膨大な数,もしかしたら無限個存在するかもしれないことが明らかになった。そしてそれらの解は,真空,すなわちエネルギー最低の状態が膨大な数,もしかしたら無限個存在すると解釈できる。
- ひも理論では,一つの理論に十分多くの解を提供すれば,どんな解に対する答えも見つけられる。超ひも理論には膨大な数,あるいは無限個の解があるので,検証はおろか,どんな予測も導かれていない。
- ひも理論に費やした生涯を送った,数々の天才は「ロスト・ジェネレーション」か。
- 量子重力への取り組みの問題点。
- 一つはどの量子重力理論に関しても,それらを検証(否定)するために提案された実験で決定的な結果が出ているものは現段階では一つもない。第二の問題として,いずれ重力子を検出できるかどうか,極めて疑わしい。厄介な点は,重力が大きな質量と距離で作用するのに対し,量子力学は想像もできないほど小さい奇妙な世界で作用することだ。
- 量子重力,つまり極微小レベルでの重力の効果を見るためには,プランクエネルギーというとてつもないエネルギーに達しなければならない。このような莫大なエネルギーを達成するためには,一周が銀河系の大きさ程度の巨大な高エネルギー加速器を建設しなければならないだろう。そんなとてつもないエネルギーでようやく,重力が電磁気力と同程度になり,実験によって重力子を検出できるようになるのだ。
【第9章 それ以外の代替重力理論】
- 修正重力理論が成功するためには,次の観測データと一致しなければいけない。
- アインシュタインの等価原理の地上における測定,カッシーニ探査機による電波の時間遅延の測定を含め,太陽系の惑星に関するあらゆる正確な観測データ。
- 連星パルサーのデータ
- 銀河の回転曲線
- X線銀河団の質量分布
- 銀河や銀河団によるさまざまな強さの重力レンズ効果
- 合体しつつある銀河団による重力レンズ効果のデータ
- 宇宙マイクロ波背景放射のデータ,とくにCMBのパワースペクトルにおける音響波
- 大規模な銀河探索による物質パワースペクトルで明らかになった,初期宇宙で始まった銀河の形成と成長
- 超新星のデータにより決定された,宇宙膨張の加速の観測値
【第10章 修正重力理論(MOG)】
- 特殊相対論を修正しようとする理由は3つ。
- 一般相対論と量子力学を組み合わせた量子重力理論を見つけなければならない。正しい量子重力理論を作るにはアインシュタインの古典的重力理論を根本的に修正する必要がある。
- 驚くほどの成功を収めている素粒子物理学の標準モデルには重力が含まれていない。物理学者は素粒子物理学の標準モデルと重力の両方を含む大きな理論が誕生して欲しいと望んでいる。
- 宇宙における未発見の質量とエネルギーという深刻な問題を解決する必要がある。
MOGなら9つのデータを全て説明でき,しかもダークマターを排除できる。重力定数は変化する。