『居酒屋の世界史』★(下田洋,講談社現代新書)
暇つぶしになればいいかなという感じで購入した本だが,「第九話」を読んですっかり元が取れた気分になった。「医療行為は芸」という章があり,これまで知らなかった医学の歴史について書いてあったからだ。ここでは19世紀以前のヨーロッパの「床屋外科医」がどうやって生計を立てていたのか,彼らの「医療行為」は一般民衆にはどのように受け取られていたのか,なぜ彼らが居酒屋と関連していたのかが見事に説明されている。なるほど,私たち外科医のご先祖様たちはこのようにして数百年間,内科医と大学アカデミズムに「おまえら床屋,歯医者だろ」と馬鹿にされつつ,居酒屋を根城に生き延びてきたのだ。このあたりは,医学史の教科書にはあまり書かれていないことだと思う。本書のように医学とは全く無関係の本で,医学の歴史をかいま見ることができると,本当に得した気分になる。
外科医としてはこの数ページを読んだだけで満足だが,それ以外の人にも本書は「酒と居酒屋と文明」の蘊蓄一杯,知識満載であり,読むだけで面白いと思う。そんなわけで,本書の内容を試験問題風に紹介する。
- 居酒屋が都市部で最初に成立し,農村で居酒屋の成立が遅れた理由は何か。また,その歴史的,経済学的背景について100字程度で述べよ。
- ユダヤの地(=東地中海東岸)でビールでなくワインが主流となった理由は何か。
- ビールとワイン,製造が簡単なのはどちらか。原料の栽培が難しいのはどちらか。
- ローマ帝国の衰退とともに姿を消した居酒屋がヨーロッパで再登場するのは12世紀だが,その背景となった社会構造の変化とは何か。
- 16世紀以前のヨーロッパの教会が果たしていた機能を8つ以上挙げよ。
- イギリスの居酒屋であるエール・ハウスが16〜17世紀に激増した理由は何か。その結果として生まれたエール・ハウスが持っていた社会的機能を8つ以上挙げよ。
- 「東横イン」の「イン」とは元々どういう意味だったか。起源は何か。
- イギリスのワイン居酒屋「タヴァン」が上流階級御用達となったのはなぜか。
- ブルゴーニュ・ワインと修道院の関係について述べよ。
- 19世紀の居酒屋衰退にパスツールが果たした役割を100字程度でまとめよ。
- 19世紀になり,一週間分の賃金を土曜日にまとめて労働者に支払う「週給」のシステムが普及したが,これは飲酒の習慣をどう変えたのか。それにより社会はどのように変化したか。
- 19世紀以前は大酒飲みは非難の対象でなかったのはなぜか。なぜ19世紀以降に非難の対象となったのか。その背景となる科学技術とは何か。
- 1919年にアメリカで禁酒法が成立した真の理由は何か。また,禁酒法が失敗した理由は何か。
- コーランに禁酒の項目はあるか。
- 17世紀以前のヨーロッパの寺院で飲酒が行われていたのに,イスラム圏の寺院で酒でなくコーヒーが飲まれていたのはなぜか。なぜイスラム圏ではコーヒーでなければならなかったのか。
- 現代インドには居酒屋はほとんど存在しないが,その理由は何か。
- 江戸時代の江戸に簡易な飲食店,居酒屋が多かった理由は何か。
- 江戸時代の日本の農村に居酒屋が存在しなかった歴史的背景についてまとめよ。
(2011/09/16)
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