『居酒屋の世界史』(下田洋,講談社現代新書)


 暇つぶしになればいいかなという感じで購入した本だが,「第九話」を読んですっかり元が取れた気分になった。「医療行為は芸」という章があり,これまで知らなかった医学の歴史について書いてあったからだ。ここでは19世紀以前のヨーロッパの「床屋外科医」がどうやって生計を立てていたのか,彼らの「医療行為」は一般民衆にはどのように受け取られていたのか,なぜ彼らが居酒屋と関連していたのかが見事に説明されている。なるほど,私たち外科医のご先祖様たちはこのようにして数百年間,内科医と大学アカデミズムに「おまえら床屋,歯医者だろ」と馬鹿にされつつ,居酒屋を根城に生き延びてきたのだ。このあたりは,医学史の教科書にはあまり書かれていないことだと思う。本書のように医学とは全く無関係の本で,医学の歴史をかいま見ることができると,本当に得した気分になる。

 外科医としてはこの数ページを読んだだけで満足だが,それ以外の人にも本書は「酒と居酒屋と文明」の蘊蓄一杯,知識満載であり,読むだけで面白いと思う。そんなわけで,本書の内容を試験問題風に紹介する。


(2011/09/16)

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