世界各地を巡って植物と人間の関わり型を研究している著者が、様々な国の現場で起きている諸問題を詳細に報告し、その解決の処方箋を提示したのが本書である。取り上げている問題は広範で、猛威を振るう帰化植物の問題、少子高齢化問題に直面しているマダガスカルのバオバブ、白骨林と化したオーストラリアのユーカリの森、そして、どんどん少なくなっていく日本の原風景ともいうべき白砂青松などであり、どれも深刻な状況と言える。
たとえば、以前から指摘されているのが西日本の里山を飲み込もうとしているモウソウチクの林がそうだ。これは18世紀初期に薩摩藩が観賞用として中国から輸入し、その後、人の手できちんと管理されていたが、昭和40年代の高度成長期に利用されなくなり、その結果、西日本の里山全体に広がり、さらにその外側の「外山」にまで広がっているらしい。しかもモウソウチクは根が浅く広がるため、大雨が降ると一気に崩落する危険性がある。おまけに、2030年頃と予想される「一斉開花⇒一斉枯死」のあと、崩落の危険性はさらに増すのだ。
さらに、人跡未踏のギアナ高地でも帰化植物が侵入している。ギアナ高地は元々、1000メートル近い垂直の絶壁で外界と隔てられていたため、得意な進化を遂げた生物が多いことで有名で、たとえばイネ科の植物では多年草はあるが一年草は見つかっていない。要するに一年草に進化する必要のない環境だったらしい。しかしそういう絶海の孤島にも似た環境でも帰化植物は侵入する。それらを運んだのはヘリコプターに乗った人間だった。
そして、マダガスカルを象徴する大木、バオバブの問題も危機的らしい。前述のように少子高齢化、すなわち若い木が全く育たず、高齢の木しか残っていないのだ。それをもたらしたのは、バオバブの生態について無知な人間がバオバブの木を搾取し続けたことと、温暖化のために雨の降り方が以前と変わってしまったためだ。バオバブの実が発芽するためには絶妙のタイミングで雨が降り続く必要があったが、近年、その時期に雨が降らなくなったらしい。わずか数週間のタイミングを逃すと、種はもう発芽することはないのだという。本書でも「1℃や2℃の温度上昇では植物はびくともしないが、雨の降り方が変わると新しい世代は育たない」のだ。
ちなみに、このバオバブの章を読んで、私は初めてゴンドワナ大陸とローレンシア大陸の関係、そして超大陸パンゲアやテチス海の関係を理解できた。それだけでも読んだ甲斐があった。
そして第8章の「ユーカリを殺すのは誰か」。ここでも「雨の降り方」が重要な問題だが、それと同時に、人間がもたらした農業(=穀物の灌漑農法)の根本的な問題点が指摘されている。ユーカリを殺したのは小麦畑であり牧草地だったのだ。
小麦は本来、一年間の降雨量が500ml程度の環境でも収穫できる作物だ。だから、オーストラリアに入植した人々はユーカリの森を切り開いて小麦畑にし、現在、この地は世界の穀倉地帯となっている。それはそれで非常に喜ばしいことなのだが、「雨の降り方」が変化したとき、自然は一気に牙をむいた。オーストラリア大陸の内陸部の地中奥深くに眠っていた「塩」が目を覚ましたのだ。その結果、小麦畑や牧草地の窪地はどんどん塩が溜まり、その結果、塩に弱いユーカリは枯死した。ちなみに筆者は、この塩害を解決する方法はアッケシソウだと述べている。
ちなみに、ユーカリは乾燥に強く成長が早いため荒れ地でも育つ。そのため、世界各地で「手っ取り早く林を回復」させるために積極的に植林されているが、実はユーカリの森は「緑の砂漠」になると警告している。
というわけで、植物と人間の関わりについて興味を持っている人なら、読んで損はない良書だと思う。
(2012/08/15)