ラフマニノフ 第2協奏曲第1楽章のソロ用編曲
日本プライマリ・ケア学会の重鎮にしてピアノの名手,板東先生から「ラフマニノフの第2コンチェルト第1楽章のソロ用編曲ってありますか?」というメールをいただきました。浅田真央さんが競技で使ったことで一気に有名になったピアノ協奏曲ですが,この曲のピアノパートを練習したことがある人ならわかると思いますが,ピアノソロパートを弾きながらオケのメロディーも一緒に演奏することはある程度可能です。そして,押し寄せる大波のようなピアノの雄大にして雄渾のアルペジオと,うねるように延々と息長く歌われる憂愁のメロディーの組み合わせが,最高に格好いいのです。これを一人で弾いてみたいと思わないピアノ弾きはいないはずです(ちなみに,雄大,雄渾,憂愁の「3つユウ」を組み合わせると,そこそこの音楽評論が書けます)。
というわけで,この協奏曲のピアノソロ用のアレンジについてまとめてみました。
【Gary Lloydさんの編曲】
- midi file
- アメリカのピアニスト Gary Lloyd さんが独力で全楽章の全小節をアレンジした力作にして傑作。このmidi fileは1999年に彼自身が作成したもので,彼から「俺の編曲なんだけど,ちょっと自慢の編曲なので聞いて欲しい」とmidi fileが送られてきた。
- 可能な限り,原曲のピアノパートの音が拾われ,それに可能な限りのオケのメロディーを加えているアレンジで,まさに私好みである。
- 彼に直接尋ねたが,楽譜は作っていないとのこと。Boosey & Hawkes社(以下,BH社)の2台用楽譜のピアノパートに手書きで音符を書き込む形で楽譜を作り,それを譜面台に置いて録音したそうだ。
- 実はこの後,Lloydさんはこの編曲が原因となり,ある事件に巻き込まれることになる。楽譜の版権を所有しているBH社からいきなり,「ラフマニノフのアレンジを作ることも発表することも許されない。この編曲(midi file)を即刻ネットから削除しなければ訴えるぞ!」と問答無用の警告メールが送られてきたのだ。何しろ当時のBH社は楽譜出版業界最強と言われる弁護士軍団を抱えているという噂があり,Lloydさんは泣く泣くサイトを閉鎖する羽目になった。この経緯を伝える彼からのメールは本当に悲痛だった。
- 下記の楽譜はmidi fileを音符化するフリーソフトで音符に変換し,それを元に私が楽譜化したものだ。第1楽章と第3楽章はほぼLloydさんの演奏通りに楽譜にできたと思うが,第2楽章は途中までしか楽譜化していない。こんなもので良ければ勝手にダウンロードして頂けたら望外の喜びである。
- そういえば,全音で販売されていた「ラフマニノフの第2番」の楽譜があるとき突然絶版となり,それが長らく続いたことがあった。この全音の楽譜は元々,BH社からライセンス供与を受けた全音が出版していたものだが,BH社が日本に直接自社楽譜の輸出販売を始めたため,全音の楽譜が廃刊となったものらしい(その後,ラフマニノフの著作権切れを待って,2003年に全音の楽譜は復刊)。
この全音の楽譜はBH社の楽譜と中身は同じだが,そこに収録されていた作曲家の矢代秋雄氏の解説が実に素晴らしかったことで知られていた。日本人にはとても演奏困難と思われる数々の難所について懇切丁寧な練習法と運指法,解決法が書かれていて,さらに,作曲家の目から見たラフマニノフの記譜法の特徴が説明されているという感涙モノの楽譜だった。この八代氏の解説からどれほど多くのことを教えてもらったことだろうか。
【中島龍一さんの編曲】
- 共同音楽出版社から出版されている「ピアノソロ ドラゴンシリーズ」の一冊。第2協奏曲の全3楽章のすべての小節がソロ用にアレンジされて,楽譜化されている恐らく唯一の編曲
- しかし,ピアノソロのパートは大幅にカットされているため,ピアノパートの響きを楽しむためというより,曲のメロディーを楽しむためのアレンジと考えるべきで,演奏会向きではないと思う。
- 同じシリーズの「ラフマニノフの第3番」はかなりいいというか,弾きごたえがある。元々,この第3番は「ピアノ協奏曲史上の最難曲の一つ」として知られているが,原曲のパッセージがそのまま使われている部分があるため,中島編曲を完璧に演奏するのはかなり大変だ(特に第2楽章の真ん中あたりがすごく難しい)。そして,響きの点でも原曲の雰囲気はかなり出せていると思う。
ちなみに,第1楽章のカデンツァは「小カデンツァ」であるが,個人的には「大カデンツァ」にして欲しかったな。
【Kaoru Ishikawaさんの編曲】
- 『ピアノスタイル クラシック名曲50選(2) ピアノ・アレンジで弾く☆不滅のピアノ、オペラ、交響曲!』(リットーミュージック)という「いかにもいかにも」なタイトルの楽譜集に第1楽章のアレンジが収録されている。
- ラフマニノフの複雑なアルペジオがかなり簡略化されている点はちょっと物足りないが,少なくとも中島編曲よりは弾いて楽しいことは確かだ。
- YouTubeでは次の2種類の演奏が聞ける。
【加藤真一郎さんの編曲】
- 全音ピアノピース(ピアノピース-533)
- YouTubeの模範演奏(?)を聞いてみるとわかるが,全楽章のメジャーなメロディー部分を適当につなげただけの,お子様向けのお手軽簡易編曲である。加藤さんには悪いが,楽譜を買ってまで弾くようなアレンジではないと思う。
【Haruさんの編曲】
【〇〇さんの編曲】
- ピアノ1台で「ラフマニノフピアノ協奏曲第2番」を再現してみた(YouTube)
- 最初の3分間はオチャラケ兄ちゃんなんで,こいつ本当に大丈夫か,と心配になったが,演奏が始まるといきなりプロ顔負け本気モードの演奏が繰り広げられる。原曲のピアノパートを可能な限り拾いまくった12分に及ぶアレンジは圧巻である。演奏もうまい。
- 全音出版社はしょーもないアレンジを出版するんじゃなく,この編曲を出版すべきだろう。
【△△さんの編曲】
【第3楽章のみの編曲】
- 2種類の編曲の楽譜を所有している。
- Percy Grainger編曲
- Carl deis編曲
- どちらも,第3楽章の主要部分をメドレー方式でつないだもので,前者は14ページ,後者は9ページである。
- 演奏効果はどちらも高く,演奏会で使えるレベルだ。演奏の難易度はDeisのほうがやや難しいか。
(2014/08/28)
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