数年前から,かなりマジでピアノの練習を再開した。外来のスミッコに4万円の超安物のデジタルピアノを置き,昼休みのちょっとした空き時間に練習できるようになったからだ。
私は高校2年生までは先生についてピアノを学んでいたが,それ以降は全くの独学でレパートリーを増やしたものの,医者になってからはピアノが手元にない生活が続き,ピアノにほとんど触らない10年間があったりしたが,それでも,少し練習するとそこそこ弾ける程度の腕は維持できていた。
そして,毎日(と言っても月曜から金曜)1時間ほどピアノが弾けるようになった。ピアノ練習を再開して驚いたのは,数十年前のテクニックが次第に戻ってきたことだった。そして,新たな難曲に挑戦する日々が続き,ホロヴィッツ編曲『星条旗よ永遠なれ』,ラヴェル『道化師の朝の歌』,ブラッサン編曲『ワルキューレの騎行』を何とか弾けるようになった(もちろん,ミスタッチは多いし,完璧からは程遠い演奏だけど)。あと1年半で60歳になる素人ピアノ弾きとしては上出来だろう。
となったら,次なるターゲットは40代の頃に一度挑戦してても足も出なかったニコライ・カプースチンの『8つの練習曲 Op.40』しかない。年齢的にも,挑戦するなら今がラストチャンスだろう。やるなら今しかない。
そんなわけで,無謀にもカプースチンの練習曲に挑むことになった熟年(初老期?)オヤジの「カプースチン挑戦記」を不定期でお伝えしようと思う。
そして,数年前に5万円程度のデジタルピアノを購入して外来に置いた。88鍵あるだけマシという程度のピアノだったが,これだってないよりマシである。私にとっては毎日弾けるほうがはるかに重要だったから。
そして,ホロヴィッツの『星条旗よ永遠なれ』を人前で演奏する機会があり,2ヶ月かかったが何とかこのピアノでマスターした。まさかこのピアノも,持ち主がホロヴィッツを練習するとは思ってもいなかっただろう。そして,以前から弾いてみたかったブラッサン編曲の『ワルキューレの騎行』も弾けるようになった。
となれば,次なるターゲットは無理と分かっていてもカプースチンの練習曲しかない。年齢的にもあと1年半で60歳だから,多分これがラストチャンスだろう。今,猛練習(と言っても1日1時間程度だけどね)しても弾けなかったら,それは私の演奏能力がカプースチンには足りなかったというだけのこと。真面目に練習したけど弾けないのと,碌に練習もしないで弾けないのとでは大違いだ。
この曲集に出会った1999年に弾けなかった理由ははっきりしている。手元にピアノがなくて毎日練習できなかったからだ。毎日練習しなくても楽々弾けるピアノ曲はたくさんあるが,カプースチンはそうではないのだ。毎日,繰り返し繰り返し同じ場所を練習し,弾ける小節を1つずつ増やしていき,それらを繋ぎあわせて一つの曲にする作業が絶対に必要なのだ。
それは,「偶然に弾けている部分を,必然的に弾けるようにする作業」と言ってもいい。
偶然に,なぜか勢いでうまく弾けてしまうことはよくあることだ。しかし,偶然は偶然であり,次に弾こうとしてもなぜかうまく弾けない。繰り返し弾くことで,「よくわからないけど弾けている」部分を「何十回弾いてもミスなく弾ける」ようにするのが練習なのだ。
そのカギを握るのは,自分の手に最適な指使いを決めることだと思う。特に,私のように1日の練習時間が1時間程度しか取れない場合は,あらかじめ全ての音符の指使いを決める必要があり,指使いを決めずに練習しても全く意味がない。
『ワルキューレの騎行』では,指使いを徹底的に工夫し,ほとんど全ての音符に指使いの数字を書き込んだ。その結果,私にとってこの曲は「必然的に弾ける曲」となった。
【第1番「前奏曲」 Op.40-1】
そしてカプースチンに挑戦する時が来た。一番最初にどれに挑戦するかでかなり迷った。魅力的な曲は多数あったが,
◆ | ソナタのように長い曲は無理 |
◆ | スピーディーで無窮動的な曲が好き |
◆ | リズミックな曲が好き |
◆ | とにかく派手な曲が好き |
◆ | 私が知っている従来のどの曲ともリズム体系が違う。遊びでたまに弾くジャズとも違う。 |
◆ | 1拍ごとに調性が変化する部分が多い。 |
◆ | パッセージの使い回しがほとんどない。同じフレーズの繰り返しでもパッセージはどこか必ず変えている。 |
◆ | 変幻自在なリズムとパッセージと調性の変化のため、暗譜がなかなかできない。つまり、その次の音が瞬時に思い出せない。 |
◆ | とにかく、そのパッセージで考え得るあらゆる指使いを試してみて、自分にベストの指使いを見つける。 |
◆ | 両手を合わせるタイミングを身体が覚えるまで遅いテンポで何度も繰り返す。 |
◆ | 超遅いテンポの時からきちんとアクセントを付けて弾く。 |
【第8番「フィナーレ」 Op.40-8】
第8番「フィナーレ」は現在(2015年10月20日),練習中である。かなり遅いテンポなら両手を合わせて止まらずに弾けるまでになっている。人前で弾くためには,もっと速いテンポで颯爽と弾かないと格好がつかない曲だが(何しろテンポ指定はプレスティッシモだ),どこまで速く,かつ正確に弾けるかは神のみぞ知る・・・である。
第1番「前奏曲」と第8番「フィナーレ」,どちらも迷惑なほど難しい曲だが,第8番はリズムのとり方は難しいが,演奏技巧的には第1番よりわずかに弾きやすいかな?
というわけで,私の指使いを公開。
【第3番「トッカータ」 Op.40-3】
私の指使い。
【24の前奏曲集 Op.53 第1番】
Op.40-3も大体目処が立ったので,次に何を練習しようかといろいろ模索。当初は,大好きな「ソナタ第1番の第4楽章」を考えていたが,実際に弾いてみると,技術的にはすごい難所はあまりなさそうなんだけど,曲が長大で「1日に1時間しか練習できない」素人には相性が良くない感じ。技術的には難しくても,5ページ前後の曲の方が取り組みやすいです。
「練習曲第1番」,「練習曲第3番」,「練習曲第8番」とこれまでカプースチンを練習してきてわかったのは,私は「ぎっしりと音符が詰まっている音の過剰感」,「両手がトップスピードで止まることなく音を紡ぎだす緊張感」がたまらなく好きだってことです。
そこでターゲットを小曲集に絞り,「24の前奏曲集」で最もド派手な「第1番」にロックオン。とりあえず,ここまでは指使い決定。
【Y.近藤:ショパンの第3ソナタのフィナーレと「巨人の星」の交響的融合】
Symphonic Fusion on Finale of Chopin's Sonata No.3 & the theme song of Star of Giants
カプースチンの「前奏曲第1番 Op.53-1」がなかなか先に進まないため(中間部の左手のベースがムチャクチャ記憶しにくい),もうちょっと弾き易そうな難曲(こういうのを自家撞着的表現という)はないかとパソコンのHD内を渉猟し(楽譜はすべてPDF化している),以前挑戦したものの「なんちゃって演奏」しかできなかったこの曲にロックオン。以前弾けなかった部分の指使いを徹底的に検討して再挑戦することにした。
この曲についてちょっと説明。
というわけで,私の指使いです。以前弾けなかった部分,いい加減に弾き飛ばしていた部分の指使いを熟考しました。譜面にとらわれずに左右の配分を考え,大胆に変更しています。逆に言えば,このくらいまで手を加えて工夫して初めて,私が弾ける曲です。
11月18日の時点で本格的に練習を始めて10日ほどですが,あと数日で「ノンペダル & インテンポ」で通して弾けるかな,という感じです。
(2015/11/19)