カプースチン挑戦記



 そして,数年前に5万円程度のデジタルピアノを購入して外来に置いた。88鍵あるだけマシという程度のピアノだったが,これだってないよりマシである。私にとっては毎日弾けるほうがはるかに重要だったから。
 そして,
ホロヴィッツの『星条旗よ永遠なれ』人前で演奏する機会があり,2ヶ月かかったが何とかこのピアノでマスターした。まさかこのピアノも,持ち主がホロヴィッツを練習するとは思ってもいなかっただろう。そして,以前から弾いてみたかったブラッサン編曲の『ワルキューレの騎行』も弾けるようになった。

 となれば,次なるターゲットは無理と分かっていてもカプースチンの練習曲しかない。年齢的にもあと1年半で60歳だから,多分これがラストチャンスだろう。今,猛練習(と言っても1日1時間程度だけどね)しても弾けなかったら,それは私の演奏能力がカプースチンには足りなかったというだけのこと。真面目に練習したけど弾けないのと,碌に練習もしないで弾けないのとでは大違いだ。
 この曲集に出会った1999年に弾けなかった理由ははっきりしている。手元にピアノがなくて毎日練習できなかったからだ。毎日練習しなくても楽々弾けるピアノ曲はたくさんあるが,カプースチンはそうではないのだ。毎日,繰り返し繰り返し同じ場所を練習し,弾ける小節を1つずつ増やしていき,それらを繋ぎあわせて一つの曲にする作業が絶対に必要なのだ。

 それは,「偶然に弾けている部分を,必然的に弾けるようにする作業」と言ってもいい。
 偶然に,なぜか勢いでうまく弾けてしまうことはよくあることだ。しかし,偶然は偶然であり,次に弾こうとしてもなぜかうまく弾けない。繰り返し弾くことで,「よくわからないけど弾けている」部分を「何十回弾いてもミスなく弾ける」ようにするのが練習なのだ。
 そのカギを握るのは,自分の手に最適な指使いを決めることだと思う。特に,私のように1日の練習時間が1時間程度しか取れない場合は,あらかじめ全ての音符の指使いを決める必要があり,指使いを決めずに練習しても全く意味がない。
 『ワルキューレの騎行』では,指使いを徹底的に工夫し,ほとんど全ての音符に指使いの数字を書き込んだ。その結果,私にとってこの曲は「必然的に弾ける曲」となった。




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(2015/11/19)

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