津波とネズミ


 インドネシア沖で激烈な地震があり,津波が世界中の海岸を襲った。どうやら史上最悪の被害になるらしい。マスコミで,津波が襲来した時の状況が次第に明かになってきたが,それを読んでいて,私が昔経験した津波のことを思い出してしまった。私の記憶がまだ鮮明なうちに(何しろ最近,物忘れするようになったからなぁ)書いておこうと思う。


 あれは今から40年前の新潟地震だった。当時小学校1年生だった私は,学校が終ると海岸近くにある叔父さんの家に行き,両親が迎えにくるのを待っているのが日課だった。

 そんなある日,いつものように海べりで遊んでいたら,気がついたら海の水がなくなっているのだ。ふと見ると,ずっと遠くまで砂浜になっていて,魚がピチピチ跳ねていた。今まで海だったところが砂浜になっているのだ。ずっとむこうまで砂浜ができていた。
 子供にとってはとても不思議で面白い光景だった。皆で新しくできたばかりの砂浜におりようとしていた。


 その時,堤防(防潮堤)から真っ黒なものが流れ出した。ネズミの大群だった。堤防に巣くっていたネズミが大挙して逃げ出したのだった。それが黒い流れの正体だった。子供の目にはとてつもないネズミの大群に見えた。私たちはそのネズミにびっくりして,魚どころではなかった。そしてそれが結果的に,私たちを救ってくれることになった。


 気がつくと,海水がひたひたと押し寄せていた。さっきまで砂浜だったところがいつもの海に戻り,それどころか,道路に溢れ出そうとしている。静かに静かに,海は膨れ上がってきた

 あとは,叔母さんに手を引かれ,高台に逃げるのが精一杯だった。ネズミは潮が引いた時に危機を感じて逃げ出したが,人間は津波がくるまで気がつかなかった。津波が一挙に高波でくるタイプでなかったため,私たちは生き延びる事ができたのだろう。


 それでも,ひたひたと海水が水位を上げる様は本当に怖かったし,津波から逃げるネズミの群れは,40年たった今でも鮮明に覚えている。海の潮が突然引いたら,それは海が牙をむく前兆だ。

(2004/12/29)

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