我が師はリチャード・ストールマン


 私はこのサイトで,治療上の工夫やどういうところに落とし穴があるかなどについて,包み隠さず公開しているつもりである。通常,新しい治療法や工夫は学会で発表し,専門雑誌に論文を投稿するのが常識であるが,私は大学で偉くなろうという気もないし,学会で認められようという気もない。治療上のノウハウはみんなで共有しようと思っているし,アイディアの所有権を主張するつもりもない。

 「学会で発表もせず,論文も書かずにインターネットで発表するなんてバカじゃない!」と言う声も聞こえてくるし,「インターネットでこれほど書いちゃ,本が売れないだろう」と心配してくださる方もいるようだが,私はこれでいいと思っている。

 このサイトには,新たな実験のアイディアを無造作に置いてあるつもりだが,それを実験をする人がいたら非常に嬉しいし,どんどん実験して欲しいと思っている。その際,私に断る必要もないし,勝手に実験しようとアイディアを引用しようと,文句をつけるつもりはない。


 こういう方法論を取っているのは,リチャード・ストールマンの影響である。ストールマンといっても医者ではない。コンピュータの天才プログラマである。私がこのサイトで目指しているのは,ストールマンが提唱するフリーソフトウェアの精神を医学で実践することである。みんなで情報を共有し,不足している部分,おかしな部分があったらそれを指摘しあい,より完成度の高い治療法にしたいがために,情報を全て公開しているのだ。


 ストールマンについてはインターネットで検索すればすぐに調べられるはずだ。彼は今年(2004年)に51歳になる筋金入りのハッカーである(この場合の「ハッカー」とは本来の意味で使っている。決して「クラッカー」の意味ではない)。Unix使いなら誰でも知っているスクリーン・エディタのEmacsは彼の作だったと思う。

 もともとUnixは自由に使えるソフトだった。無料で手に入れられ,ソースコードが公開され,誰でもそのプログラムを修正でき,それを自由に配布できるものだった。しかし,あるメーカーがこのUnixを私有財産として販売した時,ストールマンはそれに反対した。そして独力でUnix上位互換のプログラムを書く事を決意する。これがGNUプロジェクトの始まりだった。彼はGCCというC-コンパイラを作り,シェルを完成させ,GNU-Emacsのプログラムを完成する。やがてその活動に賛同するプログラマ達が,欠けている機能があればそれを作って追加し,バグを見つけては修正し合い,ついにOSであるLinuxリーナス・トーバルスによって書かれ,それが世界中に普及し,マイクロソフトのWindowsを脅かしていることはご存知の通りだ。


 GNUのソフトウェアは非常にユニークな著作権を主張している。一言でいうと「ソースコードを自由に入手し,修正できる自由があり,その修正したコードは必ず他の人に無料で与えなければいけない」というものだ。ストールマンはこの精神を「CopyrightでなくCopyleftである」と述べていたと思う。トーバルスのLinuxもこのGNUライセンスを明記して発表されたものだった。

 彼の基本的な考えは「プログラムは人類の共有財産だ」というものではないかと思う。だから,ソースコードを公開して共有し,プログラムを書くことができる人はそれを改良し,書けない人は活動に対して寄付することで協力し,よりよいプログラムを手に入れる事で生産性が上がれがみんなが幸せになり,利益を共有できるようになるはずだ,という思想だと思う。


 治療法は共有財産である。みんなでその情報を共有し,その治療法に欠点があったらそれを指摘してもらい,新たな工夫を加える事でより普遍的な治療法として確立できたら,それが理想である。だからこそ私は,治療上のノウハウを公開し,それについて自由に批判していただいている。「医療のGNUプロジェクト」といったら大袈裟すぎると思うが,最終的な目的はここにある。


 私が「外傷の閉鎖療法」をたった一人で始め,その効果に驚愕し,この治療法は絶対に正しいはずだと確信を得た頃,どのようにしたらこの「常識はずれの治療」を広められるだろうと考えた。要するに,基本的戦略をどうするかという問題だ。

 その時,思いだしたのがフリーソフトの世界だった。ストールマン師の思想を医療の現場で活かしたらどういう世界が開かれるのか,どんな世界が実現するのかを試してみたかった

 私が生きているうちにストールマンに会えることはないと思うが,もしも会えたら,「私はあなたの思想を学び,それを医療の世界で実現しようと努力しています。あなたがいたからこそ,私はここまでやってこれました。あなたの思想と精神の気高さは,医療の世界をも変えようとしています」と話してみたい。


 リチャード・ストールマン,彼は私の生涯の師である。

(2004/02/19)

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