これは文句なしに面白い。そして泣ける。泣きながら大笑いした。そして読み終わったあとの爽快感! これはそんなオススメ小説である。「最近,感動するような小説,読んでないよなぁ」とお嘆きの方がいたら,是非,この小説を読んで欲しい。
プロスポーツの世界は厳しい。それだけで飯が食えるのはごく一握りの「選ばれし者たち」だけだ。当然,夢かなわずして脱落する人間の方が多い。特に大相撲の世界は昔は中卒で入門し,他の社会と接する機会のないままに成人してしまうため,廃業すると学歴も資格もなく,単なる「大食らいのデブ」でしかないのである。
そんな落ちこぼれ力士達が廃業後の生活のために警備会社を作った。『ドスコイ警備保障株式会社』だ。何しろ相撲取りの瞬発力はすごい。立ち合いのスピードは4メートルに限ればカール・ルイスを凌ぐのだ。150kg以上の体重でカール・ルイスより俊敏なのである。
そんな彼らの鍛えぬかれた肉体と反射神経,そして何より,警備会社で生きていくしかないという気迫がある。そんな時,警備を担当している会社に拳銃を持った泥棒が侵入。泥棒たちに立ち向かい,巨大な肉体で圧倒,炸裂するパワー!
銃弾が発射された瞬間に低く身をかがめ,鋭いぶちかまし。吹っ飛ぶ泥棒。次の日の新聞には「連続強盗,ついに休場」「ドスコイ警備,大金星!」の文字が踊る。やがて彼らの実力は認められ,世界的スーパースターの警備を依頼されるまでになる。
そんなものすごい男たちの中に一人,偶然の事から「ただのデブ」がまぎれ込んでいた(名前が松村というのが笑わせる)。彼はひょんな事からこの『ドスコイ』に加わったのだが,もちろん彼は力士じゃないしスポーツ経験者でもない。優しくてこだわりのない性格からみんなの潤滑油になっているだけの,単なるデブだ。そんな彼もスーパースターの警備に加わる事で眠っていた能力を発揮し,自分の居場所,自分にしかできない事を見つけていく。
そして,松村君に因縁をつけてボコボコにしちゃった不良高校生たちもなぜか『ドスコイ』に出入りするようになり,自分が本当にやりたい事を目指すようになっちゃうのだ。
オイオイ,そんなに世の中うまくいくわけないじゃん,なんて野暮なツッコミはなしだぜ。
この小説,映画にしたら絶対にうけると思うんだけどなぁ。『シコ踏んじゃった』という相撲映画の前例もあることだし・・・。
(2003/09/16)