『原理主義とは何か −アメリカ,中東から日本まで−』(小川 忠,講談社現代新書)
 昨年から集中的に,民族紛争,宗教問題関連の本(新書だけどね)を読んでいるが,これはそれらの問題の原因の一つと思われる原理主義についてまとめている本。ここではアメリカで勢力を広げつつある原理主義の現状(いわゆるネオコンはこの一派),エジプトの「イスラーム集団」,ホメイニによるイラン革命,インドで大きな勢力になりつつあるヒンドゥー・ナショナリズム,そして本居宣長に始まり第二次大戦に突き進む原動力となった日本の原理主義について詳細に分析し,何が原理主義を生みだすのかについて論を進める。

 そして,現在,先進国で主流になっている「社会的・経済的貧困が原理主義を生み,テロリズムを生みだす」というのが間違っている事を明らかにする。あのビンラディンは大富豪の家に生まれ,経済的に恵まれ,高度の教育を身につけていたし,飛行機を乗っ取ってビルに突っ込んだアタも中流家庭に生まれ,ドイツで最先端の知識と技術を身につけていた。他の原理主義の教祖達も中流以上の家庭の生まれであり,信者達もそうだ。決して,経済的に貧困だから原理主義やテロに走るわけではないのである。
 彼らがそれらに走るのは,自分達の文化や伝統が無視され,不当に卑しめられているという屈辱感を感じているからだ。つまり,彼らの根底にあるのは感情なのである。だから,彼らの文化が最も輝いていた教祖の時代が正しく,その後の時代は誤った方向に進んでしまったと考える。その原因は外来の文化であり外部から入り込んだ異分子にあると考える。そして原理主義が生まれる。

 これが正しいとすると,現在のアメリカが行なっているイラク復興は根本から間違っている事になる。イラクの国民が望んでいるのは金ではないし,社会がアメリカ化してアメリカのように裕福になる事でもない。今アメリカに必要なものはイラクの国民と対話することであり,自分達の価値観を押し付ける事ではない,という結論になるはずだ。

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