《最凶女装計画 White Chicks》 (2004年,アメリカ)


 《最凶女装計画》というタイトルを見て,おっ,これは面白そうとレンタルビデオ屋さんで借りる人って,あまりいないと思う。ところが中身は正真正銘の大傑作なのだ。アクションシーンは迫力あるし,ほろりとさせるところはあるし,会話はセンスがいいし,有名映画のパロディーシーンはおかしいし,馬鹿になりきるところは馬鹿になりきっているし,お下劣シーンはあるし,最初はしょうもない映画だなぁ,と思いながら見たんだけど,途中からどんどん引き込まれ,最後は感動しちゃいましたよ。真ん中当たりでおチンチンのオモチャ(いわゆる,大人のオモチャって奴ね)を振り回すシーンがあるんでお子さまには見せられないけど,それを差し引いても素晴らしかったな。

 どういう映画かというと,ドジばかりしているFBI捜査官の黒人二人組が主人公。その頃,セレブ女性が脅迫されると言う事件が起こるんだ。それでこの二人がセレブ姉妹(誰が見てもヒルトン姉妹がモデルだぞ)の護衛をするんだけど,ちょっとしたミスで姉妹の顔にちっちゃな,ちっちゃな傷を付けちゃう。「これじゃ,外に出られないわ」って二人が言うもんだから,黒人二人組がセレブ姉妹に変装(=女装)して身代わり(?)となってパーティー会場やファッションショー会場に潜入捜査するという,ドタバタ・コメディーなんですよ。


 この二人,誰がどう見たって顔を白塗りしている女装男性なんだけど,誰もそれに気が付かないどころか,本物のセレブ姉妹だと思って声をかけてきたり,言い寄って来たりするの。久しぶりにあったセレブ友達が,「二人とも,いつもとちょっと違うわ。あっ,背が高くなっているじゃない」って言うんだけど,「それはね,膝を手術して身長を伸ばしたからよ」っていうとそれを信じちゃうどころか,「私もしようかな?」なんて言い出す始末。この不自然さがたまらくいいぞ。

 誰も女装だって気が付かないどころか本物だと信じている,という強引な設定なんだけど,映画の後半,仕草が次第に女らしくなっていって,おまけにこの女装二人組がどんどん可愛く見えてくるんだ。

 で,このセレブ姉妹と超仲が悪いセレブ姉妹ってのがいて,これはオルセン姉妹のパロディーかな。この二人が意地が悪いの何のって。しかも意地が悪いだけじゃなくって頭も悪い。ビーチで雑誌を見ているシーンがあるんだけど,「見て,この痩せこけた子供たち!」って言うの。こりゃてっきり,「可哀想ね」というかと思ったら,「見て,この細い腕。羨ましいわ」って言いやがるの。そしてら「でも,こんなにお腹が膨れたら,臍ピアスができないじゃない」だってよ。オルセン姉妹,馬鹿だねぇ・・・っていうか,オルセン姉妹が見たら怒るだろうなぁ。


 初めは馬鹿な映画だなぁ,と思っていたんだけど,これって人種差別とか階級差とか,そっちの方面を思いっきり笑い飛ばしているんだよ。しかも,深刻なテーマを軽快にけ飛ばしているんだ。

 「白人・女性・セレブ」の姉妹に変装するのが「黒人・男性・庶民」だし,セレブ姉妹の服を着て顔を白塗りしただけでホテルの支配人も雑誌編集長も本物だと思っちゃう,ってのも強烈だし,「黒人みたいなお尻をしている白人女性」ばかり追いかけているマッチョの黒人スポーツ選手も登場するけど,この嗜好もなんだか考えさせるよなぁ。こいつに言い寄られるのは女装の片方で,何とかして嫌われようとしてレストランで手づかみでステーキを食ったり,臍毛(!)まる出しでゲップしたりするんだけど,ますます「君ってなんて可愛いんだ」と言う始末。で,最後のところで正体を明かして黒人だと知ったとたんに怒り出す(どうも,黒人だというところで怒っただけで,男だから怒ったわけじゃないみたい)。こいつ,肌の色とケツの大きさしか見てなかったのかよ。


 女の子同士のパジャマパーティー(っていうんだっけ?)で一人の女の子が,好きな男の子と長続きしない,いつも振られてばかり,と悩みを打ち明けられるシーンで,女装片割れが,「あなたは安い女と見られているだけ。そんな男の誘いにのっちゃダメ。あなたはそんな女の子じゃないわ」ってアドバイスするんだけど,このシーンがちょっぴりジーンときます。そして,「よかったら,今日の夜,うちにおいでよ」って男の子に誘われたとき,彼女は勇気を奮って「馬鹿にしないで! そんな安っぽい女じゃないわ!」って啖呵を切り,ぶっ飛ばしちゃうのだ(ぶっ飛ばすのは女装の一人だけど)。これがまた格好いいのだ。最初は単なる頭の軽い女の子だったけど,この「ニセ女装ヒルトン姉妹」と一緒にいるうちに,次第に成長・変化していく姿がまたいいのである。


 ちなみにこの映画は,「最悪映画賞」として有名なラジー賞候補に挙げられたようですが,この傑作をラジー賞候補にした奴はしょうもない馬鹿だと思う。

(2007/02/10)

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