『自炊力革命 −オヤジたちは家庭内自立をめざす−』(パッククッキング倶楽部メンズ部会編著,BABジャパン)


 人間を50年近くやっていると,結局,生きているって事は食って出すことの連続だな,なんて感じてくる。食うことができなくなるか,排泄ができなくなると,たいてい人間,弱ってくる。他人のお世話にならないと生きていけなくなる。食うことと出すこと,生の根元である。

 そういう「食うことと出すこと」を雑誌名にした雑誌がある。『タベダス』である。最初この書名を見た時,なんて直裁的なタイトルだな,と思っていたが,読んでいるうちに非常に味わい深い雑誌名だな,とわかってくる。「人間,食べて出せれば,とりあえず生きていける。さあ,今日も食べて出そうぜ」というガッツを感じる。


 そういう『タベダス』の発行人,松井さんから素敵な本が届けられた。それが本書である。何しろ,ポリ袋と電気ポットだけで多種多様な料理を作っちゃおうよ,という本である。まず,この「ポリ袋とポットだけ料理」と聞いて,それって本当?,と思わないだろうか。従来の料理の常識からあまりにかけ離れているために,どうしても脳味噌が「そんなの,できる訳ないよと」と拒否してしまうはずだ。やはり料理というのは鍋やフライパンを使わないと作れない,という先入観が邪魔するのだ。

 だが,事実は小説より奇なり,だ。多くのオヤジたちがこの方法でさまざまな料理を作り,家族や地域の人たちを驚かせているのである。しかも彼らは揃いも揃って料理経験ゼロなのである。いわば,「料理童貞」である。そういう童貞君たちが,電気ポットや電気釜を武器にプロの味やお袋の味に挑戦しているのである。しかも,一口食べると誰しも唸る味なのである。それが本書の提唱するパッククッキングなのだ。


 本書では,この調理法の初心者でも簡単にできる料理として,焼きそば,カレーライス,蒸しパン,お粥の作り方を詳しく(・・・といっても簡単そのものだが)説明している。調理法といってもどれも大体同じでシンプルそのものだ。

  1. 材料を揃える。
  2. 適当に切る。
  3. 材料をポリ袋(100度の温度に耐えられるもの,100円均一ショップで売っている)に入れ,中の空気を抜き,袋の口を縛る。
  4. 沸騰させた電気ポットに袋ごと入れる。
  5. タイマーをセットしてポットの〔再沸騰ボタン〕を押し,タイマーが鳴ったら袋を引き上げ,皿に盛る。

 これだけである。これ以上簡単にできないよ,というシンプルさである。ちなみに,本書で「こういう料理も作れるよ」と書かれている料理を列記すると,豚肉のスペアリブ,親子丼,麻婆豆腐,玄米ご飯と味噌汁,お粥,サンマの蒸し煮,小松菜の煮浸し,里芋の煮っ転がし,鰯の酢醤油煮・・・と,いずれも堂々たる料理であり,いわゆる「お袋の味・家庭の味」系である。電気ポットとお袋の味のギャップが何より楽しい。

 そして,後始末が簡単,というか,ほとんど不要である点もいい。ポットの中のポリ袋さえ破けなければ(破けないように空気を抜いている),汚れるものが何もないのである。せいぜい,包丁と盛り付ける皿と箸を洗えばいい程度である。鍋も釜もフライパンも汚れないし,周囲に油が飛び散ることもない。ポリ袋が破れるなんてことがなければポットも汚れない。後始末が不要というのも,いいよなぁ。


 本書によると,もともとは熟年離婚をいかに回避するか,というのが発端だったらしい。いわゆる「2007年問題」である。家事もできず料理も作れない邪魔オヤジが定年を迎え,日本全体に大量発生するのである。そういうオヤジたちが,「今日の昼飯,何かな?」と毎日言ってくるのだ。考えるだけでうざったい。ちなみに本書によると,熟年離婚の直接の引き金は,この「今日の昼飯,何?」という夫の一言なんだそうだ。朝夕の食事だけならまだ我慢できるが,昼飯まで作らされては奥さんは外出もままならないのだ。ううむ,身につまされる話だなぁ。私も危ないなぁ。そのためにも,オヤジたちは電気ポットで自分の料理くらい作ってみようよ,と提案しているのだ。

 さらに,この調理法が最大の威力を発揮するのは災害現場だそうだ。これも十分納得できる。災害現場では最初の数日はおにぎりと乾パンで何とかなるが,さすがに3日,4日となると不満が出てくる。温かい料理が食べたくなる。そこで,パッククッキングの登場だ。かなりの大災害であっても,3日目ともなると電気はたいてい通っているし,水も何とか手にはいる。しかしガスはまだ開通していない(水漏れは人身事故にならないが,ガス漏れは二次災害を起こす)。そこで,ポリ袋と水とちょっとした調味料と電気ポットがあれば,作りたての蒸しパンとカレーライスが食べられるのだ。「これは災害時に威力を発揮する男の料理である」と本書にあるが,恐らく間違いないだろうと思う。


 電気ポットだけでいいなら,ちょっと作ってみようかな,と思わせるし,何より読んで元気が出てくる本だ。

 なお,もっとたくさんの料理を作ってみたいという人には,下記の本が参考になるそうだ。

 詳しくは下記サイトをご覧下さい。


 ・・・と,ここまで書いておきながら,肝心の電気ポットを持っていないことに気がついた。こりゃ,買うしかないな。買って取りあえず,焼きそばを作ってみようかな。酒の肴にもなるし・・・。

(2007/02/01)

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