《セルラー》 (2004年,アメリカ)


 何という面白い映画なんだろう。なんてよくできた映画なんだろう。なんて楽しませてくれる映画なんだろう。冒頭から最後のエンドロール(って言うんだっけ)まで,本当に一瞬たりとも目が離せないし,離したくない作品だった。どんな一言も聞き漏らしたくないのだ。ずっと緊張感が持続するんだけど,それがとても心地よいのである。


 主人公は高校で理科を教えている女性教師。優しい夫と10歳くらいの息子一人と暮らしている。その家庭に突如,数人の男達が銃を振りかざして乱入し,家政婦を射殺し,彼女は無理矢理連れ出されて人気のない廃工場に監禁される。

 彼らが夫を狙っていることはわかるが,なぜ夫が狙われているのかが全く理解できない。あまつさえ,夫の居場所を聞き出すために,彼女の息子を誘拐しようとしている。

 彼女が監禁されている部屋にあるのは一台の壊れた電話機だけ。暴漢の一人が使えないように叩き壊したのだ。彼女はその壊れた電話機に命運を託す。電気の知識を駆使して電線を繋ぎ直し(さすがは理科の先生!),外部への連絡を試みるのだ。しかし,その電話がどこの誰に繋がるかは全く判らない。でも,偶然に電話に出た見ず知らずの相手に事情を説明し,警察に連絡して貰わなければいけない。でないと,息子と夫の命がない。彼女は必死に電話が通じるように電線同誌を何度も何度も接触させる。

 そしてついに一台の携帯電話に繋がる。だが,その電話の持ち主は,海辺で女の子をナンパすることしか頭にない若者だった。何しろ,「あんたはあまりにも軽すぎ! いつもいい加減。それが嫌なの!」と彼女に振られたばかりのお兄ちゃんだ。彼女の言葉が彼のすべてを物語っている。よりにもよって,最も頼りない奴に電話がかかってしまったのだ。

 さて,携帯電話が鳴って出てみると,見ず知らずの相手で,おまけにいきなり「私は監禁されていて,夫が狙われているの。助けて!」なんて事を聞かされたらどう思う? 普通なら,冗談か作り話だと思うだろう。ましてこの軽薄兄ちゃんは女の子と仲良くなろうとするのに必死である。そんな訳のわからない電話なんて早く切ってしまいたい。当然である。

 しかし,その電話が切られてしまったら,もう一度かけ直すことは不可能だ。彼が唯一の命綱だ。電話が切れたとき,自分も息子も夫も殺されてしまう。生き延びるためには,彼と会話を続けるしかない。


 とにかく,ナンパ野郎役の俳優さんがいいです。電話を切りたくて切りたくてたまらないけれど,あまりに必死な女性の声に次第に状況が掴めてきて,彼女とその家族を助けるためには自分が行動するしかないと決断するまでの表情の変化がとても自然だ。普通の若者が自分にできることを必死でしていくうちに成長する姿が感動的だ。

 退職間近の刑事さんもまたいい味を出している。退職して奥さんと美容院を経営する準備で忙しいのだが,ふとしたことからこの事件に関わり,次第に事態の異常さに気が付くのだが,その鋭い観察眼がいかにもたたき上げの刑事という感じで頼もしい。警察官としての誇りを最後まで失わない男気が最高に格好いい。

 そして,ヒロイン役同様,観客にも事件の真相がなかなか明かされず,ジグソーパズルのピースが一つ一つ加わるように謎が明らかになっていく過程も,登場人物と一緒に推理をしていく気分になっていいのである。映画の後半,事件の全容が見えるようになったときは爽快そのものだった。謎解きに関しては,不自然な点は殆どなかったように思う。


 そして,緊迫した場面の連続でもユーモアを忘れない。たとえば,携帯電話の電池が足りなくなって切れかかるシーン。ここで電池が切れたら万事休す。彼は必死になって充電器を売っている店を探す。ようやく見つけたところは開店セールの真っ最中で店は客でごった返している。充電器を買おうと思って店員に言っても,「整理券をお取り下さい」の一点張り。さあ,あなたならどうする? 必死なシーンなんだけどおかしいんだよね。こういうエピソードが随所に挟まれ,見事な緩急のリズムを作っている。


 とにかく,この見事なストーリー展開と緊迫感,登場人物たちの機知と決断力と行動力に酔いしれて欲しい。超お勧め映画である。

(2006/12/11)

 

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