暇つぶしには最高のお洒落な詐欺師の映画です。主演はレオナルド・ディカプリオ,彼を追う刑事がトム・ハンクスという豪華二枚看板で,おまけにスティーブン・スピルバーグ監督となれば面白くないわけがないです。140分近い映画でしたが,最後まで楽しめました。
でも,見終わった後に何にも心に残らないところが弱点というか難点かな? ま,そういうのを求めず,面白い映画ならいいよ,という人にはお勧めです。
どうやら,実在した詐欺師を主人公にしたらしいです。高校生のフランク君が両親の離婚話にショックを受けて自宅を飛び出し,それから生活のために小切手偽造に手を染めてゆく,というお話です。逮捕された時,フランク君はまだ未成年ですから,わずか1年ちょっとの間に,パンナムの副操縦士になりすまして小切手詐欺で大金をせしめるわ,医者になりすますわ,弁護士の試験に合格して婚約者の父親(検事をしている)を騙すわ,スーパーマン顔負けの働きです。というか,わずか数年の間にこれだけのことができるんでしょうか?
そしていくら実話とはいえ,たかが17,8歳の高校生にみんな騙されちゃったのって,ちょっと不思議ですよね。
婚約者には28歳と10歳サバを読んで騙していたわけだし,まだ真面目な高校生の頃には転校先の学校で,新任のフランス語教師だと嘘をついてみんなを騙しちゃったというのですから,フランクって何歳に見えていたんでしょうか。余程老け顔だったのでしょうか。このあたりの不自然さが最後まで気になりました。
ちなみに,医者に化けていた時の肩書きは「救急部部長」だったと思いますが,いかに1960年代後半といえども全くのド素人が医者や看護した地を騙し続けられるとはちょっと信じがたいです。この時彼は,テレビの救急室を舞台にしたドラマを見て救急部トップの態度を真似し,そう振る舞うことで他の医者が騙されちゃった,という設定になっていますが,「先生,他に医者がいません。一緒に手術に入って下さい」という状況が一度も起こらなかったというのは,幸運を通り越して不自然そのもの。
最初の小切手偽造はうまくいかないんだけど,パンナムの制服を手に入れ(この手口はお見事!),それを着たら信用されてうまく騙せた,というのは人間真理を突いてますね。あるいは,彼を追うFBI捜査官ハンラティが彼のアパートに踏み込み,銃を突き付けられる絶体絶命の場面で彼が見事に言い逃れしてハンラティを煙に巻いて信用させ,逃げ出したかというあたりもきれいな逃げ方です(高校生に騙されるFBI捜査官ってのも情けないけど・・・)。
前にも書いたけど,高校生が家出をして,飛行機の操縦士や医者に成りすまして多数の小切手詐欺をして莫大な金を騙し取り,逮捕されたときにはまだ未成年だったというのは,どう考えても時間軸が狂っているような気が・・・。2年でこれだけの犯行を働くというのは,働きすぎだぞ,フランク。
あと,ハンクス演ずるハンラティとフランクが擬似的父息子関係みたいになってきて,クリスマス・イブの夜になると彼に電話をかけて会話をするのが唯一の楽しみ,というのはちょっと泣かせます。
で,結局はフランクは捕まって18年の刑を言い渡されます。判明しているだけで400万ドルの被害ですから,現在の日本円にしたら10億円くらいになるんでしょうか? しかし,小切手偽造に関する彼の知識があまりに膨大で正確なため,ハンラティは連邦捜査局に掛け合い,彼の身元保証人になって小切手偽造特殊捜査官としてFBIに就職させるのですよ。一度は逃げようとするフランクなんだけど,「お前は逃げる必要はない。ほら,誰も追っていないだろ?」とかいうハンラティが声をかけるシーンはちょっぴり感動的。
映画は最初,フランクがテレビ番組に出演しているところから始まります。「本物は誰だ!」という感じの番組で,3人に質問して一人の本物を探り当てる,という番組なんですが,どうも本当に出演したらしいです。400万ドル詐欺犯をFBI職員にするとか,テレビに出演させるとか,ここらの感覚は日本人の感覚とかなり違っているような気がしますが,いかがでしょうか。
(2006/11/29)